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束の間のポーレット

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 草原のど真ん中でモレロ伯爵家次男ダスティンはパティに振られてしょげていた。

 男達がガッツポーズをするのを呆れた顔で見ていたオルガ夫人がダスティンの側に寄った。

「坊や。諦めなさいな。
 今の貴方じゃ、誰にも魅力は感じなくってよ。」

「でも、でも・・・。」

 それでも悔しそうなダスティンにオルガ夫人は苦笑した。

「大方、王都の王城であの子を見かけたのでしょうけれど、お父上とお母上は知ってらっしゃるの?」

 首を静かに横に振るダスティンの代わりに従者がオズオズと説明し始めた。

「旦那様方には内緒でお屋敷をお出になられたのです。
 おっしゃる通り、かの令嬢を見染めたダスティン様が何度も会いたいと旦那様に願ったのですが願いが叶わず・・・。」

「家を飛び出してきたのね・・・ハァ。」

 オルガ夫人は溜息を吐くと、ダスティンを見下ろした。

「良い事。
 男性は好きな女性を誘う時に無理矢理にするものではありません。
 さっきの貴方の態度はオモチャを買って貰えない子供が駄々を捏ねるのと同じです。
 女性はオモチャではないのですよ。」

「はい・・・。」

 オルガ夫人の言葉に小さな声で返事をするダスティンに男達は訝しがった。

「まずは相手が何を求めているか考えなさい。
 何が好きなのか、何が嫌なのか、自分の考えばかりを押し付けて関係が成り立つわけがないのです。」

 子供に送るアドバイスとしては些かと言わざるおえないが、真っ当な言葉ではある。

「はい・・・。」

「それに、あの子はこれから自立した女性に育っていきます。
 貴方はどうです?
 従者を困らせ、冒険者を犯罪者にし、ご両親を危険な目に合わせておいでだわ。」

「なぜですか?」

 ダスティンは心底不思議そうな顔をするとオルガ夫人を見上げた。

「貴族は権力を持ち、使用人よりも市民よりも自分の考えを押し通す事が出来ます。
 しかし、それには責任も付き纏うのですよ。
 貴方が握っている人の命の重みをしっかりと考え理解しなさい。
 
 貴方の爺やはお屋敷に戻ったらクビにされるでしょう。
 貴方の勝手な行動とはいえ、貴方自身を危険に晒したのですからね。
 冒険者達はギルドで厳しい沙汰を下されるでしょう。
 貴方の我儘で公爵家・・・伯爵家よりも偉い家柄を監視していたのですからね。
 貴方はお屋敷に帰れば怒られて終わりでしょう。
 しかし貴方に付き従ってきた彼らは罰を受けるのです。
 最後に、ご両親は貴方の行いに対して責任を取らされるでしょう。
 国王陛下のお怒りがどの程度で済むか、私にも分かりかねます。」

「そんな!!」

 ダスティンは縋るように爺やに抱きついた。

「それが大切な者を我儘に付き合わせた貴方の責任の取り方であり、罰なのです。
 さぁ、今の貴方に少女をつけ回し、欲しいと声を出す事が出来ますか?」

 穏やかだが誰よりも厳しい言葉を投げかけたオルガ夫人にイオリ達は感心した。

「・・・いいえ。」

「学びなさい。坊や。
 無知は罪を作ります。
 学びなさい。魅力的な男性になるにはどうすれば良いのかを。」

「・・・はい。ごめんなさい。ごめんなさい。」

 初めて自分の行動の過ちを知ったダスティンは涙を流しながら謝罪をした。

 そんな時だった。

「あー!ブラックパンサー!」

 ナギが魔の森から飛び出てきたブラックパンサーに気づき丘の上を指を差した。
 
「ヒィ!」

 ダスティンは恐怖で震えながら爺やにしがみついた。
 そんなダスティンにスコルはニッコリとした。

「まだまだ、お子様だね。」

 そう言うと、長刀を手にすると走り出した。

「あっ、パティも!!」

 パティは慌てて髪をギュと結び直すと双剣を手にしてスコルの後を追った。
 一足先にたどり着いたスコルがブラックパンサーの心臓を一突きすると、追いついたパティが首を切り落とした。

 唖然と見ていたダスティンはペタッと座り込んでしまった。

「ほらね。
 あの子は貴方がいなくても生きていけるの。
 貴方はどうかしら?」

 オルガ夫人の声が聞こえいるのかいないのか、ダスティンはただ見ている事しかできなかった。
 

「イオリー!解体していい??」

 スナイパーライフルを構えていたイオリは双子がご機嫌に手を振っているのを見て笑うしかなかったのであった。
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