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束の間のポーレット

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 朝靄の中、イオリはテントから出ると大きく伸びをした。

 肩に乗ったソルが目覚めの挨拶にと顔を擦り付けてくる。
 そんなソルにイオリは微笑むと石窯と竈門に火を入れ、お湯を沸かし始めた。
 
「おはよう。」

 数分後、ヒューゴが斧を片手にテントから出てきた。

「あっ。おはようございます。
 子供達はまだ寝てますか?」

「ナギはモゾモゾしてたぞ。
 そろそろ目を覚ますんじゃないか?
 薪、いるだろう?
 多めに割っておくよ。」

「助かります。
 後でカモミールティー淹れますね。」


 カコーン!カコーン!

 ヒューゴが奏でる薪割りの音が木々の中に響いているとテントからゼンとナギがピョコっと顔を出した。

「おはよう。良く眠れた?」

「うん!おはよう。」

 寝起きの良いナギは子供達の中で1番早く起きる。
 ナギはイオリを独り占め出来る、この時間が大好きだ。

 朝ご飯の準備をするイオリの側で準備運動をしながら、おしゃべりをする。
 最近、読んだ本の話。
 パティがスコルの耳を引っ張りながら眠っている話。
 ニナと魔法の練習を楽しみにしている話。

 イオリはニコニコとナギの話を聞いていた。

「それじゃー。
 ボーさんのところ行ってくるね。」

 おしゃべりに満足したのか、ナギは花壇の世話をしているであろう庭師のボーの手伝いに走っていった。

「行ってらっしゃい!
 朝ご飯までには帰っておいでね!」

「はーい!」

 出会った頃より沢山の表情を見せてくれる様になったナギの背をイオリは笑顔で見送った。

 そうこうしていると、スコルがニナの手を引いて出てきた。
 最近1人で着替える事ができるようになったニナの洋服をスコルが直している。

「ヨシ!ニナ、もういいよ。
 イオリ、おはよう。」

「2人ともおはよう。
 やっぱり、パティが最後かぁ。
 あはは!
 ニナ1人で着たの?凄いな。」

 褒められて「ムフー」と微笑んだニナは薪割りで汗を流すヒューゴに走り寄った。

「おはよう。ニナ。
 今日もご機嫌だな。
 もう少しで薪割りが終わるから、待っててくれ。
 危ないから離れなさい。」

「あい!兄さま、がんばれ。」

 ヒューゴは小さな妹の応援に微笑んだ。


「イオリ。手伝うよ。
 何する?」

 スコルは水道で手を洗うとイオリの元にやってきた。

「お湯沸いたからカモミールティーを淹れてくれる?」

「うん!いいよ。
 今日はパンのご飯?」

「そう、オムレツ焼いて野菜たっぷりのスープも作るよ。」

 スコルは石窯の中からしてくるパンの匂いにニッコリするとカモミールをポットに入れ、お湯を注ぎ込んだ。

 その間にヒューゴは薪割りを終え、ひとまとめにするとシャワーを浴び再び姿を現した。

「お疲れ様。カモミールティーだよ。
 パティ寝てた?」

 スコルがヒューゴにマグカップを差し出す。

「おう。ありがとう。
 アウラが頭を噛んで起こしてた。
 ・・ほら、来たぞ。くくくっ」

 ヒューゴが笑いながら指さすとテントからパジャマ姿のパティを乗せてアウラが姿を現した。
 うつ伏せで大の字で眠っているパティをアウラは「この子、どうにかして。」と呆れた顔をしている。

 イオリは溜めを吐くとパティの耳元に顔を近づけた。

「ちゃんと身支度しない子には朝ご飯はありませんよ。
 あーぁ。トロトロのオムレツ美味しいのになぁ。」

 イオリの囁きにパティはガバッと起き上がるとニッコリとした。

「みんな、おはよう!着替えてくるね!」

 そう言うとパティは急いでテントに戻って行った。

「全く、あの子は・・・。ふふふ。
 アウラもお疲れ様。
 もう少しで出来上がるからナギを呼んできてくれる?」

「ヒヒン!」

 イオリの頼みにアウラは木々を抜けて駆けて行った。

「ジャジャーン!!出来たよ!」

 急いで着替えて来たのだろう。
 所々、服はクシャっとなっていて髪の毛も下ろしたままの姿で現れたパティにスコルは呆れた顔をして服を直してやった。

「小さいニナと同じだよ。
 ご飯はもうすぐだから、髪も梳かしなよ。
 ニナの髪の毛も結んでくれる?」

「任せて!!」

 パティはヒューゴの膝にいるニナの元に走っていった。
 その直後、ニナの髪を結うパティ。パティの髪を結うヒューゴの図が出来上がっていた。
 ニナは小さい三つ編みのおさげが出来上がりリボンをカチューシャ風に頭に巻いてもらっていた。
 パティは編み込みのハーフアップにしてもらいニナと色違いのリボンを付けてもらっていた。

「出来た!見て!完成!!」

 パティはニナの手をとり2人でクルッと回った。

「うん。可愛く出来たね。
 さぁ、朝ごはんも出来上がったから最後のお手伝いお願い。」

「「はーい!」」

 イオリとスコルが料理をよそうと、パティとニナがテーブルまで運んで行った。
 この時、ヒューゴはどんなに危なっかしくてもニナを手伝いはしない。
 辛抱強く見守っていた。
 今日も、プルプルしながら運んできたニナから皿を受け取る。

「ありがとう。」

 ニナは嬉しそうに頷くと再びイオリの元に戻って行った。

「ただいま!ボーさんも一緒に来たよ。」

 花壇の手伝いをしていたナギがアウラと庭師・ボーと一緒に戻ってきた。

「お帰り!ちょうど出来たから、手を洗っておいで。
 ボーさん。おはようございます。
 どうぞ、食べて行ってください。
 今日はオムレツですよ。」

「有難うございます。
 御相伴に預かりやす。」

 ボーは麦わら帽子を脱ぐと頭を下げてナギと共に水道に向かった。

 全員がテーブルに揃うと、イオリはニッコリとして手を合わせた。

「いただきます。」

「「「「「「いただきます!!」」」」」」


 こうして1日が始まっていくのである。
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