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束の間のポーレット
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ギルマスの部屋から出たイオリはギルドの酒場から送られて来る多くの視線を気にせずに冒険者ギルドを後にした。
「面倒な貴族ね・・・。」
アースガイルの貴族かミズガルドの貴族か、頭が痛くなる事を考えるのをやめてイオリは教会へ向かった。
昼下がりの噴水広場は人の往来が激しい。
仕事の人、観光の人、貴族や市民、それぞれが日常を送っている。
イオリは教会の大きな扉を押すと中に入っていった。
「イオリさん!」
神父であるエドバルドが笑顔で手招きをしている。
その隣にはホワイトキャビンのバートとメルロスが立っていた。
「お忙しい中、申し訳ない。
でも、イオリさん達が出発される前にご相談したくて。」
エドバルドは、いつもよりも微笑んでいるように見えた。
「図書館の話ですか?」
「そうなんです。
ポーレット公爵からも許可がおりまして。
計画していこうと思います。」
バートは書類を差し出すとイオリに見せた。
「商業ギルドに土地の確保を頼んだら、今は使われていない南側の倉庫を提案されたんですよ。
大きさも十分ですし、王都の図書館の計画図と比べても遜色はありませんでした。」
そんなバートの隣でメルロスは考え込んでいた。
「メルロスさん。どうしました?」
イオリに話しかけられて、ハッとしたメルロスは言い淀みながらも話し始めた。
「王都から一緒に来たシオンって覚えていますか?
彼女、ポーレットの出身で仕事で王都に上京していたんです。
今回の図書館の計画を話したら、とても喜んでいて友達に話したそうなんです。
そうしたら、《良い物ができても忙しくて連れて行けない》って言われたそうなんです。
孤児や子供達の為にと言うのは良いのですが、活用されなければ意味がないなと思います。」
メルロスの話は確かに痛い話である。
税金ではなくホワイトキャビンが公共事業に寄付をしている為に、勝手に作っても誰に文句を言われる事でもないのだが、せっかく作ったのなら多くの人に利用して欲しい。
同じように思っているのかバートもエドバルドも考え込んでいた。
「忙しいとは、仕事をなさっているからですか?」
「そうですね。家業もあるし、お勤めに行ってる親達もいます。
ポーレットでは男性に限らず多くの女性も働いているんです。」
エドバルドは腕組みしながら唸っていた。
「その間、子供達はどうしているんですか?」
イオリの疑問にメルロスやエドバルドはキョトンとした。
「ポーレットには学校も存在しますし、職業訓練所もあります。
ある程度の年になると子供達も学ぶべき場所がありますが、幼い子達は兄弟で家にいるか近所の子と遊んでいますね。
親の職場の裏路地に集まっている事もあります。」
どうやら当たり前なのか、大して気にしていないようである。
「だったら、保育園という考え方もありますね・・・。」
「ホイクエン?何ですかそれは??」
初めての言葉に反応したのはバートだった。
「親が働いている間に、子供達を預かる場所の事です。
当然、保育士には資格があり給料も支払います。
図書館と並列して作れば、子供達はいつでも本を読む事ができますし、ご両親は安心して仕事に向かう事が出来て良いんじゃないですか?」
「それは・・・教会がしている孤児の教育とは違うんですね?」
エドバルドが首を傾げるとイオリは首を振った。
「子供の教育に違いはありませんが、親が忙しい間に子供が1人でいるのは危険も付き物でしょう?
大人の目があって自由に遊び、時には人との共存を学べる場があっても良いのではないでしょうか?」
イオリの提案にメルロスは顔を輝かせた。
「それなら、子供達が裏路地で犯罪者に狙われる事もありませんし、親が迎えに来るまで孤独ではありませんね。」
「しかし、それは大事だ。
ポーレットという街の政治にも関わる大事業です。
公爵様にご相談しなければ始められませんね。」
「そうですね。
イオリさんの提案通りですと、多くの子供が集まってきます。
学校や訓練所の前の段階になりますね・・・。
えぇ、公爵様にお話を聞いていただきましょう。」
イオリの思いつきは、いつも大事になってしまう。
「しまった・・・。」と思っても後の祭り、イオリは絶対神リュオンの像に舌を出すと、リュオン様が微笑んだ・・・気がした。
「面倒な貴族ね・・・。」
アースガイルの貴族かミズガルドの貴族か、頭が痛くなる事を考えるのをやめてイオリは教会へ向かった。
昼下がりの噴水広場は人の往来が激しい。
仕事の人、観光の人、貴族や市民、それぞれが日常を送っている。
イオリは教会の大きな扉を押すと中に入っていった。
「イオリさん!」
神父であるエドバルドが笑顔で手招きをしている。
その隣にはホワイトキャビンのバートとメルロスが立っていた。
「お忙しい中、申し訳ない。
でも、イオリさん達が出発される前にご相談したくて。」
エドバルドは、いつもよりも微笑んでいるように見えた。
「図書館の話ですか?」
「そうなんです。
ポーレット公爵からも許可がおりまして。
計画していこうと思います。」
バートは書類を差し出すとイオリに見せた。
「商業ギルドに土地の確保を頼んだら、今は使われていない南側の倉庫を提案されたんですよ。
大きさも十分ですし、王都の図書館の計画図と比べても遜色はありませんでした。」
そんなバートの隣でメルロスは考え込んでいた。
「メルロスさん。どうしました?」
イオリに話しかけられて、ハッとしたメルロスは言い淀みながらも話し始めた。
「王都から一緒に来たシオンって覚えていますか?
彼女、ポーレットの出身で仕事で王都に上京していたんです。
今回の図書館の計画を話したら、とても喜んでいて友達に話したそうなんです。
そうしたら、《良い物ができても忙しくて連れて行けない》って言われたそうなんです。
孤児や子供達の為にと言うのは良いのですが、活用されなければ意味がないなと思います。」
メルロスの話は確かに痛い話である。
税金ではなくホワイトキャビンが公共事業に寄付をしている為に、勝手に作っても誰に文句を言われる事でもないのだが、せっかく作ったのなら多くの人に利用して欲しい。
同じように思っているのかバートもエドバルドも考え込んでいた。
「忙しいとは、仕事をなさっているからですか?」
「そうですね。家業もあるし、お勤めに行ってる親達もいます。
ポーレットでは男性に限らず多くの女性も働いているんです。」
エドバルドは腕組みしながら唸っていた。
「その間、子供達はどうしているんですか?」
イオリの疑問にメルロスやエドバルドはキョトンとした。
「ポーレットには学校も存在しますし、職業訓練所もあります。
ある程度の年になると子供達も学ぶべき場所がありますが、幼い子達は兄弟で家にいるか近所の子と遊んでいますね。
親の職場の裏路地に集まっている事もあります。」
どうやら当たり前なのか、大して気にしていないようである。
「だったら、保育園という考え方もありますね・・・。」
「ホイクエン?何ですかそれは??」
初めての言葉に反応したのはバートだった。
「親が働いている間に、子供達を預かる場所の事です。
当然、保育士には資格があり給料も支払います。
図書館と並列して作れば、子供達はいつでも本を読む事ができますし、ご両親は安心して仕事に向かう事が出来て良いんじゃないですか?」
「それは・・・教会がしている孤児の教育とは違うんですね?」
エドバルドが首を傾げるとイオリは首を振った。
「子供の教育に違いはありませんが、親が忙しい間に子供が1人でいるのは危険も付き物でしょう?
大人の目があって自由に遊び、時には人との共存を学べる場があっても良いのではないでしょうか?」
イオリの提案にメルロスは顔を輝かせた。
「それなら、子供達が裏路地で犯罪者に狙われる事もありませんし、親が迎えに来るまで孤独ではありませんね。」
「しかし、それは大事だ。
ポーレットという街の政治にも関わる大事業です。
公爵様にご相談しなければ始められませんね。」
「そうですね。
イオリさんの提案通りですと、多くの子供が集まってきます。
学校や訓練所の前の段階になりますね・・・。
えぇ、公爵様にお話を聞いていただきましょう。」
イオリの思いつきは、いつも大事になってしまう。
「しまった・・・。」と思っても後の祭り、イオリは絶対神リュオンの像に舌を出すと、リュオン様が微笑んだ・・・気がした。
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