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Bar Hope 〜男も女も騙し合い〜

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「ちわー!ウェイン・ハーバーです!」

 Bar Hopeの裏手の扉を開け、木箱を抱えたウェイン・ハーバーの従業員ピートが人懐っこい顔を出した。

「よう。もう随分、体の調子が良さそうじゃねーか。」

 それを仕込みをしていたコックのレスリーが笑顔で出迎えた。

「あの時はお世話になりました。ありがとうございます!
 今日から配達復帰するんで宜しくお願いします。」

「おう。そうか。
 良かったな。
 リストの商品持って来てくれたか?」

「はい!エビとタラの魚介と鶏肉と豚バラの塊の肉類にサラミと生ハムの乾き物・・・。
 アスパラとベビーコーンの野菜とちらほら他にも見繕って来ました。
 あとは酒のケースが6個あります。」

 レスリーは品物を確認しながら納得するとリストをチェックしていった。
 するとカウンターからバーテンダーのエドが蝶ネクタイを治しながらやって来た。

「レス?今日は季節外れの暑さですからね。
 冷たいお酒が出るでしょう。」

「揚げ物だろう?分かってるよ。
 今、ピートが色々持って来てくれた。」

「ちわーっす!」

 ピートは“WH”のロゴのキャップを脱ぐとエドに笑顔を見せた。

「おや。元気になったんですね?
 良かったです。
 マダムも心配してましたよ。」

「ご心配おかけしました。
 もう、この通り元気です!
 マダムにもお礼をお伝え下さい。
 いつでも御用をお申し付けくださいと。

 ・・・そうだっ。
 これを預かってます。エドさんに。」

 ピートはキャップの裏にピンでつけていた三角に折られた紙をエドに差し出した。
 エドは迷う事なく受け取ると中を確認しピートにコインを投げてよこした。

「お駄賃です。
 ありがとう。
 今日はまだ明るいですからね。
 気をつけてお帰りなさい。」

「はい!あざーす!」

 喜ぶピートの頭をレスがクシャクシャと撫でると2人して酒のケースを取りに外に出て行った。



コンコンコン

「どうぞ。」

 エドは店の奥にある部屋をノックすると相手の反応を待ち中に入った。
 部屋の主人であるマダム・マリエッタは下ろした髪を緩く結びシルクのロングガウン姿で書き物をしていた。

「ウェイン・ハーバーにこれが届きました。」

 マダム・マリエッタはかけていた眼鏡をずらし三角に折られた紙を広げた。

「フフフッ。
 も心配性ね。
 狼やナマケモノならまだしもハイエナとはね・・・。
 
 そろそろ頃合いかね?エド。」

「はい。
 そろそろ、子ウサギも限界でしょう。
 真面目さ故に逃げられない罠にひっかかってますからね。」

「それじゃ、予定通りに子ウサギを連れて行きな。」

 エドは無言で頷くとマダムの部屋を出ていった。
 マダムは紅茶を一口飲むと溜息を吐いた。

「さてと・・・。
 どっちに転がるもんかね。」

 マダムは仕事をまとめると立ち上がり開店に向けての準備を始めたのだった。


________

「・・・で、その時にレスさんはハバネロを触っていた事を忘れて目を擦ったわけ。
 どうなったと思う?
 目がイチジクみたいに腫れ上がって涙と鼻水でベチョベチョだよ。
 で、エドさんに仕掛ける前にバレちゃって大目玉。
 あの人は優しいけど怒らすと、マジ怖い。
 全く、レスさんも自分で仕掛けておきながらドジだよなぁ。」

 リトゥル・バーニーはすでに制服を身に纏い、ボーイのジェットと店前の掃除を始めていた。
 ジェットは掃除をしながらもレスの過去のドッキリ失敗談を面白ろ可笑しく話して聞かせた。

「それは災難でしたね。」
 
 リトゥル・バーニーがクスクスと笑っていた時だった。
 店の扉が開きエドがジャケットを手に現れた。

「バーニー。
 ちょっと付き合ってくれないか?」

「??!
 はい!」

 会話に出てきたエドが突然現れた事で驚いたリトゥル・バーニーであったが掃除をジェットに任せると慌ててエドの後を追ったのだった。

「じゃーなー!」

 振り返るとジェットがニコニコと手を振り2人を見送っていた。




 無言で歩くエドに、リトゥル・バーニーは居心地の悪さを感じていた。
 それでも、言われた通りついて行くと何故か教会に連れて行かれたのだった。

「貴方がBar  Hopeに来て2ヶ月ちょっと経ちましたかね。
 少し、この街の事を話しておこうと思います。」

 リトゥル・バーニーの気持ちを察したのかエドは笑いながら教会の中に入って行った。
 教会の中では神父とシスターに5人程の見習いの少女たちが片付けや掃除をしていた。
 エドは最後尾のベンチに座るとリトゥル・バーニーにも座るように促した。
 
「この街の事はどれくらい認識していますか?」

 エドの言葉にリトゥル・バーニーは首を傾げた。

「先日、ニックさんに街にはバランスがあると聞きました。
 マフィアにはバランスがあると・・・。」

「そうです。
 この街には他の街にはない考え方があります。
 だからこそ、“犯罪の街”とも言われるのでしょう。」

 クスクスと笑うエドをリトゥル・バーニーは静かに見つめていた。
 不思議と心配や恐怖などない穏やかな時間だった。

「事の始まりは、1人の貴族が若くして領地を受け継いだことから始まります。
 その時の若き領主には亡くなったお父上が残した負債と、社交好きな母が作った借金、そして犯罪などが蔓延った領地が残されました。
 なんとかして領地を守ろうとする若き領主が思い付いたのは犯罪者を集めるという事でした。」

「犯罪者を集める・・・?」

《何を言っているのだろうか?》リトゥル・バーニーは眉間にシワを寄せた。

「犯罪者にとって魅力的な街を作り上げれば、他の領地から犯罪者が少なくなる。
 一箇所に犯罪者を集める事ができれば取り締まるのも楽ですからね。
 それが彼が考える国への忠誠だったのです。」

《ゴキブリホイホイみたいな事か・・・?》

「マフィアにはバランスがあります。
 元々、存在しているマフィアの中には領主の考えに賛同する者達がいて他領から流れてきた犯罪者を牽制しています。
 マフィアに力を持たせる・・・他領では考えられない事を領主は成し遂げたんです。」

「マフィアが犯罪者を裁くのですか?
 警察ではなく?」

 リトゥル・バーニーは驚きながらもエドの顔を凝視した。

「この街に来る警察の人間達には種類がある・・・。
 ニックに聞いたのでしたね?
 だったら、お分かりになるでしょう。
 警察も、バランスの対象なんですよ。」

 エドの言葉にリトゥル・バーニーはゾッとした。
 《今の言い方では悪徳警察官も誘き寄せられているという事になるではないのか・・・?》
 リトゥル・バーニーの顔の変化を感じ取ったのだろう。
 エドは苦笑していた。

「やはり、カンのいい人ですね。
 そうです。テレンス・ブラナーは引き寄せられた人間です。
 王都“ペンタス”での出世争いに負け、“ダチュラ”のマフィアの人脈と資金を狙って自ら、この街にやって来ました。」

 すんなりと言い当てられリトゥル・バーニーは慌てて席を立ち上がった。

「驚くのは無理もありませんけどね。
 えぇ、そうです。私達は貴方がテレンス・ブラナーの送り込んだ人間だと知っていました。」

「・・・知っていた?」

 困惑するリトゥル・バーナーをエドは落ち着かせるようにベンチをトントンッと叩いた。

「危害を加えるつもりはありませんよ。
 まぁ、座りなさい。
 話の続きをしましょう。」

 顔を真っ青にするリトゥル・バーナーは首を横に振っては少し離れたベンチに腰掛けた。
 エドは溜息を吐き苦笑すると

「まぁ、良いでしょう。

 マフィアの抗争ならマフィアが問題を解決します。
 他の事件が起これば警察が仕事をするでしょう。
 この街“ダチュラ”はそうしてバランスをとっているのですよ。
 しかし・・・時にはマフィアも警察も介入できない事件が存在する。
 例えば、証拠不十分な事件や・・・貴族が絡んでいる事件ですね。」

 リトゥル・バーナーの頭に最近の不可解の事件が頭をよぎった。

「そう。
 その困った事を始末するのがの仕事です。」

「・・・・?」

 答えが分かっているのに聞かずにはいられなかった。

「Bar  Hopeは領主から密命を受けて、“ダチュラ”のを払う者達の集まりです。」

 様々な音がなり響く中、リトゥル・バーニーの耳にエドの言葉だけが聞こえたのだった。
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