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番外編〜あの頃〜
ロディとポルトス《書籍化第2弾記念》
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これは、まだイオリがポーレットの街に来る前の話。
「ロディ!片目が青くて真っ白な狼を連れた少年は来たか?」
ポーレットの衛兵隊隊長であるロディは毎日の様に顔を出す領主の次男に苦笑した。
「えぇ、来てませんよ。
少年ったってヴァルト様。
あれから5年も経ってんだから、少年って歳じゃないでしょう。」
「あっ・・・それも、そうか!
じゃあ、ロディ、黒髪で片目が青くて真っ白な狼を連れた青年だ!
まだ、来てないか?ポルトスはどうだ?」
話の矛先を向けられた若き隊員は苦笑しながらも首を振った。
「はい、来てませんよ。」
5年前のある日、明けない魔の森の異変を調査して帰ってきたヴァルトが人探しを依頼してきた。
人探しって言っても、さっきから叫んでいる“黒髪で片目が青くて真っ白な狼を連れた青年”がポーレットの街を訪ねてくると言うものだったのだが今だに当人は現れていない。
「全く、あいつは何をのんびりとしているんだ!
もう、5年だぞ。」
こうやって、毎日の様に顔を出し到着を首を長くして待っているヴァルトにロディとポルトスは笑うしかなかった。
「それにポーレット公爵家のコインを渡してあるんでしょ?
衛兵達が見逃すはずがありませんよ。」
「・・・そうか。よし。帰る。」
ロディの言葉に不満そうな顔を隠す事なく屋敷に帰っていくヴァルトを見送りながら、2人は苦笑した。
「あれから5年も経ったんですね。」
「そうだな。あの頃はお前も新人だったな。」
ロディとポルトスはこの不可思議な依頼をされた日の事を思い出していた。
ーーー5年前のあの日。
ポーレット公爵家の次男であるヴァルトは明けない魔の森からポーレットに帰還した時に衛兵隊の隊長ロディを呼び出していた。
平民生まれのロディもポーレットの街で衛兵隊を任される様になり、それなりに貴族との付き合い方を学んできた。
この街の領主であるテオルド・ドゥク・ポーレットは街の人間から愛されている。
目の前で馬から降りてきた次男ヴァルトも気さくで人懐っこい青年だった。
帰還の挨拶をするロディにヴァルトがニッコリとする。
「おぉ、ロディ隊長。
魔の森に危険はなかったよ。
でも、当分冒険者達には注意喚起しておいた方が良いと思うから、冒険者ギルドにも顔を出しておくよ。」
このポーレットの街は明けない魔の森という世界でも有数の未開の土地と隣接している。
恩恵を受ける事も多々あるが、時には森に住む魔獣達が暴走し街を襲う事もあるのだ。
調査に向かったヴァルトの言葉にロディは安堵した。
「それは何よりです。
衛兵隊も街の人間や旅人達に注意を促す事にいたします。
おい。ポルトス、しっかりと皆んなに伝えておけよ。」
「はいっ!隊長!!」
ロディは振り返ると、自分の後ろに控えていた若者に声をかけた。
「おっ?新人か?」
ヴァルトが問いかけると、若者は背筋を伸ばして「はい!」と返事をした。
「入隊したばかりのポルトスです。
まだ、駆け出しですが真面目な奴です。」
ロディの紹介にポルトスが顔を赤らめるのを見てヴァルトはニカっと笑った。
「ロディ隊長。頼みがある。
少年が1人訪ねてくるはずなんだ。真っ白な狼を連れている。
本人にはポーレット公爵家のコインを渡してあるから、すぐに分かるはずだ。
訪ねてきたら私に知らせて欲しい。」
「・・・?
分かりました。真っ白な狼を連れた少年ですね。
皆に周知させておきます。」
詳しい話は聞けそうにないが、珍しいヴァルトの願いだ。
ロディは素直に了承した。
「助かる。ありがとう。」
これが、5年前の会話だった。
今も尚、ヴァルトは毎日の様に大門に顔を出すが件の青年が来たという報告はない。
ロディ達も最早、いつ来るかも分からない相手に緊張感もない。
ヴァルトが去り、ロディとポルトスも持ち場に戻ろうとした時だった。
衛兵の1人が駆け込んできた。
「おい!例の盗賊達が魔の森から出てきた冒険者を狙っているってよ!
どうやら、子供連れらしい。」
「なんだと!
こないだ逮捕した連中の生き残りかっ!
ポルトス、急いで向かってくれ。
子供がいるんじゃ、身動き取れないだろう。」
「分かりました!
おい、手がいてる奴は一緒に来てくれ!」
先日、捕縛した盗賊達に逃げた仲間がいたのだろう。
明けない魔の森で疲弊した冒険者達を狙った卑怯な盗賊達には衛兵隊も怒り心頭だった。
それにしても、子連れの冒険者が魔の森に入っていたというのは珍しい。
その後、子供達が盗賊達を捕まえたという報告に笑いが止まらなかったロディだったが、ポルトスが連れてきた黒髪で片目が青くて真っ白な狼を連れた青年がポーレット公爵家のコインを出した時に一瞬思考が停止した。
だが、次の瞬間。
「ポルトス!ヴァルト様に待ち人が来たと伝えろ。彼は私が冒険者ギルドに連れて行く。急げ!」
ヴァルトの待ち人が到着した瞬間、彼らの時間もまた新たな動きを見せ始めたのだった。
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
『拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~』をご覧頂きまして有難う御座います。
この度、書籍化第二弾が刊行される事になりました。
いつも応援して下さる皆様のお陰です。
《2024年5月中旬刊行予定》となっております。
改稿を経て、誤字脱字の修正などして読みやすくなっております。
是非、手にとって頂ければ幸いです。
表紙・挿絵は前回と同じくTAPI岡先生が担当して下さいました。
元気で可愛い子供達を一緒に愛でて下さい。
また順次、新しい情報をお伝えしてまいります。
どうぞ、よろしくお願いします。
ぽん
「ロディ!片目が青くて真っ白な狼を連れた少年は来たか?」
ポーレットの衛兵隊隊長であるロディは毎日の様に顔を出す領主の次男に苦笑した。
「えぇ、来てませんよ。
少年ったってヴァルト様。
あれから5年も経ってんだから、少年って歳じゃないでしょう。」
「あっ・・・それも、そうか!
じゃあ、ロディ、黒髪で片目が青くて真っ白な狼を連れた青年だ!
まだ、来てないか?ポルトスはどうだ?」
話の矛先を向けられた若き隊員は苦笑しながらも首を振った。
「はい、来てませんよ。」
5年前のある日、明けない魔の森の異変を調査して帰ってきたヴァルトが人探しを依頼してきた。
人探しって言っても、さっきから叫んでいる“黒髪で片目が青くて真っ白な狼を連れた青年”がポーレットの街を訪ねてくると言うものだったのだが今だに当人は現れていない。
「全く、あいつは何をのんびりとしているんだ!
もう、5年だぞ。」
こうやって、毎日の様に顔を出し到着を首を長くして待っているヴァルトにロディとポルトスは笑うしかなかった。
「それにポーレット公爵家のコインを渡してあるんでしょ?
衛兵達が見逃すはずがありませんよ。」
「・・・そうか。よし。帰る。」
ロディの言葉に不満そうな顔を隠す事なく屋敷に帰っていくヴァルトを見送りながら、2人は苦笑した。
「あれから5年も経ったんですね。」
「そうだな。あの頃はお前も新人だったな。」
ロディとポルトスはこの不可思議な依頼をされた日の事を思い出していた。
ーーー5年前のあの日。
ポーレット公爵家の次男であるヴァルトは明けない魔の森からポーレットに帰還した時に衛兵隊の隊長ロディを呼び出していた。
平民生まれのロディもポーレットの街で衛兵隊を任される様になり、それなりに貴族との付き合い方を学んできた。
この街の領主であるテオルド・ドゥク・ポーレットは街の人間から愛されている。
目の前で馬から降りてきた次男ヴァルトも気さくで人懐っこい青年だった。
帰還の挨拶をするロディにヴァルトがニッコリとする。
「おぉ、ロディ隊長。
魔の森に危険はなかったよ。
でも、当分冒険者達には注意喚起しておいた方が良いと思うから、冒険者ギルドにも顔を出しておくよ。」
このポーレットの街は明けない魔の森という世界でも有数の未開の土地と隣接している。
恩恵を受ける事も多々あるが、時には森に住む魔獣達が暴走し街を襲う事もあるのだ。
調査に向かったヴァルトの言葉にロディは安堵した。
「それは何よりです。
衛兵隊も街の人間や旅人達に注意を促す事にいたします。
おい。ポルトス、しっかりと皆んなに伝えておけよ。」
「はいっ!隊長!!」
ロディは振り返ると、自分の後ろに控えていた若者に声をかけた。
「おっ?新人か?」
ヴァルトが問いかけると、若者は背筋を伸ばして「はい!」と返事をした。
「入隊したばかりのポルトスです。
まだ、駆け出しですが真面目な奴です。」
ロディの紹介にポルトスが顔を赤らめるのを見てヴァルトはニカっと笑った。
「ロディ隊長。頼みがある。
少年が1人訪ねてくるはずなんだ。真っ白な狼を連れている。
本人にはポーレット公爵家のコインを渡してあるから、すぐに分かるはずだ。
訪ねてきたら私に知らせて欲しい。」
「・・・?
分かりました。真っ白な狼を連れた少年ですね。
皆に周知させておきます。」
詳しい話は聞けそうにないが、珍しいヴァルトの願いだ。
ロディは素直に了承した。
「助かる。ありがとう。」
これが、5年前の会話だった。
今も尚、ヴァルトは毎日の様に大門に顔を出すが件の青年が来たという報告はない。
ロディ達も最早、いつ来るかも分からない相手に緊張感もない。
ヴァルトが去り、ロディとポルトスも持ち場に戻ろうとした時だった。
衛兵の1人が駆け込んできた。
「おい!例の盗賊達が魔の森から出てきた冒険者を狙っているってよ!
どうやら、子供連れらしい。」
「なんだと!
こないだ逮捕した連中の生き残りかっ!
ポルトス、急いで向かってくれ。
子供がいるんじゃ、身動き取れないだろう。」
「分かりました!
おい、手がいてる奴は一緒に来てくれ!」
先日、捕縛した盗賊達に逃げた仲間がいたのだろう。
明けない魔の森で疲弊した冒険者達を狙った卑怯な盗賊達には衛兵隊も怒り心頭だった。
それにしても、子連れの冒険者が魔の森に入っていたというのは珍しい。
その後、子供達が盗賊達を捕まえたという報告に笑いが止まらなかったロディだったが、ポルトスが連れてきた黒髪で片目が青くて真っ白な狼を連れた青年がポーレット公爵家のコインを出した時に一瞬思考が停止した。
だが、次の瞬間。
「ポルトス!ヴァルト様に待ち人が来たと伝えろ。彼は私が冒険者ギルドに連れて行く。急げ!」
ヴァルトの待ち人が到着した瞬間、彼らの時間もまた新たな動きを見せ始めたのだった。
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
『拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~』をご覧頂きまして有難う御座います。
この度、書籍化第二弾が刊行される事になりました。
いつも応援して下さる皆様のお陰です。
《2024年5月中旬刊行予定》となっております。
改稿を経て、誤字脱字の修正などして読みやすくなっております。
是非、手にとって頂ければ幸いです。
表紙・挿絵は前回と同じくTAPI岡先生が担当して下さいました。
元気で可愛い子供達を一緒に愛でて下さい。
また順次、新しい情報をお伝えしてまいります。
どうぞ、よろしくお願いします。
ぽん
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