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とあるキャロルの涙
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「あら、目が覚められました?」
キャロルが暖かいベットで目を覚ますと、メイドが笑顔で声をかけてきた。
「こちらはリゲル伯爵様のお屋敷ですよ。
さぁ、お目覚めに喉が渇いたでしょう。
お水のお飲み下さい。」
甲斐甲斐しく世話をしてくれるメイドはキャロルが不安がらないように説明をしてくれた。
「助け出されてから、このお屋敷に運ばれていらっしゃいました。
脱水症状が見られましたが、お医者様が診てくださいましたから大丈夫ですよ。
お嬢様がお目覚めになったとご主人様に報告をして参りましょう。
お腹に優しいものを召し上がりませんと、力が出ませんでしょう?
用意して参りますね。」
まだ、呆然とするキャロルの背中にクッションを置き座りやすいようにするとメイドはカーテンを開いて庭を見せてくれた。
静かに出ていくメイドを目で追うとキャロルは庭に目をやった。
季節の花が咲いている綺麗な庭だった。
コンコンっ
ノックがしてドキッとすれば、若い男性が部屋を覗き込んでいた。
「やあ、君が起きたってリサに聞いてね。
様子を見にきたんだ。
入っても良いかい?」
キャロルがコクンと頷くと青年はニッコリしてベットの脇に置かれた椅子に座った。
「初めまして。
僕はノエルだよ。
詳しい事は父が話すだろうから、後で聞くと良い。
僕はこれを返しに来たんだ。
君の治療に邪魔だから外されたけど、大切そうに握りしめていたから預かっていたんだ。」
そうしてノエルが差し出したのはハンカチに包まれていたペンダントだった。
キャロルはハッとして胸を押さえ、無いことに気づくと慌てたようにペンダントを手にした。
目を瞑り、ギュッとペンダントを握りしめる彼女にノエルは優しく微笑んだ。
「とても綺麗なアマゾナイトのペンダントだね。」
キャロルは頷くと小さな声で話し出した。
「母から貰ったのです。
母との思い出は全て大切ですが、これが一番の宝物です。」
「お母君は亡くられているのだったね。
そうか、やっぱり早めに返して正解だったよ。
お母君が君を守ってくれていたんだね。」
ノエルの言葉にキャロルは何度も頷いた。
コンコン
「失礼いたし・・・・まぁ、ノエル様。
まだお休みのレディをご訪問されるなど、奥様に叱られますよ。」
「彼女の大切なものを返しに来ただけさ。
もう行くよ。
それじゃ、また後でね。」
にこやかに手を振り、去って行くノエルの姿を見送るとリサは苦笑すると部屋にカートを運び込んだ。
「今の方は・・・。」
「チェイス・リゲル伯爵の御長男ノエル様です。
とても優秀な方で人当たりも良いのですが何せ悪戯っ子なので、よく驚かされます。」
クスクス笑いながら準備をするメイドのリサにキャロルは不思議そうに首を傾げた。
「大人でいらっしゃるのに?」
「えぇ、ですから厄介なのです。フフフ
さぁ、準備ができましたよ。
少し熱いですからね。
少しづつお召し上がりください。」
鍋の中から湯気を出している物を小分けにするとリサは優しく差し出した。
恐る恐る手を伸ばしたキャロルはフーフーと冷ましてから口にする。
「・・・おいしい。」
ポタージュで作られたパン粥が疲弊していたキャロルのお腹に落ちていった。
微笑むキャロルにリサは安心したように目を細めたのであった。
____________
「お嬢さん、起きましたよ。
聞きました?」
父の執務室にノックもせずに入るとノエルはニコニコしながら入って行った。
「あぁ、リサから報告があった。
今頃、何か食べさせている頃だろう。
もう少し後で会うとしよう。」
「そうですね。
まだ、状況が飲み込めていない感じでしたからね。
その方が落ち着いて話せそうですよ。
しっかりした子っぽいですし。」
「・・・お前、もう行ったのか?」
「はい。ペンダント返しに行きました。
やっぱり大切なものだったみたいです。
返すと安心したようでした。
大丈夫ですよ。
ペンダント調べても何も出ませんでしたから。
母君との思い出の品らしいです。」
抜け目ない息子に呆れながらもチェイスは読んでいた資料に目を落とした。
「どうです?
実行犯の男はしゃべりました?」
「たいして我慢もせずに話し始めたらしい。
今じゃ、ペラペラと聞いていない事まで教えてくれているようだ。」
鼻で笑うとチェイスは書類をテーブルに放り投げた。
「結局、父親が関係しているのですか?
会わせて大丈夫なんですか?」
「あちらはクロスに任せているが大丈夫だろう。
父親は決して悪人ではない。
ただ、貴族の男だと言う事だ。
いつの時代も面倒な事だ。
お前も大概選択を間違えると苦労するぞ。」
「僕の事は良いですよ。
それよりも、どうするんです?
クロスおじ様は何と?」
するとチェイスは悪い顔でニヤリとした。
ノエルは、その顔を知っている。
父が悪い顔で笑う時には必ず、何かが起きる。
ダチュラという街の特異性を分かっているノエルは父やアルデバラン侯爵の考えを幼い頃から学んできた。
それは幼馴染であり親友であるアルデバラン家嫡男であるサムも同じだった。
特に父達は子供が絡む事件には激昂するほど厳しい。
おそらく、幼い頃の経験が彼らに怒りの火をつけるようだ。
何はともあれ、己達の問題をダチュラに持ち込んだ愚か者にノエルは同情した。
“悪魔の貴族”クロス・アルデバランを巻き込んだ、この事件から逃げられるわけがないのだから・・・。
キャロルが暖かいベットで目を覚ますと、メイドが笑顔で声をかけてきた。
「こちらはリゲル伯爵様のお屋敷ですよ。
さぁ、お目覚めに喉が渇いたでしょう。
お水のお飲み下さい。」
甲斐甲斐しく世話をしてくれるメイドはキャロルが不安がらないように説明をしてくれた。
「助け出されてから、このお屋敷に運ばれていらっしゃいました。
脱水症状が見られましたが、お医者様が診てくださいましたから大丈夫ですよ。
お嬢様がお目覚めになったとご主人様に報告をして参りましょう。
お腹に優しいものを召し上がりませんと、力が出ませんでしょう?
用意して参りますね。」
まだ、呆然とするキャロルの背中にクッションを置き座りやすいようにするとメイドはカーテンを開いて庭を見せてくれた。
静かに出ていくメイドを目で追うとキャロルは庭に目をやった。
季節の花が咲いている綺麗な庭だった。
コンコンっ
ノックがしてドキッとすれば、若い男性が部屋を覗き込んでいた。
「やあ、君が起きたってリサに聞いてね。
様子を見にきたんだ。
入っても良いかい?」
キャロルがコクンと頷くと青年はニッコリしてベットの脇に置かれた椅子に座った。
「初めまして。
僕はノエルだよ。
詳しい事は父が話すだろうから、後で聞くと良い。
僕はこれを返しに来たんだ。
君の治療に邪魔だから外されたけど、大切そうに握りしめていたから預かっていたんだ。」
そうしてノエルが差し出したのはハンカチに包まれていたペンダントだった。
キャロルはハッとして胸を押さえ、無いことに気づくと慌てたようにペンダントを手にした。
目を瞑り、ギュッとペンダントを握りしめる彼女にノエルは優しく微笑んだ。
「とても綺麗なアマゾナイトのペンダントだね。」
キャロルは頷くと小さな声で話し出した。
「母から貰ったのです。
母との思い出は全て大切ですが、これが一番の宝物です。」
「お母君は亡くられているのだったね。
そうか、やっぱり早めに返して正解だったよ。
お母君が君を守ってくれていたんだね。」
ノエルの言葉にキャロルは何度も頷いた。
コンコン
「失礼いたし・・・・まぁ、ノエル様。
まだお休みのレディをご訪問されるなど、奥様に叱られますよ。」
「彼女の大切なものを返しに来ただけさ。
もう行くよ。
それじゃ、また後でね。」
にこやかに手を振り、去って行くノエルの姿を見送るとリサは苦笑すると部屋にカートを運び込んだ。
「今の方は・・・。」
「チェイス・リゲル伯爵の御長男ノエル様です。
とても優秀な方で人当たりも良いのですが何せ悪戯っ子なので、よく驚かされます。」
クスクス笑いながら準備をするメイドのリサにキャロルは不思議そうに首を傾げた。
「大人でいらっしゃるのに?」
「えぇ、ですから厄介なのです。フフフ
さぁ、準備ができましたよ。
少し熱いですからね。
少しづつお召し上がりください。」
鍋の中から湯気を出している物を小分けにするとリサは優しく差し出した。
恐る恐る手を伸ばしたキャロルはフーフーと冷ましてから口にする。
「・・・おいしい。」
ポタージュで作られたパン粥が疲弊していたキャロルのお腹に落ちていった。
微笑むキャロルにリサは安心したように目を細めたのであった。
____________
「お嬢さん、起きましたよ。
聞きました?」
父の執務室にノックもせずに入るとノエルはニコニコしながら入って行った。
「あぁ、リサから報告があった。
今頃、何か食べさせている頃だろう。
もう少し後で会うとしよう。」
「そうですね。
まだ、状況が飲み込めていない感じでしたからね。
その方が落ち着いて話せそうですよ。
しっかりした子っぽいですし。」
「・・・お前、もう行ったのか?」
「はい。ペンダント返しに行きました。
やっぱり大切なものだったみたいです。
返すと安心したようでした。
大丈夫ですよ。
ペンダント調べても何も出ませんでしたから。
母君との思い出の品らしいです。」
抜け目ない息子に呆れながらもチェイスは読んでいた資料に目を落とした。
「どうです?
実行犯の男はしゃべりました?」
「たいして我慢もせずに話し始めたらしい。
今じゃ、ペラペラと聞いていない事まで教えてくれているようだ。」
鼻で笑うとチェイスは書類をテーブルに放り投げた。
「結局、父親が関係しているのですか?
会わせて大丈夫なんですか?」
「あちらはクロスに任せているが大丈夫だろう。
父親は決して悪人ではない。
ただ、貴族の男だと言う事だ。
いつの時代も面倒な事だ。
お前も大概選択を間違えると苦労するぞ。」
「僕の事は良いですよ。
それよりも、どうするんです?
クロスおじ様は何と?」
するとチェイスは悪い顔でニヤリとした。
ノエルは、その顔を知っている。
父が悪い顔で笑う時には必ず、何かが起きる。
ダチュラという街の特異性を分かっているノエルは父やアルデバラン侯爵の考えを幼い頃から学んできた。
それは幼馴染であり親友であるアルデバラン家嫡男であるサムも同じだった。
特に父達は子供が絡む事件には激昂するほど厳しい。
おそらく、幼い頃の経験が彼らに怒りの火をつけるようだ。
何はともあれ、己達の問題をダチュラに持ち込んだ愚か者にノエルは同情した。
“悪魔の貴族”クロス・アルデバランを巻き込んだ、この事件から逃げられるわけがないのだから・・・。
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