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束の間のポーレット
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太陽が差し込む清々しい朝、イオリ達はいつもと同じように目覚めると淡々と準備を始めた。
着替えてから朝食を済ませ、テントを片付けて他の荷物と一緒に腰バックにしまった。
最後に竈門の火を落とすと、見守ってくれていた庭師のボーに挨拶をする。
「今度は長めに離れます。
あとは、よろしくお願いします。」
「えぇ、えぇ。
お任せ下さい。
花壇の世話の間にここで休憩するのが好きなんです。
お守りいたしますよ。」
「ありがとうございます。」
イオリが礼を言うと、子供達はボーにしがみつきお別れを言った。
特に、植物の話で気が合うナギは最後まで抱きついていた。
ボーは目端に涙を溜めながらも笑顔で別れを告げたのだった。
次に公爵家に行くと、そこでも朝食を楽しむいつもと同じ風景だった。
「行くのか?」
ニコライが立ち上がるとイオリ達に近づいてきた。
「はい。行ってきます。」
テオルドとオルガ夫人は持っていたティーカップを下ろすとニッコリ微笑む。
「今日は私達も遠乗りをしようと思うんだ。
魔の森近くまで見送ろう。
今からカサドの所だろう?
壁門のところで落ち合おう。」
テオルドの言葉に子供達も大喜びだ。
オルガ夫人に抱きつくと「後でね。」と騒ぎ始めた。
「はい。楽しみにしてます。
ヴァルトさん達は?」
「いるぞ!」
すでに、馬に乗る姿になっていたヴァルトはカサドの所にも一緒に行くと言う。
「それでは、父上達はまた後で!!」
イオリ達と共に屋敷を出たヴァルトは待っていた従者のトゥーレとマルクルの元に行った。
「2人には、調べ物をさせていたからな。
コイツらも久しぶりの遠乗りを楽しみにしていたんだ。」
「そうですよ!面倒事は私達に任せて、ご自分は街へ出るなんて!」
「そうだ!主人のくせにズルいぞ!」
主従関係の中で何も変な事では無いのだが、この友情で結ばれている3人にとって暴言も口喧嘩で済んでしまう。
「主人のくせにって・・・。
悪かったよ。
だから、今日はイオリ達と出かけられるんだろうが!
行くぞ!」
変わらぬ3人のやり取りに、イオリ達は笑い出した。
「カサドさんの工房の前に行くところがあるんです。」
そう話すイオリの後をついて行くと、“パウロ&カーラ“の扉を開いた。
「こんにちわ。」
「いらっしゃいませ。
あら、今日は皆さまお揃いで!
ヴァルト様、ご機嫌いかがですか?
イオリさん、お待ちしておりましたよ。
とっても素敵なのが出来上がってますの。
主人を呼んで来ますね。」
カーラは変わらぬ優雅な仕草で挨拶をすると工房へ姿を消していった。
「お前はまた・・・。
何を始めたんだ?」
呆れ顔のヴァルトにイオリは肩を竦めた。
「ちょっと提案しただけですよ。」
2人が小競り合いをしていた時だった。
ご機嫌なパウロが工房から飛び出てきてイオリの手を取りブンブンと振った。
「見てください!良い物が出来上がったんですよ!」
弟子達が次々と持ってくる大皿やポットなどの焼物にヴァルトやトゥーレ、マルクスは驚き言葉をなくた。
「「「「可愛い!!」」」」
子供達は自分たちが書いた絵柄も利用された、今まで見た事のない可愛らしいデザインに目を煌めかせた。
「どうです?良い出来でしょう?」
ポーリッシュ風と言えば分かるだろうか、花や鳥、他にも丸や三角などが散りばめられたデザインは色付けと相まって、実に愛らしく仕上がっていた。
「素晴らし物ができましたね。
想像以上です。」
イオリに褒められてパウロをはじめ職人達は喜んだ。
ヴァルトは皿を1つ手に取ると、見たこともない全面模様がついたデザインに感嘆した。
「これは・・・母上が喜ぶな。
パウロ!これは、この店の名物になるぞ!」
パウロは自信を持って頷くとイオリと微笑んだ。
「パウロさん。
何枚か買わせていただくことは出来ますか?
実は、これから暫くの間、街を離れるんです。」
「そうですか・・・・。
イオリさんは冒険者ですからね。
寂しくなります。
何枚かと言わず、好きなだけお持ちください。
我々はこれから量産すればいいのですから。
是非とも旅でもお使い下さい。」
拒否権も与えずに、さまざまな食器を包んでいくカーラと弟子達はドンドン子供達にも渡していく。
子供達は可愛らしい食器に喜んでいた。
「お花のスープカップなんて、もっと美味しくなっちゃうね。」
「小鳥のサラダボウルなんて、本当の鳥が来ちゃうんじゃない?」
「こっちのポットもお茶を入れたら楽しいよ。」
「お菓子はこの小さいお皿で食べようよ。」
パウロは子供達の反応に満足そうに頷いていた。
「お気遣い、ありがとうございます。
帰ってきたら、またお礼に伺います。
それまで、お元気で。」
イオリはパウロとカーラに礼を言うと店の扉に手をかけた。
「お帰りになる頃には、もっと多くの作品を作ってますよ。
イオリさん、皆さんもお元気で。」
見送ってくれる2人に手を振りながら、イオリ達はポーレットの街を下って行った。
着替えてから朝食を済ませ、テントを片付けて他の荷物と一緒に腰バックにしまった。
最後に竈門の火を落とすと、見守ってくれていた庭師のボーに挨拶をする。
「今度は長めに離れます。
あとは、よろしくお願いします。」
「えぇ、えぇ。
お任せ下さい。
花壇の世話の間にここで休憩するのが好きなんです。
お守りいたしますよ。」
「ありがとうございます。」
イオリが礼を言うと、子供達はボーにしがみつきお別れを言った。
特に、植物の話で気が合うナギは最後まで抱きついていた。
ボーは目端に涙を溜めながらも笑顔で別れを告げたのだった。
次に公爵家に行くと、そこでも朝食を楽しむいつもと同じ風景だった。
「行くのか?」
ニコライが立ち上がるとイオリ達に近づいてきた。
「はい。行ってきます。」
テオルドとオルガ夫人は持っていたティーカップを下ろすとニッコリ微笑む。
「今日は私達も遠乗りをしようと思うんだ。
魔の森近くまで見送ろう。
今からカサドの所だろう?
壁門のところで落ち合おう。」
テオルドの言葉に子供達も大喜びだ。
オルガ夫人に抱きつくと「後でね。」と騒ぎ始めた。
「はい。楽しみにしてます。
ヴァルトさん達は?」
「いるぞ!」
すでに、馬に乗る姿になっていたヴァルトはカサドの所にも一緒に行くと言う。
「それでは、父上達はまた後で!!」
イオリ達と共に屋敷を出たヴァルトは待っていた従者のトゥーレとマルクルの元に行った。
「2人には、調べ物をさせていたからな。
コイツらも久しぶりの遠乗りを楽しみにしていたんだ。」
「そうですよ!面倒事は私達に任せて、ご自分は街へ出るなんて!」
「そうだ!主人のくせにズルいぞ!」
主従関係の中で何も変な事では無いのだが、この友情で結ばれている3人にとって暴言も口喧嘩で済んでしまう。
「主人のくせにって・・・。
悪かったよ。
だから、今日はイオリ達と出かけられるんだろうが!
行くぞ!」
変わらぬ3人のやり取りに、イオリ達は笑い出した。
「カサドさんの工房の前に行くところがあるんです。」
そう話すイオリの後をついて行くと、“パウロ&カーラ“の扉を開いた。
「こんにちわ。」
「いらっしゃいませ。
あら、今日は皆さまお揃いで!
ヴァルト様、ご機嫌いかがですか?
イオリさん、お待ちしておりましたよ。
とっても素敵なのが出来上がってますの。
主人を呼んで来ますね。」
カーラは変わらぬ優雅な仕草で挨拶をすると工房へ姿を消していった。
「お前はまた・・・。
何を始めたんだ?」
呆れ顔のヴァルトにイオリは肩を竦めた。
「ちょっと提案しただけですよ。」
2人が小競り合いをしていた時だった。
ご機嫌なパウロが工房から飛び出てきてイオリの手を取りブンブンと振った。
「見てください!良い物が出来上がったんですよ!」
弟子達が次々と持ってくる大皿やポットなどの焼物にヴァルトやトゥーレ、マルクスは驚き言葉をなくた。
「「「「可愛い!!」」」」
子供達は自分たちが書いた絵柄も利用された、今まで見た事のない可愛らしいデザインに目を煌めかせた。
「どうです?良い出来でしょう?」
ポーリッシュ風と言えば分かるだろうか、花や鳥、他にも丸や三角などが散りばめられたデザインは色付けと相まって、実に愛らしく仕上がっていた。
「素晴らし物ができましたね。
想像以上です。」
イオリに褒められてパウロをはじめ職人達は喜んだ。
ヴァルトは皿を1つ手に取ると、見たこともない全面模様がついたデザインに感嘆した。
「これは・・・母上が喜ぶな。
パウロ!これは、この店の名物になるぞ!」
パウロは自信を持って頷くとイオリと微笑んだ。
「パウロさん。
何枚か買わせていただくことは出来ますか?
実は、これから暫くの間、街を離れるんです。」
「そうですか・・・・。
イオリさんは冒険者ですからね。
寂しくなります。
何枚かと言わず、好きなだけお持ちください。
我々はこれから量産すればいいのですから。
是非とも旅でもお使い下さい。」
拒否権も与えずに、さまざまな食器を包んでいくカーラと弟子達はドンドン子供達にも渡していく。
子供達は可愛らしい食器に喜んでいた。
「お花のスープカップなんて、もっと美味しくなっちゃうね。」
「小鳥のサラダボウルなんて、本当の鳥が来ちゃうんじゃない?」
「こっちのポットもお茶を入れたら楽しいよ。」
「お菓子はこの小さいお皿で食べようよ。」
パウロは子供達の反応に満足そうに頷いていた。
「お気遣い、ありがとうございます。
帰ってきたら、またお礼に伺います。
それまで、お元気で。」
イオリはパウロとカーラに礼を言うと店の扉に手をかけた。
「お帰りになる頃には、もっと多くの作品を作ってますよ。
イオリさん、皆さんもお元気で。」
見送ってくれる2人に手を振りながら、イオリ達はポーレットの街を下って行った。
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