上 下
15 / 90
Bar Hope 〜男も女も騙し合い〜

8

しおりを挟む
 ルリの着せ替え人形になること3時間・・・。
 リトゥル・バーニーはクタクタになりながら選んだ数点を購入し付き添ってくれたニックとルリにお礼を言った。

「ありがとうございました。
 助かりました。」

「他人を見る時に服装は大切だ。
 軽装じゃ標的にされる事が多い。
 この街はそんな街なのさ。
 付き合い方を知れば、こんなに楽な街もないけどな。」

「ルリはチョコレートケーキ。
 ポピーはフルーツミックスタルト。
 ルースはミルクレープ。」

 珍しく長台詞で報酬を要求するとルリはリトゥル・バーニーの腕を引っ張って歩く。

「近くの通りにケーキ屋があるんだ。
 ルリは甘い物が好物なんだよ。」

「そうでしたか。
 是非お礼させてください。」

 1人離脱したがるニックを許さず、ルリはケーキ屋を目指した。

 ホテル・オネスト近くの通りにあったケーキ屋は“空の綿”と書かれた看板を掲げていた。

「空の綿わた・・・?」

「雲!わたあめ!」

 連想ゲームを彷彿させるルリの叫びにリトゥル・バーニーは納得した。

「わたあめかぁ・・・。
 随分食べていませんね。」

「まぁな。男なんて、そんなもんだろう。
 この店は、マダムもお気に入りなんだ。
 ルリ達も味を覚えちまってな。
 いいか?お気に入りなんだぞ?
 財布の中身の確認しとけよ。
 何の為にルリが俺を逃さなかったと思う?」

「子ウサギだけじゃ心許ない」

「なぁっ?」

 ルリの言葉に肩をすくめるニックにリトゥル・バーニーは慌てて財布の中身を確認した。

「高いんですね?!
 ・・・・まぁ、少しはありますから。大丈夫です。」

 ルリは嬉しそうに“空の綿”の扉を開いた。




「有難うございました!」

 数分後、喜びでキラキラした顔のルリと溜息を吐きながら帽子を深くかぶるニック、そして乾き物と化したリトゥル・バーニーの姿が確認できた。

「帰る。
 お茶会!」

 軽くスキップしながら手を振るルリを見送り男2人はホテルまで足を伸ばした。

 朝とは見違える姿になったリトゥル・バーニーに気づいたフロント女性は微笑むと会釈をした。
 そんな女性に手を上げて挨拶をするとニックはラウンジにリトゥル・バーニーを誘ういコーヒーを頼んだ。

「どうよ。
 さっきと違ってホテルに来るのも平気になったろう?
 見た目は気持ちも強くしてくれる。」

「はい。
 まだ緊張しますけど、先程より大分マシですね。
 ニックさんはホテルにお住まいなんですか?」

 運ばれてきたコーヒーにウィスキーを垂らしているニックにリトゥル・バーニーは聞いた。

「ああ。普段は別のトコにいるんだけどな。
 マダムとアレックスがホテルに住んでるから護衛兼ねて近くにいるんだ。
 特に最近は物騒な事件か立て続きにあったからな。」

 ニックの言葉にリトゥル・バーニーはハッとした。

「もしかして、首無し死体ですか?
 本当の話だったんですね。」

「なんだ、知ってたのか? 
 興味あるか?元警察官さん。」

 ニコニコするニックにリトゥル・バーニーは肩をすくめた。

「元警察官ですけど、俺にとっては元駐在さんの方がシックリきますね。
 お客さんが話してるのを聞いたんですよ。
 外に立ってると話しかけられる事も多くて。
 この間は警察の方に話しかけられました。」

 ニックは眉を上げると体を前のめりにした。

「何を?」

「港の廃棄場で爆発があった日に貴族が遊びに来なかったかって。
 その事件の時、俺はこの街に来てないんで知りませんって言ったら引いて行きました。」

「それ、一応エドに報告しとけ
 警察が酒場で情報取るのは常だが、Bar  Hopeのマダムを通さずに従業員に話しかけるなんて常識がなってない。」

 少し怒っているようにみえるニックにボロを出してしまったとリトゥル・バーニーは焦った。

 そんなリトゥル・バーニーを気にするでもなくニックは言った。

「良いか、子ウサギ。
 この街の警察って奴らには3種類いる。
 1つは真面目すぎて上司に楯突き飛ばされた奴。
 もう一つは失態を犯して左遷された奴。
 最後はマフィアすら手玉にとって出世を望む野心家だ。」

 ニックは諭すようにリトゥル・バーニーに言った。

「真面目は損だが問題ない。
 左遷されたバカは汚職に身を落とすか、死んでいく。
 問題は最後の野心家だ。
 マフィアと一般人が混在する街を出世に利用しようと騒ぎを起こす。
 そうなりゃ死人が山ほど出るぞ。
 お前に話を聞きに来た警察官が野心家だとも限らない。」

 なぜだろう・・・。
 ニックのこの言葉がリトゥル・バーニーを納得させたのだ。
 そして自分をこの街に呼び寄せたテレンス・ブラナーこそ、その野心家なのだと確信をした。
 
「野心家が事を荒立てると死人が出る・・・。」

「そうだ。
 この街は絶妙なバランスで成り立っている。
 他の街で上手くいかなかった一般人が最後に縋り付く街だ。
 当然、犯罪も多い。
 だから自警団さながらのマフィアが存在するんだよ。
 その上に貴族達がいて1番上に領主がいる。」

 ニックはタバコをとりだすと火をつけた。

「マフィアは警察に頼らず己のコミュニティを守る為に輪が広がっている。
 犯罪集団だと思われているが、実際には仲間達を守る集団行動だ。
 仲間がやられれば、やり返す。
 時には法を犯すって位にな。
 その代わり、自分達の仲間が悪さをすれば自分達で仕置きをする。

 理解していない新参のマフィアは街を牛耳ろうと強硬手段にでたりする。
 それをマフィアの抗争だと警察は騒ぐのさ。」

 リトゥル・バーニーは、この街の絶妙なバランスとやらを理解し始めていた。

「じゃあ、Bar  Hopeもマフィアなんですか?」

 リトゥル・バーニーの言葉にニックはクスクスと笑い始めた。

「俺たちは酒場の人間だよ。
 酒場はどんな時も平等にってね。
 Bar  Hopeには不可侵の決まりが存在する。
 どんなマフィアもBar  Hopeの店内での争いはご法度。
 《外で喧嘩するのは疲れるだろう?仲良く酒でも飲んで休んでいきな。》
 これがマダムの考え方だよ。」

 楽しそうに話すニックにリトゥル・バーニーは微笑んだ。

「良いですね。その考え方。」

「そうだろう?俺もそう思う。
 どんな考えがあっても良い。
 人はそれぞれ違うからな。でも、一箇所でも心から休める場所があれば人間生きていけるだろうさ。」

 ニックは何かを考えるようにタバコの煙を静かに吐いていた。






 その日の夜、リトゥル・バーニーは真っ暗な部屋で携帯電話を握りしめていた。

 自分は何に巻き込まれたのか・・・。
 ・・・別の選択をしていたら・・・。
 遠き記憶を思い出しリトゥル・バーニーは目を瞑った。

 握っていた携帯電話が震えだし確認をすると未登録の番号だった。

 その番号をジッと見つめながらリトゥル・バーニーはボタンを押した。

「はい・・・。
 1人です。ブラナー部長。」

 上司であるテレンス・ブラナーの呼び出しにリトゥル・バーニーは答えた。

『報告は?』

 挨拶もそこそこに答えを求めるブラナーにリトゥル・バーニーは拳を握った。

「事件の当日に市長、警察署長、貴族議員がBar  Hopeに来ていた確認が取れていません。」

『そうか・・・。
 尻尾が掴めるかと期待していたんだがな。
 他に有益な情報はあるか?』

「これと言っては・・・。
 働き口としては良好ですが、深層部への到達は難しいですね。
 自分が配属されてから目立った大物が店を訪れた事もありません。
 店の従業員によると事件が解決していない今、大物が出歩く事自体が珍しいみたいです。」

『・・・引き続き、監視を続けろ。』

 電話を切りそうなブラナーにリトゥル・バーニーは聞いた。

「ブラナー部長は何をお求めですか?
 Bar  Hopeが普通の酒場ではない事は自分でも分かります。
 しかし、ブラナー部長の仰る事と一致しません。
 正直戸惑っています。」

 リトゥル・バーニーの言葉に黙りこんなブラナーは溜息を吐いた。

『この街にはマフィアが多い。』

「はい。」

『街を守るのは警察の仕事だとは思わないかね?
 なぜ、一般人のマフィアが実権を握っているのだ? 
 なぜ、この街の領主はそれを許す?
 マフィアに弱みでも握られているのだはないか?
 私は自治権は領主にあり、それを支えるのが貴族であって防衛を司るのが警察の仕事だと思っている。
 その街にはその秩序がないのだよ。
 だから、取り戻すんだ。
 警察に力を持たせる。
 そうすれば、王都の馬鹿共も私を認めるはずだ。
 良いか?バーニー!
 私の計画には君の働きが重要だ。
 私が王都の警察本部に返り咲いた暁には君も王都所属のエリートに取り立ててやろう。』

 街の事を考えているのかと思えば、最後は自分の事しか頭にないテレンス・ブラナーにリトゥル・バーニーは唇を噛んだ。

「施設は・・・大丈夫ですか?」

『施設?・・・あぁ、あれな。
 今、予算編成の会議に回してある。
 もう少ししたら結果が出るだろう。
 君も今は関係ない施設の事を考えるより自分の将来を考えるべきではないかね?
 次はもう少し有益な情報を持ってきたまえ。
 プツッ  ツー  ツー  ツー』

 切れた音を聞きながらリトゥル・バーニーは携帯電話を握りしめた。

「貴方はやっぱり、達と同じだ・・・。
 ブラナー部長。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 R18 媚薬を飲んだ好きな人に名前も告げずに性的に介抱して処女を捧げて逃げたら、権力使って見つけられ甘やかされて迫ってくる

シェルビビ
恋愛
 ランキング32位ありがとうございます!!!  遠くから王国騎士団を見ていた平民サラは、第3騎士団のユリウス・バルナムに伯爵令息に惚れていた。平民が騎士団に近づくことも近づく機会もないので話したことがない。  ある日帰り道で倒れているユリウスを助けたサラは、ユリウスを彼の屋敷に連れて行くと自室に連れて行かれてセックスをする。  ユリウスが目覚める前に使用人に事情を話して、屋敷の裏口から出て行ってなかったことに彼女はした。  この日で全てが終わるはずなのだが、ユリウスの様子が何故かおかしい。 「やっと見つけた、俺の女神」  隠れながら生活しているのに何故か見つかって迫られる。  サラはどうやらユリウスを幸福にしているらしい

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...