上 下
443 / 472
束の間のポーレット

515

しおりを挟む
 ギルマスの部屋から出たイオリはギルドの酒場から送られて来る多くの視線を気にせずに冒険者ギルドを後にした。

「面倒な貴族ね・・・。」

 アースガイルの貴族かミズガルドの貴族か、頭が痛くなる事を考えるのをやめてイオリは教会へ向かった。
 
 昼下がりの噴水広場は人の往来が激しい。
 仕事の人、観光の人、貴族や市民、それぞれが日常を送っている。
 イオリは教会の大きな扉を押すと中に入っていった。
 
「イオリさん!」

 神父であるエドバルドが笑顔で手招きをしている。
 その隣にはホワイトキャビンのバートとメルロスが立っていた。

「お忙しい中、申し訳ない。
 でも、イオリさん達が出発される前にご相談したくて。」

 エドバルドは、いつもよりも微笑んでいるように見えた。

「図書館の話ですか?」

「そうなんです。
 ポーレット公爵からも許可がおりまして。
 計画していこうと思います。」

 バートは書類を差し出すとイオリに見せた。
 
「商業ギルドに土地の確保を頼んだら、今は使われていない南側の倉庫を提案されたんですよ。
 大きさも十分ですし、王都の図書館の計画図と比べても遜色はありませんでした。」

 そんなバートの隣でメルロスは考え込んでいた。

「メルロスさん。どうしました?」

 イオリに話しかけられて、ハッとしたメルロスは言い淀みながらも話し始めた。

「王都から一緒に来たシオンって覚えていますか? 
 彼女、ポーレットの出身で仕事で王都に上京していたんです。
 今回の図書館の計画を話したら、とても喜んでいて友達に話したそうなんです。
 そうしたら、《良い物ができても忙しくて連れて行けない》って言われたそうなんです。
 孤児や子供達の為にと言うのは良いのですが、活用されなければ意味がないなと思います。」

 メルロスの話は確かに痛い話である。
 税金ではなくホワイトキャビンが公共事業にをしている為に、勝手に作っても誰に文句を言われる事でもないのだが、せっかく作ったのなら多くの人に利用して欲しい。
 同じように思っているのかバートもエドバルドも考え込んでいた。

「忙しいとは、仕事をなさっているからですか?」

「そうですね。家業もあるし、お勤めに行ってる親達もいます。
 ポーレットでは男性に限らず多くの女性も働いているんです。」

 エドバルドは腕組みしながら唸っていた。

「その間、子供達はどうしているんですか?」

 イオリの疑問にメルロスやエドバルドはキョトンとした。

「ポーレットには学校も存在しますし、職業訓練所もあります。
 ある程度の年になると子供達も学ぶべき場所がありますが、幼い子達は兄弟で家にいるか近所の子と遊んでいますね。
 親の職場の裏路地に集まっている事もあります。」

 どうやら当たり前なのか、大して気にしていないようである。

「だったら、保育園という考え方もありますね・・・。」

「ホイクエン?何ですかそれは??」

 初めての言葉に反応したのはバートだった。

「親が働いている間に、子供達を預かる場所の事です。
 当然、保育士には資格があり給料も支払います。
 図書館と並列して作れば、子供達はいつでも本を読む事ができますし、ご両親は安心して仕事に向かう事が出来て良いんじゃないですか?」

「それは・・・教会がしている孤児の教育とは違うんですね?」

 エドバルドが首を傾げるとイオリは首を振った。

「子供の教育に違いはありませんが、親が忙しい間に子供が1人でいるのは危険も付き物でしょう?
 大人の目があって自由に遊び、時には人との共存を学べる場があっても良いのではないでしょうか?」

 イオリの提案にメルロスは顔を輝かせた。

「それなら、子供達が裏路地で犯罪者に狙われる事もありませんし、親が迎えに来るまで孤独ではありませんね。」

「しかし、それは大事だ。
 ポーレットという街の政治にも関わる大事業です。
 公爵様にご相談しなければ始められませんね。」

「そうですね。
 イオリさんの提案通りですと、多くの子供が集まってきます。
 学校や訓練所の前の段階になりますね・・・。
 えぇ、公爵様にお話を聞いていただきましょう。」

 イオリの思いつきは、いつも大事になってしまう。
 「しまった・・・。」と思っても後の祭り、イオリは絶対神リュオンの像に舌を出すと、リュオン様が微笑んだ・・・気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん
ファンタジー
⭐︎書籍化決定⭐︎  『拾ってたものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』  第2巻:2024年5月20日(月)に各書店に発送されます。  書籍化される[106話]まで引き下げレンタル版と差し替えさせて頂きます。  第1巻:2023年12月〜    改稿を入れて読みやすくなっております。  是非♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は小さな子狼に気に入られ、共に異世界に送られた。 絶対神リュオンが求めたのは2人で自由に生きる事。 前作でダークエルフの脅威に触れた世界は各地で起こっている不可解な事に憂慮し始めた。 そんな中、異世界にて様々な出会いをし家族を得たイオリはリュオンの願い通り自由に生きていく。 まだ、読んでらっしゃらない方は先に『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』をご覧下さい。 前作に続き、のんびりと投稿してまいります。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15にしています。 ※誤字脱字が存在する可能性か高いです。  苦笑いで許して下さい。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。