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ぽん

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新たな寮と新生活

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 夕方から始まった歓迎会という名の宴会は夜深くまで続いた。
 1番にはしゃいでいたソフィは時間が来ると眠ってしまい。
 部屋までギルとルースが送りに行った。

 他にも昼間からお酒を飲み続けていたバンド組も、それぞれ突っ伏して眠りにつき
 ヘロヘロなアレクサンドラをボーイ組とメイド組が引きずりながら部屋へと送り、残ったエドとコックのレスと共にリトゥル・バーニーは後片付けの手伝いをしていた。

「自分の歓迎会だって言うのに、手伝いなんかして律儀な男だね。」

 ニコニコするリトゥル・バーニーにグラスを片手にマダム・マリエッタが呆れた顔をしていた。
 薄化粧にカジュアルなワンピースを着たマダムはいつもより穏やかだった。
 
「そうだよ。リトゥルは良いんだよ?」

 パイプを咥えながら、朝ごはんの仕込みをしているマスターにリトゥル・バーニーは首を振った。
 
(なんであろうと精一杯やろう。自分を迎え入れてくれた人達に応えたい。)

「良いんです。やらせてください。」

 そうしてダイナー・イオの床をモップ掛けするリトゥル・バーニーをマスターとマダムは微笑んで見ていた。




 一仕事終えると、電気を消したダイナーはカウンターの明かりをつけ、残りの数人で酒を楽しんだ。

「にしても、お前も酒飲めんな!」

 コックのレスは楽しそうに自分の為に酒を作っている。
 ジンとトニックウォーターを軽く混ぜ、ライムを絞って残りの実をグラスに沈めた。

「警察官の時代に飲まされました。
 田舎のおじいちゃん達の胃袋って無限に酒が入るように出来てるみたいです。」

「それは、中々の強敵を相手にしてきましたね。」

 エドはクスクスと笑うと最後に拭いていたグラスを棚に戻した。

「それに、酒の産地でもあったからでしょうか。
 美味しい飲み方を知っているんですよね。
 無駄飲みしないっていうか、次の日に残らないっていうか・・・。」

「良い水を使った酒なんだろう。
 君がいたのは確か“ヒソップ”だったな。
 今度、そこの酒でも入手してみるか。」

「それなら、米酒がおすすめです。
 透明度が高くて、スッキリした味わいのものが多くて食べ物にも合います。
 アルコールの度数が高いので、大量に飲むよりも味を楽しむのに適してます。
 おじいちゃん達の講釈を借りました。」

 リトゥル・バーニーは飲み親しんだ味を思い出して微笑んだ。



「ソフィの過去を聞いたって?」

 そんな中、徐にマスターがリトゥル・バーニーに言った。
 
「・・・はい。」

「可哀想と思ったか?」

「・・・この気持ちを言葉にする事が難しいと言うのが正直なところです。
 自分がガキだった頃・・・幸せな世界で無かった事は分かっていました。
 でも、ソフィさんの世界はまるで違う。
 それを俺の物差しで可哀想だとか、言って良いのか分からないんです。」

「そうか。」

 マスターはタバコの煙を吐きながらカウンターの向こう側に腰を落とした。

「全く、面倒な男だね。
 可愛そうで良いんだよ。
 世界と離別して狭い世界で生きてきたあの子は歪んだ世界観の中、何が正しくて何がいけない事なのかを知らずにいた。
 昨日仲良く遊んでいた他の子達と次の日には殺し合いをした。
 それの、何が正しい?
 共に生きると決めた可愛いあの子の行く末が、どんなものだか私らは知りようがないけどね。
 誰かの為に生きようと決めた、小さな手を絶対に離さない・・・。
 出来る事なんて、それだけだよ。」

 虚しげに話すマダムにエドがワインを注いだ。
 
「俺だって、若い頃は言えないような生き方をしてきた。
 警察に捕まって軍に行けば免罪するって言われてな。
 行ってみれば地獄の訓練のお待ちかねさ。
 俺たちみたいに犯罪に手を出した輩にはキツイ任務が待っている。
 そんな時、マスターに拾われたんだ。
 あのままだったら、いつ命落としてもおかしくは無かった。」

 レスが残りのジントニックを煽った。

「エドやギルだって、そうさ。
 軍で出会った頃は嫌な野郎だった。」

「貴方と一緒にしないでください。レス。
 私はね。貴族の四男として生まれましてね。
 まぁ、父がクズだったもので腹違いの兄弟達とも折り合いが悪くてね。
 飛び出すように軍に入ったんですよ。
 ギルも似たようなものです。
 若い頃は自分の人生が一番酷いと思っていたものですからね。
 褒められた態度では無かったでしょうね。」

「ふふふ。いやー。
 会った頃の君は可愛かったよ。
 小犬に吠えられているようだった。」

 マスターの言葉にエドが珍しく赤面をして話を逸らした。

「バンド組も軍や傭兵の経歴がありますよ。
 みんな、マスターに魅入られたんです。」

 マスターは鼻で笑うとウィスキーを氷に注いだ。

「アレックスだって、没落貴族の娘だ。
 教養だってあるし、社交だってお手の物。
 でも、没落した貴族の行く末は地獄ってな・・・。」

 レスは空になったジンの瓶を転がした。

「あの子は自らの力で生きてきたんだ。
 女なんか暗闇に落とされれば身を売るしか出来なかった。
 そんな様に誘導されたんだよ。特にあの子は・・・。
 保護しに行った時には覚醒した力を使って、自力で地獄から逃げてきて私達の前に現れたんだよ。」

「アレックスが檻から飛び出て来た時に一緒に連れてきたのが、ルースとポピーとルリです。
 だから3人はアレックスを慕っているし、彼女もメイド組を可愛がっているんですよ。
 ソフィもそうですが、アレックス可愛い子が好きなんです。」

 最後にニッコリするエドにリトゥル・バーニーは釣られて笑っていた。

「ヒスイとジェットとフリントは貴方と同じです。
 まぁ、あの子達は其の手の店に売られた子達ですねどね。
 一番酷い目にあったのはフリントです。
 心が壊れかけたフリントを守っていたのがヒスイとジェットです。
 それだからでしょう。
 3人は貴方の事を気にかけ“弟”と言うのでしょう。」

 それぞれの昔話を聞かされてリトゥル・バーニーは涙を流した。

「世界は・・・残酷だ。」

「あぁ、それでも世界は美しのさ。
 朝焼けに煌めく海も、シミの1つもない空も・・・
 どんなに辛い人生を送ってきたとしても、お前さんのように美しい心を持った者もいる。
 私たちが生きるのは世界の片隅の1つの街に過ぎない。
 そこに集う闇があるのなら、私はその闇を払いたい。
 しかし1人では出来ない事だ。
 だからこそ・・・。
 お前さんにとって残酷な世界を共に戦ってほしい。」

 マスターが差し出す手をリトゥル・バーニーは握り返した。

「俺は既に誓いました。
 どうしようもない俺の命・・・マスターとマダムにお預けします。」

 海原を走る船の中、ひっそりとするダイナーで宣言するリトゥル・バーニーにマスターは微笑んだ。

「ありがとう・・・。」
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