上 下
445 / 472
束の間のポーレット

517

しおりを挟む
 怒涛の如くやってきたホワイトキャビンのバートはポーレット公爵テオルドへの面会を所望した。
 イオリを逃すまいと必死なバートに部屋にやってきたニコライとヴァルトは驚いた。

「どうした?イオリがまた、やったか?」

 ニコライはクリストフにカモミールティーを頼むとソファーに座った。

「そうなんです!
 素晴らしいアイディアではあるのですが、公爵様に許可を頂かなくてはならない事案でして・・・。」

「だから!バートさんにお任せしますって!」

「そうはいきませんよ!ちゃんと、ご本人の口から説明しないと伝わりませんからね!」

 イオリとバートが言い争いをしていると、ポーレット公爵テオルドが従者ノアを連れて現れた。

「一体、どうしたのだ?
 ・・・イオリ。また、やったのか?」

 クスクス笑うテオルドにイオリは頬を膨らませた。

「だって!良い考えかなって思ったんですよ!」

「良い考えですよ!だから、ちゃんと公爵様にご説明を!」

 バートの剣幕に折れたイオリが深い溜息を吐いた。
 テオルドやニコライ、ヴァルトもニヤニヤとしている。

「じゃぁ・・・説明しますね。
 図書館に保育施設を作ったら良いんじゃないかと思ったんです。」

「ホイクシセツ・・・?何だそれは?」

 イオリは散々説明してきた事をもう一度、分かりやすく説明をした。
 保育施設は両親ともに働く家庭においては利用価値が高く、さもすれば犯罪率も下げられると提案をすればテオルドは目を輝かせた。
 
「少なからずとも、親がそばにいない為に事故や誘拐に巻き込まれる事案は存在する。
 その可能性が低くなるのならば、やる価値はあるだろう。」

 イオリが伝えたのは、あくまでも知っている知識であって実際に運用するのは彼らである。
 それでも、市民を大事に思うポーレット公爵家の面々が自分の知識をうまく活用してくれる事にイオリは嬉しく思っていた。

「エドバルド神父も、とても前向きに考えてくれているようでした。
 しかし・・・全てを教会で受け持つと言うのは・・・。」

 バートの不安にテオルドは理解を示した。
 本来の教会の仕事もある、負担をかけ過ぎるのも考えものだ。

「それらな、私が受け持ちましょう。」

 そこに現れたのはポーレット公爵夫人オルガの姿だった。

「子供達の成長が街の宝になるのなら、それは公爵家の人間の仕事です。
 旦那様もお忙しく公務をしていらっしゃくわけですから、妻の私がやるのが筋です。
 これから、代々公爵家の妻の公務にすれば良いのです。」

 ニッコリと微笑むオルガ夫人に夫であるテオルドは苦笑した。

「良いのか?まったり、のんびりが出来ないぞ?」

「あら!致しますわよ。まったり、のんびり子供達を見守りますわ。
 それに1人親などは、もっと心配でしょう。
 親も安心して仕事に慢心できるのなら、ポーレットの為になるのではなくて?」

 母親のやる気に息子2人は驚くものの、次第に笑顔になり頷いた。

「母上がやるのなら、応援しますよ。」

「私も、応援します。」

 その言葉にオルガ夫人は目をキラリとさせて、扇子で息子2人をビシッと指した。

「言ったわね!言質とったわ!
 聞いたわね。バート!この2人を、じゃんじゃん使いなさい!」

「畏まりました!ありがとうございます!」

 バートは勢い良く立ち上がり頭を下げた。

「あ・・・あぅ。」
「いえ・・あの・・・。」

「よくって?2人とも。
 応援とは、言葉ではなく行動で表すものよ。ふふん。
 バート。相談致しましょう。
 ほら!2人とも私の執務室にいらっしゃい!」

 オルガ夫人が部屋を後にすると、バートは颯爽とついて行き、2人の兄弟はトボトボと後を追った。

 テオルドはクスクスと笑いながら、妻の強かさを愛おしく思うのだった。

「怖・・・。俺は呼ばれなくて良かった・・・。」

 ドキドキする心臓を押さえていたイオリをテオルドとノアが苦笑していた時だった。

「失礼いたします。奥様がイオリ様をお待ちです。」

 侍女頭モーナの声にイオリは頭を抱えたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。