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新たな寮と新生活

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 少女は夢を見ていた。

 
 無機質な施設の中を逃げている夢。
 走っても走っても、白衣をきた人達が追いかけてくる。
 お顔は真っ黒で何にも見えない。

 ただ怖くて、気持ち悪くて逃げていた。

 モフモフした毛が手に触れた。

(・・・毛玉ちゃん?)
 
 少女とシルバーグレイの犬は一心同体だった。
 彼女の魂と相棒の犬の魂は繋がっている。
 
 少女を妹の様に愛していた毛玉ちゃんが彼女から離れるはずがなかった。
 少女は安心すると、ひたすら前を向いて走った。

『こっちだよ。おいで。』

 突然、優しい声が聞こえて少女は立ち止まった。
 
(だーれ?)

『おじさんと一緒においで。
 ここから出よう。』

(お外に出ていいの?)

『良いさ!怖いなら、おじさんの手を握ってごらん。
 暗闇の中を一緒に歩くよ。』

 少女の背中を毛玉ちゃんが押す。
(怖くないよ。おじさんは良い人だよ。)

 毛玉ちゃんがくれた勇気を握りしめて少女はおじさんの手を握った。

 無機質で暗かったのに、目の前が眩しいくらい明るかった。

 上を見上げると、見たこともない鮮やかな青色が広がっている。

『空は広いだろう?
 あの空は、何処でも繋がっているんだよ。
 白いモコモコしたのがあるだろう?
 あれは雲だよ。
 雲はずっと空に浮いているんだ。』

(雲さんは何処行くの?
 乗れる?)

『さぁ、何処に行くんだろう?
 ふふふ。残念だけど乗れないんだ。
 雲は気ままに浮いているんだよ。』

(いいな・・・私も雲さんになりたい。)

『雲さんにはなれないけど、おじさんがお嬢ちゃんの行きたい所へ連れて行くよ。』

(行きたいところ?
 ・・・何処に行けばいいの?)

『それを見つけるまで一緒にいよう。』

(うん。一緒にいる。
 毛玉ちゃんも一緒よ。)

『お嬢ちゃんのお名前は?』

(お名前?)

『なんて呼ばれていたんだい?』

(No.5021)

 それを聞くと、おじさんは悲しそうな顔をした。

(何で悲しそうなお顔してるの?)

 少女の質問に答えずにおじさんはニコっとした。

『おじさんがお嬢ちゃんの名前をつけても良いかい?』

(お名前くれるの??)

『そうだな・・・“ソフィア”なんてどうだい?
 ソフィア・・・ソフィって呼ぶよ。』

(ソフィア?・・・ソフィ・・・。
 綺麗な響き。
 嬉しい!!私、ソフィ!!
 毛玉ちゃん!私、ソフィよ。)

 もふもふの毛が嬉しそうに飛び跳ねた。

『“ソフィア”とは優れた知識を持つ者に付けられるんだ。
 ソフィアはこれから、外の世界で生きていく為に沢山学ばなければいけないんだ。
 でも、君なら“ソフィア”の名前の通り努力出来ると信じているよ。』

(うん!ソフィがんばる!
 毛玉ちゃんも一緒に頑張ろう!)

『その、毛玉にも名前をあげよう。
 君の名前は“ネロ”だ。
 勇敢にもソフィアを守っていた君にぴったりな名前だよ。』

(ネロ・・・?毛玉ちゃん、ネロ?
 ネロ!!貴方はネロよ!!)

 ソフィアはもふもふのネロを抱きしめて、大いに喜んだ。
 そして、おじさんの手を握りしめると見上げて聞いた。
 
(おじさんの名前はなーに?)

『おじさんかい?
 おじさんの名前は・・・・。」

____________

 ソフィは賑やかな笑い声で目を覚ました。

 久しぶりに見た夢だった。
 怖かったけど、最後は心がポッと暖かくなる夢・・・。

 目を擦り体を起こすと、座って談笑するエドとジェット、フリントの姿が見えた。
 そして、もう1人・・・。

 ソフィは嬉しくなって走り寄って大きな背中に抱きついた。

「リトゥル!!」

「あれ?起きたんですか?ソフィさん。」

 大きな人は振り返ると笑顔でソフィの頭に手を置いた。

「うん!
 リトゥルは新しい家族になったのよね?」

「そうですよ。
 ソフィは家族が増えると嬉しいんですよね?」

 優しく微笑むエドの言葉にソフィは頷いた。

「うん!家族は大切だってマスターが言ってたの。
 大切な物が増えるのは素敵な事だって!
 だから嬉しい!!」

 ジェットはソフィを抱き上げると自分の膝に座らせた。

「そうだな。嬉しい事だ。
 俺達に弟ができた!
 今日はお祝いだな。」

「お祝い?」

「夕飯は気合を入れるとマスターも言ってました。
 全員参加だそうですよ。
 だから、今はお腹を空かせておいてくださいね。」

「「「「はーい!」」」」

 そんな4人の後でネロが大きなあくびをしているのをエドは1人微笑んでいた。


その頃・・・
______________


「頃合いだな・・・。」

 とある街の屋敷で男が呟いた。
 隣では色華やかなドレスを着た女が寄り添っている。

「機は熟した。
 乗り込むか。
 “犯罪の街・ダチュラに」

 周りにいる部下達はイヨイヨかと色めき立った。

 再び、ダチュラの街に闇が近づいてこようとしている・・・。
 
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