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とあるキャロルの涙

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 カールとリコの兄妹はダチュラで生まれた生粋のダチュラっ子だ。

 しかしリコが生まれると父の姿が見えなくなり、それから母と3人で生きてきた。

 体を酷使した後に病になった母に変わりカールは街を歩き、お使いをこなして小銭を稼いでいた。
 今では妹のリコも一緒に時には夜に家を出る。
 危険な事もあるが、生きる為と達観していた。

 ウェイン・ハーバーの裏で仕分けの手伝いをしていると噂話が聞こえてきた。
 どこかの街だか誰なのかは知らないが《誘拐》をされた人がいるらしい。
 確かな情報を持っていけばBar  Hopeが買ってくれるらしい。

 そこでカールは数日前から気になっていた民家を思い出し、早速に観察し始めたのだ。


 ずっと空き家だった家に光が灯っていた。
 引っ越してきたのかと思えば窓も開けずに『変だな』とは思っていた。
 寝込んでいた母に聞けば、あの家の持ち主は数年前に死んじゃったから誰も使うはずがないと言う。

『街の管理になったから、入居するなら周辺に通達が来るはずだよ。
 ダチュラは危険な場所が多いからね。
 この辺りの住宅街はお隣さんが誰かを知らせてくれるんだよ。

 変なのがいるのなら夜は家から出ないでおくれ。
 何かに巻き込まれてからじゃ遅いんだから。』

 母の言葉にカールは頷くも民家の監視をやめなかった。

 観察してみれば、益々おかしい。
 昼間から窓を閉め切り、人の気配がするのに出てくる気配がない。
 夕方あたりに男が1人出てくると買い物袋を抱えて帰ってくる。
 夜も薄暗い灯りだが漏れているだけで静かだった。

 カールは昼間にリコとお使いに行くと街は《誘拐》の話で盛り上がっていた。
 我先に情報を掴もとするチンピラや子供達やらから、色々な店先で噂になっていた。
 
 にもかかわらず、あの家の周辺だけは怖いぐらい静かだった。

『何か変だと思ったらBar  Hopeに駆け込め。
 小銭稼ぎもそうだが、またが始まるぞ。』

 何処からか聞こえた言葉にカールはドキンッとした。
 戦争ってなったら母と妹を守れなくなる。
 そこでカールは思い切って母が眠ってから静かに家を出た。

『兄ちゃん。何処行くの?
 リコも行く。』

『危ないからリコはお留守番だ。』

『・・・あの家に行くんでしょ?
 危ないよ。後はリコが見てるから連れてって。』

 妹の説得に応じ、カールはリコの手を握った。

『良いか?何かあったら、俺に構わずBar  Hopeに走れ。
 約束だ。』

『・・・約束。』

 真剣な顔をするカールにリコは緊張して頷いた。

 例の民家の影に隠れていた時だった。
 ゴミを捨て街に向かう男を見届けると、2人は頷きゴミを掴んで走った。

 ネオンが光るBar  Hopeまで来た時にはホッとした。
 それでも初めて訪れる酒場に兄妹は緊張したように近づいた。
 表には誰もいなく、流石に店内に入るのを躊躇ったカールにリコが引っ張った。
 裏手に扉があり耳を澄ませるとキッチンの音がする。

 2人は顔を見合わせノックをした。

 出てきたおじさんはタバコを咥えて人相が悪かったが、カールとリコを見るとしゃがみ込み話を聞いてくれた。
 一緒にゴミ袋を漁っているとおじさんがニヤリと笑った。
 その後は淡々と話は進んだのか、カールとリコはおじさんにミートスパゲッティを作ってもらいお腹いっぱいに食べる事が出来た。

『よし!
 出来たぞ。
 まだ、お前らを帰す事が出来ないけどな。
 これはお前らの母さんの弁当な。
 体に優しいモノが入ってるから食わせてやんな。』

 コックのおじさんがニカっと笑うと2人は目を輝かせた。

『良いの?ありがとう!!
 おじさんのご飯は美味しいから、母さんも喜ぶよ!』

『ありがとう!』

 コックのおじさんは2人の頭をガシガシと撫でてくれた。
 
 良かった・・・カールは安心してウトウトする妹を支えた。

『お前は良い奴だな。』

『リコは俺の妹だから、俺が守ってやるんだ。
 母さんが病気が治るまで俺がしっかりしなきゃ。』

 そんなカールはおじさんが、どんな顔で自分を見ているか知らなかった。


_________

「旦那様。
 “トーラス”から、キャロル・オルコット嬢を見つけたようだと連絡が・・・。
 今夜中に確保するようです。」

 執務を続けていた主人に執事であるノワールは紙を差し出した。
 当主であるクロス・アルデバランは紙を確認するとニヤリと笑った。

「やはり、市民の目は尊いな。
 我らが必死で捜しているのも関係なく簡単に見つけ出してくる。
 今回は子供が見つけたんだそうだ。
 相手はダチュラを舐めているな。
 まだ、オルコット子爵に伝えるな。
 実行犯が分かっても、真犯人が分からなければ帰って来てもキャロル嬢は危険なままだ。」

「はい。救出を優先いたしましょう。
 その後のオルコット嬢は・・・?」

「チェイスにでも匿わせろ。」

 ノワールは微笑むと了解の後、執務室を出て行った。

 最古参の執事ノワールはクロスにとって師匠でもあり父でもある人物である。
 年取った今も筆頭執事はブルに譲るもクロスの理解者であり参謀として支えている。

 1人になったクロスは進めていた仕事をやめ大きく溜息を吐いた。

「いつの日も犠牲になるのは子供か・・・。」

 未だ、危険な身でいるオルコット嬢に同情しながらも真相を明らかにする事で見なくても良い闇が出る事にウンザリするクロスだった。

 
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