地獄の沙汰も酒次第・・・街に愛された殺し屋達に会いたいのならBar Hopeへようこそ

ぽん

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最初の一杯は人ぞれぞれ

6杯目

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 会議なんて、どれも同じで退屈だ。
 
 男は欠伸を堪えながら時間が過ぎるのを待っていた。
 ホワイトボードには先日、死んだ警察官の写真が貼られていた。
 未成年の少女達を金で買っていた男は、発覚を恐れたのか警察署の前で自ら命を絶っていた。
 面倒なのは情報がメディアにバレた事で世間で不祥事として騒がれている事だ。 
 今は、その後始末に一般の署員から署長、そして市長や貴族議員までやってきては、お互いなすりつけるのに必死だ。
 
「結局は管理ができていなかった署長の責任でしょう。」

「いやいや!これは個人の話です。
 いくら彼の上司だからといって、私生活まで管理できませんよ。」

「これでは市の防災費に回す予算を削らねばなりませんね。」

「何を言ってるんです。
 この街に、どれくらいの犯罪者やマフィアが存在すると思っているんです!
 簡単に予算の話なんてされたら堪りませんよ。」

 《後でやれ・・・》男が心の中で悪態をついていると、机をバンっ!と叩く音がして視線を集めた。
 まだ若い女性警察官が、怒りでなのか震えながらも抗議し始めた。

「そんな事よりも!
 不祥事を起こした警察官に少女達を斡旋したグループを調べ摘発するべきです!
 顔こそ分かりませんが、彼女達は被害者です。
 直ちに保護しなければいけません。
 早く捜査本部を立ち上げてください!!」

 正義感なのか、不祥事を起こした男と最後に話した人間としての心残りか、女性警察官の言葉はお偉いさんの耳には耳障りだったのだろう。

「捜査するのは当然の話だ。
 この会議は今回の不祥事に対する責任の所在だ。
 それを決めるのは我々であって、君ではない。
 会議を止めるのなら目障りだ出て行きなさい。」

「失礼します!!」

カッカッカッカッ!

 署長の言葉に女性警察官は睨み付けると、靴を慣らし憮然とした態度で会議室を出て行った。
《良いなー・・・俺も連れてってくれ。》

 当然ながら話し合いに結果など出ずに、混乱の内に会議は終わった。
 
 捜査室に戻れば、女性警察官が資料の整理をしていた。
 泣いたのだろう。目が充血していた。

「お前さんも、あんなトコで正論吐かなくても良いだろうに。」

 男がドカっと椅子に座ると、女性警察官はキッ!と睨みつけてきた。

「じゃあ、あれが正しい姿だって言うんですか? 
 彼女達は今も苦しんでいるかもしれないのに!!」

「こないだまで、存在すら知らなかった少女達だ。
 寧ろ、俺らは鬼畜野郎と仲良く談笑してたわけよ。
 今更、お前1人が正義ぶって、どうするよ。
 焦ってたら助けられる命も助かんねーぞ。
 安い罪悪感は捨てるんだな。
 お前が切れたところで、俺らが犯罪者を見逃していた責任は取れねーんだよ。」

 男の言葉に女は愕然として震え出した。
 認めたくない罪悪感が襲ってきたのだ。
 男は立ち上がると、先日まで同僚だった鬼畜野郎の部屋の扉を思いっきり蹴った。

「クソがっ!」

 男は悪態をつくと鞄を掴んで仕事場を後にした。
 タバコに火をつけ車を転がし、馴染みの酒場にやってきた。
 扉を開くと薄明るいラウンジが男を出迎えた。
 男は、やってくるボーイに手を振りカウンターに1人座った。

「お疲れ様です。」

 バーテンダーは慣れた手つきでビールをジョッキに注いで持ってきた。
 男は何も言わずにビールを一気に飲み干すと深いため息を吐いた。

「やっぱり、例の件は厳しいですか?」

 眉を下げるバーテンダーを男は軽く睨みつけると鼻で笑った。

「今、ウチで気楽にやってる奴がいたとしたら気がしれんよ。」

 バーテンダーは苦笑すると、無言で2階を指さした。
 男がカウンターから離れて上を見上げると3人の男達がマダムや歌姫を囲んでご機嫌に笑っていた。

「あのクソ共が・・・。」

 警察署長に市長、貴族議員は会議の時の争いは何だったのかと言う程、仲良さげに酒を飲んでいた。
 男は愕然としてカウンターに戻ってきてバーテンダーに囁いた。

「何時からいる?」

「1時間前くらいですかね。」

 会議が終わってから直行して来た事になる。
 男が再びビールを煽るとバーテンダーが心配そうに水を持ってきた。

「空きっ腹に、そんな飲み方だと体に悪いですよ。」

「余計なお世話だ。」と言おうとして、男はバーテンダーを睨みつけるが差し出してきた写真に気づき口をつぐんだ。
 写真を受け取る男の手が震えた。

「これは・・・まさか、あいつから?」

「たまたま、拾ったそうです。」

「そうか・・・。」

 男は拳を握りしめると席を立ち再び2階を見上げた。
 手に持っていた写真には4人の男が笑顔で写っていた。
 それがくだんの警察官と店の2階で談笑している3人の男達である事は明らかだった。

 問題だったのは4姿と写っていた事だった。

 男が3人を睨み付けているとダイアモンドカットで胸元が開いた黄色いタイトなドレスを着たマダムと目が合った。
 マダムが合図を送れば、男は小さく頷いた。

「じゃあ、またな。」

 男は金を払うと扉に向かった。

「またのお越しを、お待ちしております。」

 バーテンダーは男の背中に声をかけた。





_____________
 
「ありがとうございました。」

 マダムやバーテンダー達が頭を下げる中、男達は上機嫌で店を後にした。
 Barが用意した車に乗り込むと貴族議員は握りしめている歌姫の手を舐めるように撫でた。

「やはり、お前が一番美しいな。
 やっとだ。やっと手に入る。」

 貴族議員が自身の口を歌姫の唇につけようとすると手で抑えられ、首を横に振られた。
 歌姫が眉を下げ向かいを見れば、物欲しそうに警察署長と市長が凝視していた。

「今回は私だけだ。
 やっとの事でマダムから許可が降りたんだ。」

 そんな貴族議員に2人は苦笑すると頷いた。

「分かっていますよ。」

「まさか、マダムが許可を出すとはね。
 流石ドルー伯爵閣下ですな。」

 ドルー伯爵と呼ばれた貴族議員は出っ張った腹を逸らし顔をテカらせてニヤリとすると歌姫を自身の胸に抱き寄せた。

「《Bar Hopeの歌姫は七色の声を持つ、美しい歌声なのに話はしない》と噂だから楽しみだ。
 酒の席に付くことも珍しく、隣に座っても話さない。
 初めは生意気な女だと思ったが、自分の物になるのなら話は別だ。
 他の男になど聞かせてやるものか。
 私と2人の時だけでいい。ベットの上でどう鳴くか・・・。」

 ドルー伯爵は喉の奥をクックッと鳴らすと、ホテルに到着するのが待ち遠しがった。


『そう、大した声でもないのよ?』

 突然に女の声がして男達はビクリとした。
 当然、女は1人しかいない為に男達の視線は歌姫に向かった。

「まだ・・・話さなくて良いのだぞ?」

 ドルー伯爵は、何故だか冷や汗を感じ歌姫を凝視した。

『良いのよ?好きなだけ聞いて頂戴。
 貴方は鳴かす方が好きなの?
 奇遇ね・・・私もよ。』

 歌姫の声が脳を揺らす、3人の男はグラングランする目眩に苦しみ始めた。
 ギャーギャーと騒ぎ出す男達の頭に歌姫の声が響く。

『女の子達は何処にいるの?
 私にも紹介してよ。』

 今度は市長の耳だけに歌姫の妖艶な声が聞こえた。
 苦しみから開放され、惑わされる感情に市長は恍惚とした。

「ドルー伯爵の邸宅に・・・。」

『どうやって集めたの?』

「借金の肩代わりに買って来たり・・・攫ったり・・・」

『良い子ね。最後に教えて。他にもがいるのかしらね?』

 市長は抗う気もなく、全ての顧客情報をペラペラと話し始めた。
 眩暈に苦しみながらも聞こえてくる言葉に貴族議員は追い込まれていた。

「や・・めろ!黙れ!」

 どのくらい経ったのだろう。
 いつの間にか歌姫の声が聞こえなくなると、先程までの苦しみや快楽はなんだったのかと男達は意識を戻した。

「おい!なんだこれは!
 アレクサンドラ!!許さんぞ!」

 横にいたはずの歌姫の姿が車の外にあった。
 ドルー伯爵は外に出ようと車のドアを開こうと何度もノブに手をかけるが開く気配がない。
 伯爵だけではない、市長や警察署長も必死になって運転席のドアや窓を叩いている。

『さぁ、今日のステージはこれで終わりよ。
 最後まで楽しんでね。』

 Bar  Hopeの歌姫アレクサンドラは一度も振り向く事なく別のワゴンに乗り込んだ。

「アレクサンドラ!!貴様!!出せ!出すんだ!」

 叫ぶドルー伯爵の声など気にするまでもなくアレクサンドラが乗った車は離れていく。

「ここはどこだ!?」

 激しく動揺する市長は開く気配のない窓から外を見た。

「港外れの解体置き場ですよ。
 盗品やら違法解体した車とかを纏めてる場所です。」

 警察署長はそう答えながも、なんとか車を動かそうともがいていた。

「お前達!なんとかして、助けを呼び出せ!
 あの女、絶対に許さんぞ・・・。」

 憎々しげに去った車の跡を睨みつけると、ドルー伯爵はポツリと言った。

「ここまで誰が運転してきた?」

 絶世の美女アレクサンドラに目を奪われていた3人の男達は他に誰がいたのか思い出せずにいた。
 
チッチッチッチッチッチッ・・・・・

 静かになった車内に聞きなれない音を確認した。

チッチッチッチッチッチッ・・・・・

「なんの音だ?・・・この匂いは・・?」

「なんだ!耳障りだ!止めろ!!」

 首を傾げる市長と騒ぎ立てるドルー伯爵を警察署長が手で制した。

「シッ!」

カチッ

 ハッとした警察署長の悲痛の顔を最後に彼らを炎と爆風が包み込んだのだった。





 バックミラーに映る炎を確認すると男は電話を取り出しコールした。

「終わりました。
 ええ。アレックスも無事です。
 帰りますよ。
 出向の準備を頼みます。じゃぁ後で。」

 電話を切ると男は助手席に座る男に放り投げた。

「帰るぞ。」

 車の中にいた41は何も無かったように外を見つめつづげていた。
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