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番外編〜あの頃〜
テオルドとニコライ《書籍化記念》
しおりを挟むこれはテオルドとニコライがイオリと出会うまでのお話。
テオルド・デュク・ポーレット公爵
彼の名を知らない者はアースガイルにはいない。
国王アルフレッド・アースガイルを兄に持ち、国で最も稀有な地域である明けない魔の森に隣接しているポーレットの領主である彼は国内外でも注目される男である。
明けない魔の森では様々な魔獣達が生存しており、その希少な部位はポーレットの経済を潤していた。
当然、良い事ばかりではない。
魔獣を相手にする冒険者を筆頭に、住人やポーレットに訪れる旅人は気まぐれな魔獣達に襲われる事もしばしばだ。
それでいて、公爵の頭を悩ませている1番の原因は数年に1度起こるスタンピードだ。
なんらかの原因で魔獣達が理性なく暴れ回り、時にはポーレットの街を襲い暴虐の限りを尽くしてしまうのだ。
ポーレットの街は、いつ魔獣達が暴走するのが分からない不安と隣り合わせで生活していた。
街をグルりと囲む大きな壁に螺旋状に創られた街並。
年月をかけて対策を試みてきたポーレットの変化の軌跡をテオルドは誇りに思っていた。
ーーー明けない魔の森が静か過ぎる。
スタンピードの前兆に静寂があるとは聞いた事がない。
それでも、冒険者ギルドが伝えてきた情報を聞くとテオルドは直ちに次男ヴァルトに視察を命じた。
頼りになる契約獣や従者がいるとはいえ、息子を危険なエリアまで送り出す時はいつも気が引き締まる。
それは長男ニコライも同じようで、弟の出立に立ち会う顔が緊張していた。
ヴァルトが失踪した契約獣クロムスを追いかけ深層部に向かったと聞かされた時は生きた心地がせずに一夜を過ごした。
結局なんの危険もなく、安堵して迎え出たテオルドは、帰ってきたヴァルトの顔を今も忘れない。
何か宝物を得たかのような満足気な少年のようだった。
それから5年、ほぼ毎日のように明けない魔の森で出逢った少年の話を聞かされている。
最初こそ、何か憑き物でも憑かれたかと思っていたが聖属性を持つルチアまでもが楽しそうに話すものだからテオルドもニコライも少年・・・イオリに会える事を楽しみにしていた。
「イオリがポーレットの街に来たんです!!」
「背が大きくなっていました!」
「やっぱりあいつは凄いんですよ。
コカトリスにブラックパンサーの部位を簡単に討伐するんです。
ギルマスが驚いてましたよ。」
唐突にイオリとの再会を報告するヴァルトにテオルドとニコライは目を丸くしたものだ。
父と兄の気持ちを置き去りにヴァルトは楽しそうにイオリの話をする。
「ヴァルトよ。分かったから。
今度、連れて来なさい。」
そう伝えたテオルドにヴァルトが渋い顔をした。
「それが、イオリって目立つの嫌いなんですよ。
新人冒険者が領主と会って話題にならない訳ないですよね?
今は子供達もいるし、屋敷に来るのに気が引けているようです。
そうだ、今日はイオリに驚くべき話を聞きいたんです。
もしかしたら、ポーレットに革命を齎すかもしれない重要な話です。
だから・・・兄上。
先に兄上に教会に来てもらって、イオリに会ってもらいたいんです。
エドバルド神父の許可は取って来ました。」
弟の言葉にニコライは楽しそうに頷いた。
「あぁ、分かった。
教会だな。
どんな子なのか楽しみだ。」
兄に了承を得たヴァルトが嬉しそうにしていた時だった。
「・・・ズルい。
ズルいぞ!私だって、そのイオリとやらに会いたいんだ!」
声を上げる父テオルドにニコライが苦笑する。
「仕方がないではないですか。
そのイオリという少年・・・いや、5年も経ったのだから青年になるのか。
彼が目立ちたくないというのであれば、忍んで会うしかないでしょう。
父上が街へ降りて行ったら大事になりますよ。
ヴァルトがここまで言うのです。
とても重要な事なのでしょう。」
それでもテオルドは納得せずに息子達を睨みつける。
「お前達だって目立っているだろう。」
「私達は父上と違って、街に溶け込む事が出来ますよ。」
その後は息子達だけじゃなく、執事や従者にまで止められてしまったテオルド。
結局、言いくるめられて、イオリとの対面は見送られる事になった。
そして、どうなかったと言うと・・・。
「父上。
イオリをポーレット公爵家の専属冒険者にしましょう。」
これが、いつも冷静なニコライがイオリと対面を果た日に、帰ってきて開口一番に言った言葉であった。
「・・・何をそんなに焦っている?」
貴族が冒険者を抱えると言うのは、重大な問題だった。
冒険者の仕事や行いが、その貴族の評価にも直結してしまうのだ。
ポーレット公爵家は、これまで専属の冒険者を抱える必要性がなかった。
なぜなら、家族全員が冒険者ギルドに登録している高ランク冒険者で他人に頼む必要がなかったからだ。
ニコライまでもがイオリを気に入ったと聞き、益々とテオルドはイオリという青年に興味を湧き始めた。
「今日の報告を聞いてからだな。
それに本人にも会ってみたい。
専属冒険者の話は、それからだ。」
「分かりました。」
ワクワクしていたテオルドであったが、菓子の話や原材料の話に入ると驚愕せずにはいられなかった。
ポーレットだけでは収まらない。
これは、国を巻き込んでの大事業になるだろう。
「会おう。」
そう言ったテオルドも、腹の中では既にイオリなる青年の保護を真剣に決めていた。
ヴァルトの進言。ニコライの確証。ルチアの願い。
そして、自分自身の直感が彼の可能性を信じたのだ。
「はじめまして、イオリと申します。」
人柄も申し分ない爽やかな青年が現れた時、この出会いが例え絶対神のイタズラだとしても、感謝するテオルドだった。
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
いつも『拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~』をご覧頂いて有難うございます。
書籍化につきまして新たなご報告をさせて頂きます。
2023年12月13日(水)に各書店に発送されます。
書店や地域によって数日後ろに倒れます。
それに伴い、12月15日(金)よりアルファポリス様に投稿している[54話]までを引き下げ、レンタル版との差し替えをさせて頂きます。
ご了承下さい。
この様な機会に恵まれましたのも、ご覧頂いた皆様のおかげです。
感謝しております。
是非とも改稿いたしました本を楽しんで頂けますますと幸いです。
よろしくお願いします。
ぽん
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四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
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