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ぽん

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紛い物は雑味が目立つ

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「ギムソンさん。
 この街はな、己が動かなければ誰も動かせないんだよ。
 この街で信用を勝ち取ったのはゴレッジであってアンタじゃない。 
 例え、アンタの部下が優秀であろうと現段階でアンタと仕事をしようとする奴はいないだろうよ。」

「・・・何を。」

 言われている事は理解しても納得できないギムソンは顔を真っ赤にして言葉すら出ずに憤った。

「ゴレッジもまだまだだな。
 よく考えればわかるだろう?
 この数日でお前達を見ていた。
 他の連中がどう判断したかは知らんがね。
 俺の判断は“NO”だ。
 ギムソンさんとする仕事はないよ。」

 はっきりと言い切ったジャン・ドゥに縋るようにゴレッジは言った。

「5年間もお世話になった身です。
 覚悟の上でボスをご紹介しました。
 ボスは“コベ”の市場を全て手に入れた男です。
 物流に関してお力になれるんです。
 どうか、直ぐに判断されないように願います。」

「・・・いいだろう。
 お前が言うのなら見極めよう。
 やってみろ。
 期限は1ヶ月だ。
 証明してみろよ。
 この街にお前らの組織が必要かどうか。」

 ジャン・ドゥの瞳に射抜かれ背筋が凍る思いをしながらもゴレッジは目を逸らさずに頷いた。

「ボスの価値をお見せします。」

「良い部下をお持ちだ。
 ギムソンさん。
 1ヶ月後を楽しみにしていますよ。」

 話は終わりだとでも言うようにスッと立ち上がったジャン・ドゥをギムソンは悔しそうに見上げた。

「ボス。帰りましょう。」
 
 引っ張るゴレッジの手を強引に逃れギムソンはジャン・ドゥは睨みつけた。

「これは良い出会い方じゃないと思うがな。
 覚えておけよ。」

 ジャン・ドゥは呆れたように溜息を吐きスカーに目を向けた。

「おい。何で真っ昼間からカーテンなのか教えてやれ。」

 スカーは無言で窓際に近づき、カーテンを開けた。
 開け放たれた光に目を奪われてたギムソンであったが、次の瞬間。

ピシッピシッパンッ!!

 唐突に窓にヒビが入った。

「安心しろ。ガラスは防弾仕様の強化ガラスだ。
 虫の1匹も入らないよ。
 言っただろう。
 この街はこんな街なんだ。
 気をつけて帰れよ。」

 ギムソンはヒビが入ったガラスを呆然として見ていた。
 外から狙われた銃弾は明らかに全て自分に向けられた物だった。
 無数の撃ち込まれた弾丸は届かなかったとはいえ、ギムソンに衝撃を与えるのに十分だった。

(気をつけて帰れ?
 これで今、ビルを出たらどうなるんだ?)

「帰りましょう。
 ボス。
 今のは威嚇です。
 直接、手を出す気ならとっくに俺達は消し炭ですよ。」

 動く事が出来なくなったギムソンをゴレッジは冷静に促した。


 それから屋敷に帰るまで、どうしていたのかギムソンは覚えていない。
 ただゴレッジが部下達に指示を出して車に乗り込んだ事だけは覚えている。

 屋敷に帰ってくると、出迎えたカトラを抱きしめて寝室に篭ったギムソンを部下達は不安や不満な顔で見ていた。

「どうしちまったんだ?ボスは?
 聞いた話じゃ、白龍のボスにのされたがゴレッジさんが間に入ってまとめて来たって話だ。」

「帰ってきた連中の顔が尋常じゃなかったな。
 銃に狙われたって言ってたから、商談は駄目だったのか?」

「いや、ゴレッジさんは心配するなって言ってたぞ?」

「じゃあ、何でボスは寝室から出てこないんだ?」

 部下の声が聞こえたか聞こえないか、ギムソンは恥辱に耐えるように布団を被った。
 そんなギムソンをカトラは心配しながら抱きしめたのであった。



__________

 客の帰った“ブルーリバー”の5階のフロアで2人の男が話し合っていた。

「思った以上に小粒だったな。」

「はい。
 1ヶ月、どう動くでしょうか?」

「まぁ、どうにもならんだろうよ。
 ・・・ゴレッジを監視しとけ。
 アイツは使える。
 何かあれば拾ってやれ。」

「はい。」

 ジャン・ドゥはタバコに火をつけるとヒビの入った窓から外を見つめた。

「景観が悪いな。
 おい。
 ガラス変えとけ。」

「既に手配をしています。」

 自分の部下の優秀さにジャン・ドゥは微笑んだ。

「異物が紛れ込むと街が煩い。」

 青空の向こうに見えた暗い雲を見つめて嵐の予感を感じているジャン・ドゥであった。

 
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