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Bar Hope 〜男も女も騙し合い〜
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「バーニーさん。そろそろ開店の時間ですよ。」
バーテンダーのエドが外に佇む男の前に現れた。
「は・・はい。お疲れ様です。」
エドは体の大きいバーニーの正面に立つと、ドアマンに与えられた制服の身だしなみをチェックし静かに頷いた。
「ドアマンはただ立っていれば良いわけではありません。
お店の顔になるのですから、背筋よくご案内をしてください。
分からない事があれば、私かギルバートに聞けば結構です。
落ち着いて笑顔でお迎えしてください。
バーニーさんが来てから評判が良いんですよ。」
「良かったです。
はい。宜しくお願いします」
エドはバーニーの肩を叩くと店中に入って行った。
「はぁ・・・。俺は何でこんなトコにいるんだ。」
溜息を吐いたバーニーは言われた通りに背筋を伸ばし立っていると最初のお客様が現れたのだった。
「いらっしゃいませ。お客様。Bar Hopeへようこそ。」
_________
リトゥル・バーニーが警察学校を出て小さな村、“ヒソップ”の派出所に配属されたのは2年前だった。
事件と言っても住人の年寄り達の喧嘩の仲裁や迷子犬の捜索など実に平和な事で、一番の大事件は羊3頭の窃盗だった。
「あれは、大騒ぎだったなぁ・・・。」
リトゥル・バーニーは思い出したように呟き微笑んだ。
そんな彼に辞令が降りた時は驚いた。
しかも大きな街の刑事としての昇進付きとくれば、出世など期待していなかったリトゥル・バーニーは何かの間違えではないかと疑った。
現に本庁へ問い合わせれば、間違いではないと伝えられた。
独身で他の家族のいない彼は少ない荷物をまとめ、“ヒソップ”の住人達に挨拶をしてから、この街“ダチュラ”にやって来たのである。
最初に招集されたのは“ダチュラ”ではなく、王都“ペンタス”のホテルの1室だった。
不安な気持ちを持ちながら訪れた部屋で待っていたのはテレンス・ブラナーと自己紹介した警部だった。
「今度、私は“ダチュラ”という犯罪率が高い街の刑事課の部長として配属されるのだが君にも一緒に来てもらいたい。」
「・・・命令とあれば、勿論参ります。」
ブラナーの言葉にリトゥル・バーニーは戸惑っていた。
一介の巡査に伺う事でもないからだ。
「うん。ありがたい。ただ、頼みたいのは通常の警察官としての配属ではなく、とある酒場に潜入して欲しい。」
「??・・・潜入ですか?」
「“ダチュラ”の中でも私が目をつけている店がある。
歴史も長く、マフィアも一般人も関係なく利用しているらしい。
バランスが崩れれば、実に危ない店というわけだよ。
犯罪率が高いと言っただろう?
私は、その酒場が原因ではないかと考えているんだ。
しかし、証拠も目撃者もない。従業員も調べられていない状況だ。」
《だから、潜入して中を調べろか・・・。》
リトゥル・バーニーの不安を感じ取ったのだろう、ブラナー警部は手元のファイルを手に取った。
「リトゥル・バーニー巡査。
ルイナール暦14年10月1日生まれ。
生まれながらに両親がおらず、施設育ち。
荒れた青春時代を過ごし、何度も補導経験あり。
ルイナール歴30年警察学校に入学
ルイナール歴32年警察学校を卒業後、ヒソップに配属。
君の入所した施設だが、残念ながら現在は経営不振により閉鎖寸前だそうだ。」
リトゥル・バーニーがピクリと反応したのを確認するとブラナーはピラりと紙を一枚見せた。
「毎年、施設へ寄付をしているんだってね。
施設長の他にも君と同時期に入所した男性が働いているとか・・・
子供も仲間達と引き離されるのは辛いだろうね。
君の貢献によって、施設への補助金を増額する推薦状を用意した。
後の判断は君次第だ。
ヒソップに戻りのんびりと警察人生を送るか、国に身を投じて危険な世界に踏み入れるのか。
その場合、君が愛する施設の継続を保障しよう。」
リトゥル・バーニーは瞳を閉じると震える手を抑え、覚悟をした様にブラナーを見つめた。
「任務を拝命いたします。」
ブラナーはニヤリとするとリトゥル・バーニーに資料を渡した。
「場所は“ダチュラ”に存在する“Bar Hope”。
3日後に新しい従業員をとる面接が行われる。
君には関門を突破してもらわねばならない。
受からなければ、施設の話も無しだ。
即刻、ヒソップに帰ってもらう。2度と会う事はないだろう。
頑張ってくれたまえ。」
リトゥル・バーニーは頭を下げると部屋を出て、深い息を吐いた。
ドキドキする心臓を掴み、部屋にまだいるブラナーを睨みつけた。
「普通に命令すればいいのに・・・。」
そして、リトゥル・バーニーは資料を握りしめ“ダチュラ”の街に足を踏み入れたのであった。
________
「つ・・・っ、次の方どうぞ。」
緊張をしていたリトゥル・バーニーは呼ばれた声に反応して立ち上がった。
オリーブ色の瞳と髪をした女性が扉を開くと会釈をして面接室に入った。
「失礼します。」
「どうぞ、気楽にお掛けください。」
男性が笑顔で椅子を差した。
「失礼します。」
面接待ちしていた店内とは違い、無機質な部屋では3人の人間が待っていた。
中でも2人の男に挟まれていた女性は鋭い目でリトゥル・バーニーを見つめている。
「では、面接を始めます。
こちらの資料ではお名前はリトゥル・バーニーさんで宜しいんですか?」
「はい。宜しくお願いします。」
話を進める男性はニッコリとすると資料に目を戻した。
「元警察官とありますが、どうしてお辞めになったのですか?」
「私は田舎にあります“ヒソップ”という町というか・・村の派出所に勤めておりました。
何もない平和な村でして、事件という物は皆無です。
そんな村に必要ないと言われ、警察の人件費の予算切りの為、解雇されました。
困っていた時にこちらの面接を聞いたのです。」
真実を織り交ぜて話すリトゥル・バーニーに男は眉を下げた。
「それは災難でしたね。
今回の面接はドアマンの雇用なのですが、外に立つ事もあります。
寒い日もありますし、お断りしたお客様にお帰り頂く事もあります。
その際、暴れたり暴言を吐かれたりと大変な仕事でもあるんです。」
その言葉にリトゥル・バーニーは頷いた。
「ヒソップは山奥の村ですので寒いのには慣れています。
元々、体も大きいですし警察官という仕事の為、体は鍛えています。
暴言は村のお年寄り達で鍛えられました。」
男性はクスクス笑うと、隣の女性に顔を向けた。
女性はリトゥル・バーニーに扇子を突きつけると一言
「立ってごらん。」
と言った。
リトゥル・バーニーが立ち上がると今度は
「回ってごらん。」
リトゥル・バーニーがゆっくりと回ると女性は満足そうに頷いた。
「私は、この店の責任者マリエッタ。
みんなはマダム・マリエッタと呼ぶよ。
リトゥル・バーニー、あんたをこの店に迎える事にする。
明日からおいで、住む場所もないだろう。
今日はバーテンダーのギルバートを付けよう。
準備しな。」
マダム・マリエッタは立ち上がりリトゥル・バーニーの前に立つと手を出した。
「詳しい契約は、こっちのエドに聞きな。
宜しく頼むよ。リトゥル・バーニー。」
握手をするとカツカツ足音を立ててマダム・マリエッタは部屋を後にした。
「おめでとうございます。
バーテンダーをしています。エドです。
ホールの責任者も任されています。
此方は同じくバーテンダーのギル。
明日からの準備をお手伝いします。」
ギルと呼ばれた男はニッコリすると近づいてきた。
「入って来た瞬間に分かったもんね。
絶対にマダムは君を選ぶって。
明日から宜しくね。
住む所もないんだろう?
知り合いのアパートの空室を用意してるんだ。
店からも近いし、スーパーの買い物も便利だから良いと思う。
店内を案内してから連れて行くよ。
店の奴らには追々、紹介しよう。」
トントン拍子に話が進み戸惑うリトゥル・バーニーは慌てて頭を下げた。
「あ・・ありがとうございます!
俺・・・私が受かったんですか?」
エドとギルは苦笑すると両肩を叩いた。
「これから、仲間です。
店は楽しいですが、大変です。
自ずと仲間意識が芽生えますよ。」
「この街は面倒だぞー。
面倒だけど、面白い。
お前もその内分かるさ。」
エドは扉を開き、面接の終了を告げに向かい。
ギルはリトゥル・バーニーを連れて店を後にした。
「先ずは、制服だよ。
お前さんはデカいからな。
採寸して準備してもらわなきゃな。」
「すみません・・・。
昔からデカいんで迷惑かけてきたんです。」
大きな体を縮こませるリトゥル・バーニーの背中を叩きギルは笑い出した。
「背筋を伸ばせ!
恥ずかしがるな!ってね。
マダムはお前の体型も気に入ったんだ。」
「は・・・はい!」
リトゥル・バーニーはギルに励まされると笑顔になり従業員御用達の衣装屋、看板にはただ“テイラー”の文字が書かれた扉を開いた。
「ダン爺!新入りの衣装頼むわ。」
分厚いレンズの眼鏡をかけた老人が首にメジャーをかけて姿を表した。
「おぉ・・・。
デカい奴を連れて来たな。
新入り、脱げ。」
戸惑うリトゥル・バーニーにギルは苦笑した。
「ダン爺さんは、マダムが信頼する職人なんだ。
体にピッタリの服が欲しいなら爺さんに頼むと良いよ。」
ギルはニヤリとすると椅子に腰掛け足を組んで寛ぎ始めた。
「どうせ明日までに作るんだろう?
ほらっ。さっさと脱げ。
すぐに終わる。」
リトゥル・バーニーはいそいそと脱ぐとパンツ1枚になった。
「フーム。
良い体型じゃ。
軍か?警察か?それとも騎士ではないな?」
「・・・警察です。
先日、首になりまして・・・。」
「難儀だのう。
お前さん、左利きじゃのう?
左の腕の方が肉付きが良いわい。
おい!マイン!マイン!」
ダン爺さんが奥に声をかけると若い娘が顔を出した。
「何、おじいちゃん?」
「こいつの採寸が終わった。
デザインの確認とパターンを起こしてくれ。」
「はーい。
大きな新人さんだね。
すぐに取り掛かるよ。
そうだ!マダムに新しいドレスが仕上がるよって伝えてギルさん。」
「あいよー。
毎度、ありがとうね。
マインちゃん。」
若い娘は肩をすくめると、受け取った採寸のメモと、リトゥル・バーニーを見比べて考え込んだ。
「オッケー。マダム好みのシンプルなのにするね。」
そこまで聞くとギルは服を着たリトゥル・バーニーの背中を押して出口に向かった。
「それじゃ、明日の夕方取りに来るね。
宜しくー!」
「よっ宜しくお願いします!!」
ギルとリトゥル・バーニーの声に手を振るマインに見送られ2人は店を後にした。
「あの子は、孫娘のマインちゃん。
後継として鍛えられてるんだ。
マダムもお気に入りだから腕は間違いない。
明日の夕方に取りに行くと良いよ。
次はアパートね。
ついて来て。」
「はい!」
時の流れが早く感じたリトゥル・バーニーは前を行くギルの後を追った。
その後、案内されたアパートは古くも頑丈な作りで、体の大きなリトゥル・バーニーでも余裕があった。
間取りや電気や水などの確認を終えるとギルは鍵を渡して部屋を出て行った。
リトゥル・バーニーは1人になり、ホッとするとポケットから携帯を取り出し一言《受かりました。》とメールを送り消した。
バーテンダーのエドが外に佇む男の前に現れた。
「は・・はい。お疲れ様です。」
エドは体の大きいバーニーの正面に立つと、ドアマンに与えられた制服の身だしなみをチェックし静かに頷いた。
「ドアマンはただ立っていれば良いわけではありません。
お店の顔になるのですから、背筋よくご案内をしてください。
分からない事があれば、私かギルバートに聞けば結構です。
落ち着いて笑顔でお迎えしてください。
バーニーさんが来てから評判が良いんですよ。」
「良かったです。
はい。宜しくお願いします」
エドはバーニーの肩を叩くと店中に入って行った。
「はぁ・・・。俺は何でこんなトコにいるんだ。」
溜息を吐いたバーニーは言われた通りに背筋を伸ばし立っていると最初のお客様が現れたのだった。
「いらっしゃいませ。お客様。Bar Hopeへようこそ。」
_________
リトゥル・バーニーが警察学校を出て小さな村、“ヒソップ”の派出所に配属されたのは2年前だった。
事件と言っても住人の年寄り達の喧嘩の仲裁や迷子犬の捜索など実に平和な事で、一番の大事件は羊3頭の窃盗だった。
「あれは、大騒ぎだったなぁ・・・。」
リトゥル・バーニーは思い出したように呟き微笑んだ。
そんな彼に辞令が降りた時は驚いた。
しかも大きな街の刑事としての昇進付きとくれば、出世など期待していなかったリトゥル・バーニーは何かの間違えではないかと疑った。
現に本庁へ問い合わせれば、間違いではないと伝えられた。
独身で他の家族のいない彼は少ない荷物をまとめ、“ヒソップ”の住人達に挨拶をしてから、この街“ダチュラ”にやって来たのである。
最初に招集されたのは“ダチュラ”ではなく、王都“ペンタス”のホテルの1室だった。
不安な気持ちを持ちながら訪れた部屋で待っていたのはテレンス・ブラナーと自己紹介した警部だった。
「今度、私は“ダチュラ”という犯罪率が高い街の刑事課の部長として配属されるのだが君にも一緒に来てもらいたい。」
「・・・命令とあれば、勿論参ります。」
ブラナーの言葉にリトゥル・バーニーは戸惑っていた。
一介の巡査に伺う事でもないからだ。
「うん。ありがたい。ただ、頼みたいのは通常の警察官としての配属ではなく、とある酒場に潜入して欲しい。」
「??・・・潜入ですか?」
「“ダチュラ”の中でも私が目をつけている店がある。
歴史も長く、マフィアも一般人も関係なく利用しているらしい。
バランスが崩れれば、実に危ない店というわけだよ。
犯罪率が高いと言っただろう?
私は、その酒場が原因ではないかと考えているんだ。
しかし、証拠も目撃者もない。従業員も調べられていない状況だ。」
《だから、潜入して中を調べろか・・・。》
リトゥル・バーニーの不安を感じ取ったのだろう、ブラナー警部は手元のファイルを手に取った。
「リトゥル・バーニー巡査。
ルイナール暦14年10月1日生まれ。
生まれながらに両親がおらず、施設育ち。
荒れた青春時代を過ごし、何度も補導経験あり。
ルイナール歴30年警察学校に入学
ルイナール歴32年警察学校を卒業後、ヒソップに配属。
君の入所した施設だが、残念ながら現在は経営不振により閉鎖寸前だそうだ。」
リトゥル・バーニーがピクリと反応したのを確認するとブラナーはピラりと紙を一枚見せた。
「毎年、施設へ寄付をしているんだってね。
施設長の他にも君と同時期に入所した男性が働いているとか・・・
子供も仲間達と引き離されるのは辛いだろうね。
君の貢献によって、施設への補助金を増額する推薦状を用意した。
後の判断は君次第だ。
ヒソップに戻りのんびりと警察人生を送るか、国に身を投じて危険な世界に踏み入れるのか。
その場合、君が愛する施設の継続を保障しよう。」
リトゥル・バーニーは瞳を閉じると震える手を抑え、覚悟をした様にブラナーを見つめた。
「任務を拝命いたします。」
ブラナーはニヤリとするとリトゥル・バーニーに資料を渡した。
「場所は“ダチュラ”に存在する“Bar Hope”。
3日後に新しい従業員をとる面接が行われる。
君には関門を突破してもらわねばならない。
受からなければ、施設の話も無しだ。
即刻、ヒソップに帰ってもらう。2度と会う事はないだろう。
頑張ってくれたまえ。」
リトゥル・バーニーは頭を下げると部屋を出て、深い息を吐いた。
ドキドキする心臓を掴み、部屋にまだいるブラナーを睨みつけた。
「普通に命令すればいいのに・・・。」
そして、リトゥル・バーニーは資料を握りしめ“ダチュラ”の街に足を踏み入れたのであった。
________
「つ・・・っ、次の方どうぞ。」
緊張をしていたリトゥル・バーニーは呼ばれた声に反応して立ち上がった。
オリーブ色の瞳と髪をした女性が扉を開くと会釈をして面接室に入った。
「失礼します。」
「どうぞ、気楽にお掛けください。」
男性が笑顔で椅子を差した。
「失礼します。」
面接待ちしていた店内とは違い、無機質な部屋では3人の人間が待っていた。
中でも2人の男に挟まれていた女性は鋭い目でリトゥル・バーニーを見つめている。
「では、面接を始めます。
こちらの資料ではお名前はリトゥル・バーニーさんで宜しいんですか?」
「はい。宜しくお願いします。」
話を進める男性はニッコリとすると資料に目を戻した。
「元警察官とありますが、どうしてお辞めになったのですか?」
「私は田舎にあります“ヒソップ”という町というか・・村の派出所に勤めておりました。
何もない平和な村でして、事件という物は皆無です。
そんな村に必要ないと言われ、警察の人件費の予算切りの為、解雇されました。
困っていた時にこちらの面接を聞いたのです。」
真実を織り交ぜて話すリトゥル・バーニーに男は眉を下げた。
「それは災難でしたね。
今回の面接はドアマンの雇用なのですが、外に立つ事もあります。
寒い日もありますし、お断りしたお客様にお帰り頂く事もあります。
その際、暴れたり暴言を吐かれたりと大変な仕事でもあるんです。」
その言葉にリトゥル・バーニーは頷いた。
「ヒソップは山奥の村ですので寒いのには慣れています。
元々、体も大きいですし警察官という仕事の為、体は鍛えています。
暴言は村のお年寄り達で鍛えられました。」
男性はクスクス笑うと、隣の女性に顔を向けた。
女性はリトゥル・バーニーに扇子を突きつけると一言
「立ってごらん。」
と言った。
リトゥル・バーニーが立ち上がると今度は
「回ってごらん。」
リトゥル・バーニーがゆっくりと回ると女性は満足そうに頷いた。
「私は、この店の責任者マリエッタ。
みんなはマダム・マリエッタと呼ぶよ。
リトゥル・バーニー、あんたをこの店に迎える事にする。
明日からおいで、住む場所もないだろう。
今日はバーテンダーのギルバートを付けよう。
準備しな。」
マダム・マリエッタは立ち上がりリトゥル・バーニーの前に立つと手を出した。
「詳しい契約は、こっちのエドに聞きな。
宜しく頼むよ。リトゥル・バーニー。」
握手をするとカツカツ足音を立ててマダム・マリエッタは部屋を後にした。
「おめでとうございます。
バーテンダーをしています。エドです。
ホールの責任者も任されています。
此方は同じくバーテンダーのギル。
明日からの準備をお手伝いします。」
ギルと呼ばれた男はニッコリすると近づいてきた。
「入って来た瞬間に分かったもんね。
絶対にマダムは君を選ぶって。
明日から宜しくね。
住む所もないんだろう?
知り合いのアパートの空室を用意してるんだ。
店からも近いし、スーパーの買い物も便利だから良いと思う。
店内を案内してから連れて行くよ。
店の奴らには追々、紹介しよう。」
トントン拍子に話が進み戸惑うリトゥル・バーニーは慌てて頭を下げた。
「あ・・ありがとうございます!
俺・・・私が受かったんですか?」
エドとギルは苦笑すると両肩を叩いた。
「これから、仲間です。
店は楽しいですが、大変です。
自ずと仲間意識が芽生えますよ。」
「この街は面倒だぞー。
面倒だけど、面白い。
お前もその内分かるさ。」
エドは扉を開き、面接の終了を告げに向かい。
ギルはリトゥル・バーニーを連れて店を後にした。
「先ずは、制服だよ。
お前さんはデカいからな。
採寸して準備してもらわなきゃな。」
「すみません・・・。
昔からデカいんで迷惑かけてきたんです。」
大きな体を縮こませるリトゥル・バーニーの背中を叩きギルは笑い出した。
「背筋を伸ばせ!
恥ずかしがるな!ってね。
マダムはお前の体型も気に入ったんだ。」
「は・・・はい!」
リトゥル・バーニーはギルに励まされると笑顔になり従業員御用達の衣装屋、看板にはただ“テイラー”の文字が書かれた扉を開いた。
「ダン爺!新入りの衣装頼むわ。」
分厚いレンズの眼鏡をかけた老人が首にメジャーをかけて姿を表した。
「おぉ・・・。
デカい奴を連れて来たな。
新入り、脱げ。」
戸惑うリトゥル・バーニーにギルは苦笑した。
「ダン爺さんは、マダムが信頼する職人なんだ。
体にピッタリの服が欲しいなら爺さんに頼むと良いよ。」
ギルはニヤリとすると椅子に腰掛け足を組んで寛ぎ始めた。
「どうせ明日までに作るんだろう?
ほらっ。さっさと脱げ。
すぐに終わる。」
リトゥル・バーニーはいそいそと脱ぐとパンツ1枚になった。
「フーム。
良い体型じゃ。
軍か?警察か?それとも騎士ではないな?」
「・・・警察です。
先日、首になりまして・・・。」
「難儀だのう。
お前さん、左利きじゃのう?
左の腕の方が肉付きが良いわい。
おい!マイン!マイン!」
ダン爺さんが奥に声をかけると若い娘が顔を出した。
「何、おじいちゃん?」
「こいつの採寸が終わった。
デザインの確認とパターンを起こしてくれ。」
「はーい。
大きな新人さんだね。
すぐに取り掛かるよ。
そうだ!マダムに新しいドレスが仕上がるよって伝えてギルさん。」
「あいよー。
毎度、ありがとうね。
マインちゃん。」
若い娘は肩をすくめると、受け取った採寸のメモと、リトゥル・バーニーを見比べて考え込んだ。
「オッケー。マダム好みのシンプルなのにするね。」
そこまで聞くとギルは服を着たリトゥル・バーニーの背中を押して出口に向かった。
「それじゃ、明日の夕方取りに来るね。
宜しくー!」
「よっ宜しくお願いします!!」
ギルとリトゥル・バーニーの声に手を振るマインに見送られ2人は店を後にした。
「あの子は、孫娘のマインちゃん。
後継として鍛えられてるんだ。
マダムもお気に入りだから腕は間違いない。
明日の夕方に取りに行くと良いよ。
次はアパートね。
ついて来て。」
「はい!」
時の流れが早く感じたリトゥル・バーニーは前を行くギルの後を追った。
その後、案内されたアパートは古くも頑丈な作りで、体の大きなリトゥル・バーニーでも余裕があった。
間取りや電気や水などの確認を終えるとギルは鍵を渡して部屋を出て行った。
リトゥル・バーニーは1人になり、ホッとするとポケットから携帯を取り出し一言《受かりました。》とメールを送り消した。
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