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番外編〜あの頃〜
カサドとパウロ《コミカライズ記念》
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これは、イオリ達が初めての旅の日程を終え、ダグスクからの帰路を進んでいる頃の話。
「おや、珍しい。
工房から出られてきたんですか?」
ガラス品と陶芸品を扱う“パウロ&カーラ”の店主パウロが、“日暮の暖炉”の扉を開くと滅多に会わない男が、エールを煽っていた。
「やかましい。それはお前さんも一緒だろうが。」
そう悪態を吐いたのは武防具の工房を持つドワーフのカサドだ。
カサドは鶏皮のつまみを口に放り込むと、再びエールをゴクゴクと呑んだ。
「2人共、穴に潜ってばかりだと体にも良くないぜ。」
“日暮の暖炉”の店主ダンは笑いながらパウルの元にもエールと鶏皮のつまみを置くと「ごゆっくり」と厨房に戻って行った。
「フンッ。うるせーってんだよ。」
鼻を鳴らすカサドにパウロは同意する事なくクスクスと笑った。
「カサドさんは今どんな依頼を?」
「んぁ?
ポーレット公爵家の騎士達の剣の研ぎの依頼を終えたところだ。
そろそろ大口の客が帰ってくる予感がするんだよ。」
「大口?・・・あぁ、イオリさん達ですね。
それはそれは、私も身を引き締めないといけませんね。」
「なんだい。アンタもアイツにこき使われてるのかい。」
クックックと笑うカサドにパウロの口角も緩やかに上がった。
「こき使うなんてイオリさんはされませんよ。
職人の好奇心を刺激するのが上手なだけです。」
「そいつは違いない。
こっちの常識なんてピョーンと飛び越えてるくせに何でもない顔をしやがる。
可笑しな野郎だ。」
誇り高い2人の職人は意外にも気が合うのか、互いを意識しつつも穏やかに酒を楽しんでいた。
「で?アイツはお前さんに何を頼んだ?」
楽しそうなカサドにパウロはご機嫌に応えた。
「鍋ですよ。
しかも、土で作るとっておきの鍋です。」
それには、武防具の名工カサドも驚くしかない。
「土で作った鍋だぁあ?
何を考えてやがる。」
呆れてものが言えないとはこの事だとばかりに溜息を吐く。
「えぇ、私も初めは何を言っているんだろうと思ったものですがね。
土に、ある鉱石を混ぜ合わせると直火にも耐える土鍋が出来上がるんですよ。
もっとも、その配合の割合や練り方に焼き方まで、なかなかに難しくてね。
試行錯誤の毎日ですが、イオリさんの笑顔を思い出すと、改良していく日々も楽しいものですよ。」
パウロの晴れやかな笑顔にカサドは苦笑しながらも、自身の職人感情がワサラサと騒ぎ出すのが分かった。
「土に鉱石を混ぜるか・・・。
なるほどな・・・あぁ、言わなくて良い。
そいつはお前さんとイオリの秘め事さ。
同じ職人なんだ。線引きは分かっとる。
しっかし、アイツの頭は食う事ばかりだな。」
ケラケラと声をあげて笑うカサドにパウロもクスクスと微笑んだ。
「以前、ヴァルト様が店にいらした時に仰っていましたよ。
イオリさんの行動理念は食べ物だろうと。
料理に関して一貫しているところがイオリさんらしいですよね。」
職人の心意気を汲んでくれるイオリだ。
パウロはしみじみと冷たいエールで喉を潤す。
「アイツは最初っから、己を偽らずに人と会話するからな。
どいつもこいつも絆されるんだろうよ。
優しそうに見えて頑固だし、興味引くものがあれば真っ直ぐに進む・・・。
口で言えば簡単だが、誰にでも出来る事でもねぇからな。」
珍しく他者を語るカサドにパウロは珍しいものを見たと、満足気に微笑んだ。
「そう言えば、お前さん。
俺が、イオリに作った最初の物ったら何だと思う?」
「えっ?それは、やっぱり・・・。」
揶揄う様に片目を瞑るカサドにパウロは困惑した。
カサドは武防具の名工だ。
手がける物も多岐に渡る。
そんなカサドがポーレット期待の冒険者に作った物・・・。
答えが出ずに問いかける様にパウロが首を傾げると、カサドがニヤリとして答えた。
「鍋の蓋だよ。鉄製のな。」
それを聞いたパウロは、思わず吹き出した。
2人の職人は大いに笑うと満足そうに酒を流し込む。
カサドとパウロは、こうやって英気を養い大切な依頼人の為に仕事場に戻って行くのだった。
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
いつも『拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~』をご覧頂きまして有難う御座います。
この度、当作品がアルファポリス様よりコミカライズ化致します事を御報告させて頂きます。
様々な素敵な作品を描いていらっしゃいます漫画家《葉来緑先生》にお世話になっております。
原作に改編を加えておりますが、ストーリーはそのままにして頂いています。
コミカライズならではのイオリの冒険を楽しんで頂けたら幸いです。
2024年8月6日(火)より配信開始となります。
是非ともご覧下さいませ。
御提案いただいた時は現実味がなく嬉しい驚きが冷めぬまま今に至っております。
これもひとえに皆様のお陰です。
感謝申し上げます。
配信開始まで今しばらくお待ち下さい。
ぽん
「おや、珍しい。
工房から出られてきたんですか?」
ガラス品と陶芸品を扱う“パウロ&カーラ”の店主パウロが、“日暮の暖炉”の扉を開くと滅多に会わない男が、エールを煽っていた。
「やかましい。それはお前さんも一緒だろうが。」
そう悪態を吐いたのは武防具の工房を持つドワーフのカサドだ。
カサドは鶏皮のつまみを口に放り込むと、再びエールをゴクゴクと呑んだ。
「2人共、穴に潜ってばかりだと体にも良くないぜ。」
“日暮の暖炉”の店主ダンは笑いながらパウルの元にもエールと鶏皮のつまみを置くと「ごゆっくり」と厨房に戻って行った。
「フンッ。うるせーってんだよ。」
鼻を鳴らすカサドにパウロは同意する事なくクスクスと笑った。
「カサドさんは今どんな依頼を?」
「んぁ?
ポーレット公爵家の騎士達の剣の研ぎの依頼を終えたところだ。
そろそろ大口の客が帰ってくる予感がするんだよ。」
「大口?・・・あぁ、イオリさん達ですね。
それはそれは、私も身を引き締めないといけませんね。」
「なんだい。アンタもアイツにこき使われてるのかい。」
クックックと笑うカサドにパウロの口角も緩やかに上がった。
「こき使うなんてイオリさんはされませんよ。
職人の好奇心を刺激するのが上手なだけです。」
「そいつは違いない。
こっちの常識なんてピョーンと飛び越えてるくせに何でもない顔をしやがる。
可笑しな野郎だ。」
誇り高い2人の職人は意外にも気が合うのか、互いを意識しつつも穏やかに酒を楽しんでいた。
「で?アイツはお前さんに何を頼んだ?」
楽しそうなカサドにパウロはご機嫌に応えた。
「鍋ですよ。
しかも、土で作るとっておきの鍋です。」
それには、武防具の名工カサドも驚くしかない。
「土で作った鍋だぁあ?
何を考えてやがる。」
呆れてものが言えないとはこの事だとばかりに溜息を吐く。
「えぇ、私も初めは何を言っているんだろうと思ったものですがね。
土に、ある鉱石を混ぜ合わせると直火にも耐える土鍋が出来上がるんですよ。
もっとも、その配合の割合や練り方に焼き方まで、なかなかに難しくてね。
試行錯誤の毎日ですが、イオリさんの笑顔を思い出すと、改良していく日々も楽しいものですよ。」
パウロの晴れやかな笑顔にカサドは苦笑しながらも、自身の職人感情がワサラサと騒ぎ出すのが分かった。
「土に鉱石を混ぜるか・・・。
なるほどな・・・あぁ、言わなくて良い。
そいつはお前さんとイオリの秘め事さ。
同じ職人なんだ。線引きは分かっとる。
しっかし、アイツの頭は食う事ばかりだな。」
ケラケラと声をあげて笑うカサドにパウロもクスクスと微笑んだ。
「以前、ヴァルト様が店にいらした時に仰っていましたよ。
イオリさんの行動理念は食べ物だろうと。
料理に関して一貫しているところがイオリさんらしいですよね。」
職人の心意気を汲んでくれるイオリだ。
パウロはしみじみと冷たいエールで喉を潤す。
「アイツは最初っから、己を偽らずに人と会話するからな。
どいつもこいつも絆されるんだろうよ。
優しそうに見えて頑固だし、興味引くものがあれば真っ直ぐに進む・・・。
口で言えば簡単だが、誰にでも出来る事でもねぇからな。」
珍しく他者を語るカサドにパウロは珍しいものを見たと、満足気に微笑んだ。
「そう言えば、お前さん。
俺が、イオリに作った最初の物ったら何だと思う?」
「えっ?それは、やっぱり・・・。」
揶揄う様に片目を瞑るカサドにパウロは困惑した。
カサドは武防具の名工だ。
手がける物も多岐に渡る。
そんなカサドがポーレット期待の冒険者に作った物・・・。
答えが出ずに問いかける様にパウロが首を傾げると、カサドがニヤリとして答えた。
「鍋の蓋だよ。鉄製のな。」
それを聞いたパウロは、思わず吹き出した。
2人の職人は大いに笑うと満足そうに酒を流し込む。
カサドとパウロは、こうやって英気を養い大切な依頼人の為に仕事場に戻って行くのだった。
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
いつも『拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~』をご覧頂きまして有難う御座います。
この度、当作品がアルファポリス様よりコミカライズ化致します事を御報告させて頂きます。
様々な素敵な作品を描いていらっしゃいます漫画家《葉来緑先生》にお世話になっております。
原作に改編を加えておりますが、ストーリーはそのままにして頂いています。
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