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とあるキャロルの涙
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アルデバラン邸は主人の意を組み冷ややかな世界に包まれていた。
それでもミア・サットンは怯えたウサギの様に可愛らしく震えている。
オルコット子爵は最早、何が真実なのか分からない様子だった。
「君の話によると、王都では誘拐事件の話で盛り上がっているとか?」
「グスッ・・・そうです。
なんて恐ろしい事でしょう。
ダチュラの街には大勢犯罪者がいます。
大方、街の方が連れ去ったのでしょう。」
ミアの言葉をクロス・アルデバランは鼻で笑った。
「我が街の犯罪比率については同意しよう。
この街ほど、他の領地ほど違う街はないだろうからね。
ただ、おかしいのは何故に君がキャロル・オルコット嬢が誘拐事件に巻き込まれた事を知っている?
キャロル嬢は貴族の娘。
王都でも国王陛下より箝口令が敷かれオルコット家並びにクルト家以外には報告を受けた騎士の一部と国王陛下直属の騎士団しか知らぬ事。
それを何故、伯爵家の次女である貴方が知っているのだ?」
クロスの指摘にオルコット子爵とクルト家の親子はハッとした。
しかし、ミアは不思議そうに首を傾げた。
「しかし、噂になっておりました。
我が家に出入りする商人が口にしておりましたもの。
少女がいなくなった話を・・・お可哀想に。」
眉を下げ、目端を拭うミアにクロスは再び笑い出した。
「あぁ、その話か。
確かに王都では誘拐事件があった。
平民のな。」
ミアは信じられないような顔でクロスを見ると思わず呟いた。
「まさか・・・。」
「そのまさかなのだよ。
ミア・サットン伯爵令嬢。
とある宿で働く女の娘が行方不明になってな、王都中で騒ぎになり探し回ったそうだ。
結局、女の別れた夫・・・少女の父が連れ出していたが分かり逮捕の後、治安維持隊にコッテリと絞られたらしい。
少女も無事に母と会えたそうだ。
偶然にも少女がいなくなったのもキャロル嬢が誘拐されたのと同じ日だったらしい。
君が商人から聞いたのは、そちらの少女の話だ。
改めて聞こう・・・・何故、キャロル嬢が誘拐されたと知っている?」
先程までとは違い、本気で震え始めたミアは答える事が出来ずにいた。
そんなミアにオルコット子爵は信じられない物を見ているように唖然としていた。
「何故・・・貴方は優しい女性のはずだ。
私達は確かに縁がなかったが、こんな事するとは思えなかった。」
オルコット子爵の言葉にミアは肩をビクッとさせた。
それでも話さないミアをクロルは放っておきオルコット子爵とクルト家の親子の前に座った。
「この女は優しいのではない。
優しい女を演じるのが上手い女なのだ。」
クロスの捨て吐くような言い方に一同が驚いた。
「貴族の人間など、表と裏が違う事など当たり前だろう。
それを疑わなかったオルコット子爵は周りの人間に恵まれている。
しかし、この女の悪意に気づいた人間がいた。
キャロル嬢だ。」
「娘が・・・?」
驚いた顔をしたオルコット子爵にクロスは苦笑した。
「言っていたよ。
《父親が幸せなのならば再婚に反対はしない。》
そう・・・キャロル嬢は決して自分に新しい母などいらないという我儘で貴方の再婚に反対をしていたわけではない。
この女、ミア・サットンの隠し持つ裏の顔に気づいたから反対したのだ。
子供とは大人とは違う視点で物事を見る。
キャロル嬢はとても聡い子だ。」
その言葉に初めてクロスを睨みつけたミアにオルコット子爵とクルト家の親子は驚いた。
「伯爵家の自分が子爵如きに振られたのが屈辱だったか?
それとも、大商会であるクルト家と縁続きであるオルコット子爵家の金が使えなくて悔しかったか?
しかも、キャロル嬢はオルコット子爵家のみならずクルト家の相続の対象者でもある。
伯爵家の次女であるお前よりも金持ちだ。
そんな小娘に自分の計画を邪魔されて腹が立っただろう。」
徐々に怒りの表情になったミアはクロスに襲いかかった。
「アンタなんかが私の何を分かるのよ!
“悪魔貴族”が正義面して、偉そうにしないでよ!
私は幸せになるはずだった!
あの子さえいなければ幸せになるはずだったのよ!」
髪を振り乱して叫ぶミアを筆頭執事のブルが押さえ込む。
驚くオルコット子爵とクルト家の親子とは違いクロスは大笑いし始めた。
「ありがとう。ミア・サットン。
君を逮捕するのに証拠が薄かったから困っていたんだ。
私はクロス・アルデバラン。
君が“悪魔貴族”という私は侯爵だ。
我が邸において、私を襲った君に逮捕する理由ができた。」
ミアはクロスの言葉に呆然とした。
自ら墓穴を掘った事に気づいたのだ。
「それから、君は間違っている。
キャロル嬢がいたから君は結婚できなかったのではない。
そうだろう?
オルコット子爵。」
クロスに見つめられ、オルコット子爵は頷いた。
「ええ、そうです。
サットン伯爵令嬢。
私はキャロルがいたから結婚しようと思った。
あの子が社交界に出れば一緒に寄り添ってくれる女性がいた方が良いと考えたからです。
だから、キャロルがいなくなれば私が結婚する意味がない。
一生独り身でいただろう。」
「・・・うそよ。
そんな・・・そんな事・・・嘘よ!!」
ミア・サットン伯爵令嬢は自分の望む事と違う現実に絶望した。
それでもミア・サットンは怯えたウサギの様に可愛らしく震えている。
オルコット子爵は最早、何が真実なのか分からない様子だった。
「君の話によると、王都では誘拐事件の話で盛り上がっているとか?」
「グスッ・・・そうです。
なんて恐ろしい事でしょう。
ダチュラの街には大勢犯罪者がいます。
大方、街の方が連れ去ったのでしょう。」
ミアの言葉をクロス・アルデバランは鼻で笑った。
「我が街の犯罪比率については同意しよう。
この街ほど、他の領地ほど違う街はないだろうからね。
ただ、おかしいのは何故に君がキャロル・オルコット嬢が誘拐事件に巻き込まれた事を知っている?
キャロル嬢は貴族の娘。
王都でも国王陛下より箝口令が敷かれオルコット家並びにクルト家以外には報告を受けた騎士の一部と国王陛下直属の騎士団しか知らぬ事。
それを何故、伯爵家の次女である貴方が知っているのだ?」
クロスの指摘にオルコット子爵とクルト家の親子はハッとした。
しかし、ミアは不思議そうに首を傾げた。
「しかし、噂になっておりました。
我が家に出入りする商人が口にしておりましたもの。
少女がいなくなった話を・・・お可哀想に。」
眉を下げ、目端を拭うミアにクロスは再び笑い出した。
「あぁ、その話か。
確かに王都では誘拐事件があった。
平民のな。」
ミアは信じられないような顔でクロスを見ると思わず呟いた。
「まさか・・・。」
「そのまさかなのだよ。
ミア・サットン伯爵令嬢。
とある宿で働く女の娘が行方不明になってな、王都中で騒ぎになり探し回ったそうだ。
結局、女の別れた夫・・・少女の父が連れ出していたが分かり逮捕の後、治安維持隊にコッテリと絞られたらしい。
少女も無事に母と会えたそうだ。
偶然にも少女がいなくなったのもキャロル嬢が誘拐されたのと同じ日だったらしい。
君が商人から聞いたのは、そちらの少女の話だ。
改めて聞こう・・・・何故、キャロル嬢が誘拐されたと知っている?」
先程までとは違い、本気で震え始めたミアは答える事が出来ずにいた。
そんなミアにオルコット子爵は信じられない物を見ているように唖然としていた。
「何故・・・貴方は優しい女性のはずだ。
私達は確かに縁がなかったが、こんな事するとは思えなかった。」
オルコット子爵の言葉にミアは肩をビクッとさせた。
それでも話さないミアをクロルは放っておきオルコット子爵とクルト家の親子の前に座った。
「この女は優しいのではない。
優しい女を演じるのが上手い女なのだ。」
クロスの捨て吐くような言い方に一同が驚いた。
「貴族の人間など、表と裏が違う事など当たり前だろう。
それを疑わなかったオルコット子爵は周りの人間に恵まれている。
しかし、この女の悪意に気づいた人間がいた。
キャロル嬢だ。」
「娘が・・・?」
驚いた顔をしたオルコット子爵にクロスは苦笑した。
「言っていたよ。
《父親が幸せなのならば再婚に反対はしない。》
そう・・・キャロル嬢は決して自分に新しい母などいらないという我儘で貴方の再婚に反対をしていたわけではない。
この女、ミア・サットンの隠し持つ裏の顔に気づいたから反対したのだ。
子供とは大人とは違う視点で物事を見る。
キャロル嬢はとても聡い子だ。」
その言葉に初めてクロスを睨みつけたミアにオルコット子爵とクルト家の親子は驚いた。
「伯爵家の自分が子爵如きに振られたのが屈辱だったか?
それとも、大商会であるクルト家と縁続きであるオルコット子爵家の金が使えなくて悔しかったか?
しかも、キャロル嬢はオルコット子爵家のみならずクルト家の相続の対象者でもある。
伯爵家の次女であるお前よりも金持ちだ。
そんな小娘に自分の計画を邪魔されて腹が立っただろう。」
徐々に怒りの表情になったミアはクロスに襲いかかった。
「アンタなんかが私の何を分かるのよ!
“悪魔貴族”が正義面して、偉そうにしないでよ!
私は幸せになるはずだった!
あの子さえいなければ幸せになるはずだったのよ!」
髪を振り乱して叫ぶミアを筆頭執事のブルが押さえ込む。
驚くオルコット子爵とクルト家の親子とは違いクロスは大笑いし始めた。
「ありがとう。ミア・サットン。
君を逮捕するのに証拠が薄かったから困っていたんだ。
私はクロス・アルデバラン。
君が“悪魔貴族”という私は侯爵だ。
我が邸において、私を襲った君に逮捕する理由ができた。」
ミアはクロスの言葉に呆然とした。
自ら墓穴を掘った事に気づいたのだ。
「それから、君は間違っている。
キャロル嬢がいたから君は結婚できなかったのではない。
そうだろう?
オルコット子爵。」
クロスに見つめられ、オルコット子爵は頷いた。
「ええ、そうです。
サットン伯爵令嬢。
私はキャロルがいたから結婚しようと思った。
あの子が社交界に出れば一緒に寄り添ってくれる女性がいた方が良いと考えたからです。
だから、キャロルがいなくなれば私が結婚する意味がない。
一生独り身でいただろう。」
「・・・うそよ。
そんな・・・そんな事・・・嘘よ!!」
ミア・サットン伯爵令嬢は自分の望む事と違う現実に絶望した。
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