423 / 472
束の間のポーレット
495
しおりを挟む
「そうであって、そうでない?」
イオリが訝しげるのをリュオン様は答えた。
『エルフの里の戦士達の心にルミエールは生きているのです。
彼らの行動の1つ1つがルミエールの思想に繋がっています。
その思想が時間をかけて変化し不可侵の約束すらも薄れています。
自身達の領地が枯渇した今、彼らは外の世界に生きる糧を求めるでしょう。
エルフこそが至高の存在。ならば、世界はエルフの物でありエルフこそが頂点に立つのが道理。
彼らが考えを改めない限り、ルミエールは生き続けるのです。
それとは別に確かに私の知っているルミエールというエルフは息絶えました。
しかし、あれから年月が何年経とうと彼は私の元に来ていない。
つまり・・・。』
「魂が彷徨っている?」
自分で言っていても、おかしいと分かっているのにイオリは答えずにはいられなかった。
『生きる事に執着していたルミエールは死んだ事を認めていないのかもしれません。
何よりも、エルフの里には“生贄を捧げる”儀式が存在します。』
イオリはピクッと眉を動かした。
「ナギの両親のような人の事ですか?」
『そうです。
痛ましい話ではありますが、確かに彼らは儀式を続けています。
信じているのですよ。純潔のエルフの魂を捧げる事でダークエルフ・ルミエールが復活すると・・・。』
イオリは呻きながら頭を掻いた。
「という事は、エルフの里の人達は何万年か数千年か知りませんけど、ずっと同族殺しを続けているという事ですか?
ルミエールが復活するまで?」
『復活し、世界を手に入れるまでではないでしょうか。』
首をブンブン振るイオリにリュオン様は眉を下げた。
『以前、十蔵がエルフの戦士と対峙した時、彼らは十蔵の力に驚き引いていきました。
ルミエールの力が他の種族に受け継がれたと勘違いし、エルフの元に生まれ変わる時世の時を待つ選択をしたのです。
それから、相沢さんが現れるまでにも愛し子は存在しましたがエルフの里には目をつけられずに穏やかな生活を送っています。
しかし・・・相沢さんはエルフの里の戦士達と出会った。
彼らがこれから、どう出るか・・・私も予想がつきません。
・・・・・私は今も思っています。
貴方には自由に生きてほしいと。
でも、このままではいずれはエルフの里の戦士達と対峙する事になるでしょう。』
イオリは肩を落とすリュオン様に微笑んだ。
「自由に生きていますよ。
俺の自由な楽しい旅の先に彼らが現れるのなら、お相手しましょう。
しかし、子供達には怖い思いをして欲しくない。
特にナギにとっては故郷です。
だから一度、泉に戻ろうと思います。
街だと訓練1つでも目立ちますからね。」
リュオン様はイオリの笑顔に釣られるように微笑むと頷いた。
『そうですね。
可愛い子達を傷つけてはいけない。
エルフの里が動き出すのも、まだ先のようですからね。
分かりました。
もう一度、泉にお行きなさい。
私も力添え致しましょう。』
いつもの優しい顔のリュオン様に戻り一安心したイオリであったが、もう一つ聞きたい事を思い出した。
「ルミエールの剣はどこにあるんですか?
エルフの里の戦士が奪いに来ることはないのですか?」
『確かに彼らも人生を賭けて探しています。
ルミエールが復活する鍵だと思っているようです。
先人達の手によってルミエールの剣は中つ国の深い深い海の底に沈められています。
たとえ、エルフの里の戦士でも手に入れる事はできないでしょう。
何よりも、資格のないものが持つと・・・相沢さんは知っていますね。』
イオリはニッコリと頷いた。
『さぁ、今日の話はお終いにしましょう。
貴方の家族が待っています。
忘れないでください。
自由とは無理やり取るのではなく、周りの力があってこそ成り立つのです。
力の使い方を間違えてはいけません。
私は相沢さんなら大丈夫だと確信しています。
どうぞ、無理だけはしないように』
「はい!
ありがとうございました。」
リュオンから離れるゼンとソルに手をやると最後にリュオン様が言った。
『時が来たら、空の守護者に会いに行かれるといいでしょう。
道はソルが知っています。』
薄れゆくリュオン様の顔はどこか肩の荷が降りたようだった。
誰にも口にすることのできない過ちを悔いる神。
そんな神の笑顔がイオリは大好きだった。
イオリが訝しげるのをリュオン様は答えた。
『エルフの里の戦士達の心にルミエールは生きているのです。
彼らの行動の1つ1つがルミエールの思想に繋がっています。
その思想が時間をかけて変化し不可侵の約束すらも薄れています。
自身達の領地が枯渇した今、彼らは外の世界に生きる糧を求めるでしょう。
エルフこそが至高の存在。ならば、世界はエルフの物でありエルフこそが頂点に立つのが道理。
彼らが考えを改めない限り、ルミエールは生き続けるのです。
それとは別に確かに私の知っているルミエールというエルフは息絶えました。
しかし、あれから年月が何年経とうと彼は私の元に来ていない。
つまり・・・。』
「魂が彷徨っている?」
自分で言っていても、おかしいと分かっているのにイオリは答えずにはいられなかった。
『生きる事に執着していたルミエールは死んだ事を認めていないのかもしれません。
何よりも、エルフの里には“生贄を捧げる”儀式が存在します。』
イオリはピクッと眉を動かした。
「ナギの両親のような人の事ですか?」
『そうです。
痛ましい話ではありますが、確かに彼らは儀式を続けています。
信じているのですよ。純潔のエルフの魂を捧げる事でダークエルフ・ルミエールが復活すると・・・。』
イオリは呻きながら頭を掻いた。
「という事は、エルフの里の人達は何万年か数千年か知りませんけど、ずっと同族殺しを続けているという事ですか?
ルミエールが復活するまで?」
『復活し、世界を手に入れるまでではないでしょうか。』
首をブンブン振るイオリにリュオン様は眉を下げた。
『以前、十蔵がエルフの戦士と対峙した時、彼らは十蔵の力に驚き引いていきました。
ルミエールの力が他の種族に受け継がれたと勘違いし、エルフの元に生まれ変わる時世の時を待つ選択をしたのです。
それから、相沢さんが現れるまでにも愛し子は存在しましたがエルフの里には目をつけられずに穏やかな生活を送っています。
しかし・・・相沢さんはエルフの里の戦士達と出会った。
彼らがこれから、どう出るか・・・私も予想がつきません。
・・・・・私は今も思っています。
貴方には自由に生きてほしいと。
でも、このままではいずれはエルフの里の戦士達と対峙する事になるでしょう。』
イオリは肩を落とすリュオン様に微笑んだ。
「自由に生きていますよ。
俺の自由な楽しい旅の先に彼らが現れるのなら、お相手しましょう。
しかし、子供達には怖い思いをして欲しくない。
特にナギにとっては故郷です。
だから一度、泉に戻ろうと思います。
街だと訓練1つでも目立ちますからね。」
リュオン様はイオリの笑顔に釣られるように微笑むと頷いた。
『そうですね。
可愛い子達を傷つけてはいけない。
エルフの里が動き出すのも、まだ先のようですからね。
分かりました。
もう一度、泉にお行きなさい。
私も力添え致しましょう。』
いつもの優しい顔のリュオン様に戻り一安心したイオリであったが、もう一つ聞きたい事を思い出した。
「ルミエールの剣はどこにあるんですか?
エルフの里の戦士が奪いに来ることはないのですか?」
『確かに彼らも人生を賭けて探しています。
ルミエールが復活する鍵だと思っているようです。
先人達の手によってルミエールの剣は中つ国の深い深い海の底に沈められています。
たとえ、エルフの里の戦士でも手に入れる事はできないでしょう。
何よりも、資格のないものが持つと・・・相沢さんは知っていますね。』
イオリはニッコリと頷いた。
『さぁ、今日の話はお終いにしましょう。
貴方の家族が待っています。
忘れないでください。
自由とは無理やり取るのではなく、周りの力があってこそ成り立つのです。
力の使い方を間違えてはいけません。
私は相沢さんなら大丈夫だと確信しています。
どうぞ、無理だけはしないように』
「はい!
ありがとうございました。」
リュオンから離れるゼンとソルに手をやると最後にリュオン様が言った。
『時が来たら、空の守護者に会いに行かれるといいでしょう。
道はソルが知っています。』
薄れゆくリュオン様の顔はどこか肩の荷が降りたようだった。
誰にも口にすることのできない過ちを悔いる神。
そんな神の笑顔がイオリは大好きだった。
854
お気に入りに追加
18,143
あなたにおすすめの小説
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜
ぽん
ファンタジー
⭐︎書籍化決定⭐︎
『拾ってたものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』
第2巻:2024年5月20日(月)に各書店に発送されます。
書籍化される[106話]まで引き下げレンタル版と差し替えさせて頂きます。
第1巻:2023年12月〜
改稿を入れて読みやすくなっております。
是非♪
==================
1人ぼっちだった相沢庵は小さな子狼に気に入られ、共に異世界に送られた。
絶対神リュオンが求めたのは2人で自由に生きる事。
前作でダークエルフの脅威に触れた世界は各地で起こっている不可解な事に憂慮し始めた。
そんな中、異世界にて様々な出会いをし家族を得たイオリはリュオンの願い通り自由に生きていく。
まだ、読んでらっしゃらない方は先に『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』をご覧下さい。
前作に続き、のんびりと投稿してまいります。
気長なお付き合いを願います。
よろしくお願いします。
※念の為R15にしています。
※誤字脱字が存在する可能性か高いです。
苦笑いで許して下さい。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
断罪されているのは私の妻なんですが?
すずまる
恋愛
仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。
「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」
ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?
そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯?
*-=-*-=-*-=-*-=-*
本編は1話完結です(꒪ㅂ꒪)
…が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。