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束の間のポーレット
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ポーレットを出て数日間・・・。
全くもって魔獣と遭遇しない安全な旅をしていたイオリ達は、ついに“明けない魔の森”の最深部に到達していた。
同行している冒険者ギルド・サブマスであるエルノールは初日の魔法のテントの体験に慄いた。
想像以上の快適さを味わい、普段の生活に戻れるか不安になったほどだ。
「私・・・今、魔の森にいるんですよね?」
風呂に入りながら呟くと子供達に笑われた。
落ち着いて食事を取れるダウンフロアは心地よく、イオリの料理は格別だった。
眠りにつこうとベッドへ移動すればフワフワの手触りに、安心して直ぐに眠りについてしまった。
「・・・これは、不味いですね。
快適すぎて旅をしている気にならない。」
翌朝、紅茶を片手にホッと息をついている自分に驚き危険地帯にいる事を思い出した。
「テントの中は安全ですよ。
防御とステルススキルがついているんです。
魔獣だろうと悪人だろうと入ってこれません。
ポーレット公爵家では、ずっと裏庭にテントを張って暮らしてたんで、家ごと移動した感覚ですね。
もう、こっちの方が落ち着くんですよ。」
微笑むイオリにエルノールは呆れながらも微笑んだ。
2日目からは朝から夕方まで最深部へ向かう事だけを意識した。
「ここまで本当に魔獣に会いませんでしたね。
森が眠ったように静かでした。
以前も1度、そんな報告もありましたが・・・。」
「俺達がポーレットを訪れた頃ですよね?
何でしょうね。」
エルノールはイオリの意味ありげな顔に苦笑すると自分も数度しか来たことのない“明けない魔の森”の最深部に足を踏み入れた。
森の入り口付近の荒れた光景と違い、最深部の景色は美しい。
澄んだ魔素を含んだ水辺に木々が生き生きとしている。
木漏れ日が虹のように輝き苔や果実を照らしていた。
「素晴らしい・・・。」
エルノールだけでなく、1度来たことのあるヒューゴも息を呑んでいた。
「あっ!」
声をあげて指差すナギに誘われるように見上げると、そこにはいつしかのトロールが立っていた。
右手には大きな棍棒を持ち、左手には小さな花を持っていた。
「ここで待ってて。」
イオリは他のみんなを制止すると、ナギの手をとりゼンと3人でゆっくりと近づいた。
「やぁ。会いに来てくれたのかい?」
トロールは澄んだ目でイオリを見つめた。
頷くでもなく見つめるトロールに同意の意味を感じイオリは微笑んだ。
「しばらく、魔の森で・・・君の森で過ごしたいんだ。
良いかな。」
トロールは大きな体を静かに揺らした。
『良いって。嬉しそうだよ。』
ゼンはトロールに近づくとスンスンと挨拶をした。
トロールは満更でもなさそうにゼンを見つめている。
「こんにちわ。
ぼく元気だよ。」
ナギが両手を広げるとトロールは大きな左手を差し出し、花をナギに押し付けた。
「くれるの?ありがとう。
お礼にライアーを聞かせるよ。得意なんだ。」
ナギは苔石に腰掛け貰った花をライアーに巻きつけると清らかな音を奏で始めた。
静かに耳を澄ませていたトロールは満足したのか、方向転換すると森の奥に歩いて行ってしまった。
「また、会おう!」
「バイバイ!またね。」
イオリとナギが大きな背中に声をかけると一度振り向き、また歩いて行ってしまった。
『また聞かせてくれって。』
ゼンが通訳するとナギは嬉しそうに頷き、トロールが見えなくなるまで手を振っていた。
全くもって魔獣と遭遇しない安全な旅をしていたイオリ達は、ついに“明けない魔の森”の最深部に到達していた。
同行している冒険者ギルド・サブマスであるエルノールは初日の魔法のテントの体験に慄いた。
想像以上の快適さを味わい、普段の生活に戻れるか不安になったほどだ。
「私・・・今、魔の森にいるんですよね?」
風呂に入りながら呟くと子供達に笑われた。
落ち着いて食事を取れるダウンフロアは心地よく、イオリの料理は格別だった。
眠りにつこうとベッドへ移動すればフワフワの手触りに、安心して直ぐに眠りについてしまった。
「・・・これは、不味いですね。
快適すぎて旅をしている気にならない。」
翌朝、紅茶を片手にホッと息をついている自分に驚き危険地帯にいる事を思い出した。
「テントの中は安全ですよ。
防御とステルススキルがついているんです。
魔獣だろうと悪人だろうと入ってこれません。
ポーレット公爵家では、ずっと裏庭にテントを張って暮らしてたんで、家ごと移動した感覚ですね。
もう、こっちの方が落ち着くんですよ。」
微笑むイオリにエルノールは呆れながらも微笑んだ。
2日目からは朝から夕方まで最深部へ向かう事だけを意識した。
「ここまで本当に魔獣に会いませんでしたね。
森が眠ったように静かでした。
以前も1度、そんな報告もありましたが・・・。」
「俺達がポーレットを訪れた頃ですよね?
何でしょうね。」
エルノールはイオリの意味ありげな顔に苦笑すると自分も数度しか来たことのない“明けない魔の森”の最深部に足を踏み入れた。
森の入り口付近の荒れた光景と違い、最深部の景色は美しい。
澄んだ魔素を含んだ水辺に木々が生き生きとしている。
木漏れ日が虹のように輝き苔や果実を照らしていた。
「素晴らしい・・・。」
エルノールだけでなく、1度来たことのあるヒューゴも息を呑んでいた。
「あっ!」
声をあげて指差すナギに誘われるように見上げると、そこにはいつしかのトロールが立っていた。
右手には大きな棍棒を持ち、左手には小さな花を持っていた。
「ここで待ってて。」
イオリは他のみんなを制止すると、ナギの手をとりゼンと3人でゆっくりと近づいた。
「やぁ。会いに来てくれたのかい?」
トロールは澄んだ目でイオリを見つめた。
頷くでもなく見つめるトロールに同意の意味を感じイオリは微笑んだ。
「しばらく、魔の森で・・・君の森で過ごしたいんだ。
良いかな。」
トロールは大きな体を静かに揺らした。
『良いって。嬉しそうだよ。』
ゼンはトロールに近づくとスンスンと挨拶をした。
トロールは満更でもなさそうにゼンを見つめている。
「こんにちわ。
ぼく元気だよ。」
ナギが両手を広げるとトロールは大きな左手を差し出し、花をナギに押し付けた。
「くれるの?ありがとう。
お礼にライアーを聞かせるよ。得意なんだ。」
ナギは苔石に腰掛け貰った花をライアーに巻きつけると清らかな音を奏で始めた。
静かに耳を澄ませていたトロールは満足したのか、方向転換すると森の奥に歩いて行ってしまった。
「また、会おう!」
「バイバイ!またね。」
イオリとナギが大きな背中に声をかけると一度振り向き、また歩いて行ってしまった。
『また聞かせてくれって。』
ゼンが通訳するとナギは嬉しそうに頷き、トロールが見えなくなるまで手を振っていた。
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