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Bar Hope 〜男も女も騙し合い〜

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「モーリス!フレディ先生!!」

 驚き立ち上がったリトゥル・バーニーに2人は駆け寄った。
 そしてモーリスはリトゥル・バーニーを抱きしめて泣き出したのだ。

「お前はバカだよ!
 どうして、鬼畜野郎の言う事を聞いたんだ!」

 リトゥル・バーニーは困惑な顔で久しぶりの親友の顔を見た。

「だって・・・施設がヤバイって・・・。
 あそこが無くなったら、困る子供が増えるだろ・・・。
 フレディ先生やモーリスみたいに良い先生が他にいるか分からないし・・・。」

「だから、無茶な交渉をしたのですね?」

 モーリスとは違い叱るように眉を下げたフレディ・ギボンはリトゥル・バーニーの頭に重たいチョップをした。

「冷静に考えれば、そんな薄暗い交渉をする人間が約束を守ると思いますか?!
 貴方を飼殺しにして言う事を聞かせる為に枷をつけただけに決まっているでしょう。
 全く、図体ばかりが大きくなって心は優しいままですね。」

 そう言うと抱きしめるフレディ・ギボンにリトゥル・バーニーは縋るようにしがみついた。



 しばらくリトゥル・バーニーの涙が止まらずにいるとエドは苦笑した。

「随分と泣き虫ですね。
 これは帰って皆んなに報告しましょう。」

「それはダメです!」

 慌てて涙を拭くリトゥル・バーニーであったが眉を下げてショボーンとした。

「・・・帰っていいんですか?」

「帰りたくないですか?」

「そうじゃなくて!俺は裏切り者だから・・・。」

 肩を落とすリトゥル・バーニーの肩を叩きエドは笑い出した。

「説明していませんでしたね。すみませんでした。
 実はね。最初から違うんです。」

「違う?」

 笑いが止まらないエドにリトゥル・バーニーは首を捻った。

「前刑事部長が亡くなり、新しい部長がやって来ると分かった時に我々はテレンス・ブラナーの素行を調べ始めました。
 彼がハイエナ・・・出世に貪欲で人の不幸を踏み台にすタイプと分かってBar  Hopeにも人を送り込んでくるだろうと分かっていました。
 しかし、そんな危ない橋を渡る人物とはどんな人だと思います?
 全く仕事が出来ない人間は無理でしょう?
 ブラナーと同類のハイエナか弱みを握られた子ウサギか・・・。
 子ウサギだとしたら何が弱みなのか・・・。
 当然、調べるでしょう?」

「あぁ・・・そうか。
 最初からバレていたんですね。」

「フフフ。
 客商売を舐めないで頂きましょう。
 しかも、その子ウサギがダイヤの原石と分かれば手放しませんよ。
 まぁ、あくまでもお誘いの提示はいたしますが選ぶのは貴方です。」

 エドの言葉にリトゥル・バーニーは戸惑っていた。
 バレていたとしても騙そうとしていたのは事実だ。
 そんな自分がBar  Hopeに帰っていいのだろうかと・・・。

「リトゥル。良いですか?
 私達は“ミルキーウェイ”を畳む事になりました。
 貴方を利用しようとした警部さんが我々を手助けしてくれる形跡はありません。」

「そんな・・・。
 それじゃ俺は・・・。」

「話を最後まで聞け!」

 モーリスがリトゥル・バーニーの頭を叩いた。

「痛っ!やめろよモーリス!」

「2人ともおやめさない。全く・・・良いですか?
 リトゥル、私とモーリスは“ダチュラ”に出来る新しい施設で働く事になりました。
 領主様のお考えで身寄りのない子や犯罪に巻き込まれ帰れない子を預かる施設です。
 全て領主様がお力を貸してくださる事になったのです。
 元々いた子達も全員連れて来る事が出来ました。
 あの・・・掃除をしている子達も私達が預かります。
 私達はもう大丈夫です。
 貴方は貴方の生き方を決めなさい。」

 フレディの言葉にリトゥル・バーニーは安堵した。
 子供達が安心して眠れる施設が出来る。
 しかも領主様が力を貸してくれる・・・。

「Bar  Hopeは領主様の命を受けていると言いましたよね?」

 エドはリトゥル・バーニーの言葉に頷いた。

「はい。
 私達は酒場で働いています。
 通ってくれるお客様の憂いを晴らすのもサービスです。
 その為に時には法も犯します。危険も付きものです。
 しかし、貴方は1人じゃない。
 我らBar  Hopeは従業員一同、一心同体。
 彼らを信じて生きてみなさい。この“犯罪の街ダチュラ”で。」



 人は時にどうしようもない選択をしなければいけない時がある。
 それがいかに狂った選択なのかは本人が一番分かっている。
 それでも掴まなければ“死ぬ”と言われれば嫌でもバラの蔓にしがみつくだろう。
 
 たとえ手が血ににじもうとも・・・。



 リトゥル・バーニーは隣で真剣な顔をしている恩師フレディ・ギボンと親友モーリス・ゴアを見つめて微笑んだ。

「欲しいものは手に入れた。
 薄汚れた俺の願いを叶えてくれた領主様とマダム・マリエッタに命を預けます。」

 エドはリトゥル・バーニーの言葉に微笑んだ。

「とても素晴らしい宣誓ですね。
 帰ってマダムに聞かせてください。」

 心を軽くしたリトゥル・バーニーは差し出されたエドの手を握ったのだった。




___________

「部長。これから飲みにいきません?
 煮詰まってるんですよね。」

 ガブが扉から顔を出すとテレンス・ブラナーは首を傾げた。

「珍しいな。お前は1人飲みが好きだろう?」

 すると苦笑したガブが人差し指で眉間を叩いた。

「いやー。部長が俺と同じくらい眉間に皺を作ってたんで声かけたんですよ。
 行きます?」

 ブラナーは鼻で笑うと鏡を見て眉間を擦った。
 《Bar  Hopeに送った無能にカツでも入れるか・・・。》

「よし。Bar Hopeに行くか。
 一杯は奢ってやる。
 あとは自分で出せよ。」

「最高ですね。」

 喜ぶガブを連れてブラナーはBar Hopeに向かったのであった。


「いらっしゃいませ。」

「おう。元気か?」

 扉を開けて迎えるドアマンの肩を軽く叩きガブは店内に入って行った。

「ありがとうございます。お客様、いらっしゃいませ。」

 頭を下げてきたドアマンの肩をギュッと握るとブラナーは耳を寄せた。

「後で時間を作れ。」

 無言で頷くドアマンことリトゥル・バーニーに満足するとの看板を掲げた事に気づくでもなく、ブラナーはガブの後を追って店内に入って行った。

 店内は薄暗くもライトがキラキラと輝いていた。
 客も良い具合にほろ酔い気分だ。
 前回とは違いカウンターの席を選んだ2人はバーテンダーにジョッキでエールを頼んだ。

「畏まりました。」

 すぐさまエールを注いだジョッキを差し出すとバーテンダーはガブに微笑みかけた。

「お疲れ様です。
 今日は部長もお連れになったんですか?」 

「あぁ、俺以上に考え事してたから誘ったんだ。
 たまには良いですよね?部長。」

「ん?そうだな。
 落ち着くし、この店は良い酒が集まっていると聞くしな。」

 ブラナーの感想にバーテンダーは喜んだ。

「ありがとうございます。
 王都からいらした方に言われると嬉しいです。」

 するとブラナーはピクリと眉を動かした。

「私が王都から来たと知っているのか?」

「はい。ここは酒場、口が軽くなる世界でございます。」

 肩を竦めて眉を下げるバーテンダーにフンッと鼻を鳴らすとブラナーはバンドが演奏するステージを見つめた。

「今日は歌姫のステージはあるのかな?」

「はい。予定にございます。
 今しばらくお待ちいただけますと出てくるかと。」

 バーテンダーの言葉の通り数分もしない内に歌姫アレクサンドラが姿を現した。
 店内は真っ暗くなり、真っ赤なオフショルダーのドレスを身に纏ったアレクサンドラにピンスポットがあたる。
 ブラナーだけではない、店中がアレクサンドラを見つめていた。

 耳く届くアレクサンドラの歌声は心地が良く、誰もが微笑んで堪能していた。
 ブラナーもその1人でに催促するつもりで来たのに、今では穏やかな気持ちになっていた。
 そんな幸せな時間はすぐに終わり、アレクサンドラがバックヤードに消えていくと実に虚しいものが残った。

《連れて帰りたい・・・そんな気持ちにさせる女性だ。
 しかし、マダム・マリエッタは貴族でも首を縦に振らないとか・・・
 なんて強欲な女だ。
 なんとしても証拠を掴み、アレクサンドラを手にしてみたいものだな。》

 気持ちよくグラスを揺らしている時だった。
 酔っ払った客がグラス入った酒をブラナーのズジャケットに引っ掛けたのだ。

「わりー。わりー。
 足元おぼつかなくってな。」

 ケラケラと笑う客にブラナーは眉を潜めた。

「貴様。人の物を汚しておいて、なんだその態度は・・・。」

「おっ?なんだ?高い物だったか?
 わりーな。ほら、これで足りるかい??」

 ポイっと札束を投げてよこした男にブラナーの自尊心が許さなかった。
 札束を握りしめると男の胸ぐらを掴み睨め付けた。

「貴様、私が誰か分かっているのか?
 逮捕されたいのか?
 酒に任せて許されると思うなよ。」

「お客様。店内での争い事は遠慮願います!」

「部長!Bar  Hopeでの争いは厳禁だって言ったでしょうが!」

「黙れ!こんな奴にジャケットを汚されたんぞ!
 許すことができる訳がないだろうが!」

 次第に激昂し始めたブラナーの腕をガブが抑えると益々と怒りが募っていく。

「貴様!どっちの味方だ!
 たかが、酒場のルールがなんだ!
 私は刑事部長で後々、王都に返り咲く男だぞ!」

 男の胸元から手を離すとガブの顔面にパンチを喰らわせた。

「グハッ!」

 鼻から血を出したガブが顔を抑えるとメイドやボーイが慌てて寄って来た。

「うるさいね!!どこの何奴が騒いでるんだい?!」

 そこにやって来たのは、肩を出したパンツドレス姿で現れたマダム・マリエッタが憮然としていた。
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