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束の間のポーレット

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「そうであって、そうでない?」

 イオリが訝しげるのをリュオン様は答えた。

『エルフの里の戦士達の心にルミエールは生きているのです。
 彼らの行動の1つ1つがルミエールの思想に繋がっています。
 その思想が時間をかけて変化し不可侵の約束すらも薄れています。
 自身達の領地が枯渇した今、彼らは外の世界に生きる糧を求めるでしょう。
 エルフこそが至高の存在。ならば、世界はエルフの物でありエルフこそが頂点に立つのが道理。
 彼らが考えを改めない限り、ルミエールは生き続けるのです。

 それとは別に確かに私の知っているルミエールというエルフは息絶えました。
 しかし、あれから年月が何年経とうと彼は私の元に来ていない。
 つまり・・・。』

「魂が彷徨っている?」

 自分で言っていても、おかしいと分かっているのにイオリは答えずにはいられなかった。

『生きる事に執着していたルミエールは死んだ事を認めていないのかもしれません。
 何よりも、エルフの里には“生贄を捧げる”儀式が存在します。』

 イオリはピクッと眉を動かした。

「ナギの両親のような人の事ですか?」

『そうです。
 痛ましい話ではありますが、確かに彼らは儀式を続けています。
 信じているのですよ。純潔のエルフの魂を捧げる事でダークエルフ・ルミエールが復活すると・・・。』

 イオリは呻きながら頭を掻いた。

「という事は、エルフの里の人達は何万年か数千年か知りませんけど、ずっと同族殺しを続けているという事ですか?
 ルミエールが復活するまで?」

『復活し、世界を手に入れるまでではないでしょうか。』

 首をブンブン振るイオリにリュオン様は眉を下げた。

『以前、十蔵がエルフの戦士と対峙した時、彼らは十蔵の力に驚き引いていきました。
 ルミエールの力が他の種族に受け継がれたと勘違いし、エルフの元に生まれ変わる時世の時を待つ選択をしたのです。
 それから、相沢さんが現れるまでにも愛し子は存在しましたがエルフの里には目をつけられずに穏やかな生活を送っています。
 しかし・・・相沢さんはエルフの里の戦士達と出会った。
 彼らがこれから、どう出るか・・・私も予想がつきません。

 ・・・・・私は今も思っています。
 貴方には自由に生きてほしいと。
 でも、このままではいずれはエルフの里の戦士達と対峙する事になるでしょう。』

 イオリは肩を落とすリュオン様に微笑んだ。

「自由に生きていますよ。
 俺の自由な楽しい旅の先に彼らが現れるのなら、お相手しましょう。
 しかし、子供達には怖い思いをして欲しくない。
 特にナギにとっては故郷です。
 
 だから一度、泉に戻ろうと思います。
 街だと訓練1つでも目立ちますからね。」

 リュオン様はイオリの笑顔に釣られるように微笑むと頷いた。

『そうですね。
 可愛い子達を傷つけてはいけない。
 エルフの里が動き出すのも、まだ先のようですからね。

 分かりました。
 もう一度、泉にお行きなさい。
 私も力添え致しましょう。』

 いつもの優しい顔のリュオン様に戻り一安心したイオリであったが、もう一つ聞きたい事を思い出した。

「ルミエールの剣はどこにあるんですか?
 エルフの里の戦士が奪いに来ることはないのですか?」

『確かに彼らも人生を賭けて探しています。
 ルミエールが復活する鍵だと思っているようです。
 先人達の手によってルミエールの剣は中つ国の深い深い海の底に沈められています。
 たとえ、エルフの里の戦士でも手に入れる事はできないでしょう。
 何よりも、資格のないものが持つと・・・相沢さんは知っていますね。』

 イオリはニッコリと頷いた。

『さぁ、今日の話はお終いにしましょう。
 貴方の家族が待っています。
 忘れないでください。
 自由とは無理やり取るのではなく、周りの力があってこそ成り立つのです。
 力の使い方を間違えてはいけません。
 私は相沢さんなら大丈夫だと確信しています。
 
 どうぞ、無理だけはしないように』

「はい!
 ありがとうございました。」

 リュオンから離れるゼンとソルに手をやると最後にリュオン様が言った。

『時が来たら、空の守護者に会いに行かれるといいでしょう。
 道はソルが知っています。』

 薄れゆくリュオン様の顔はどこか肩の荷が降りたようだった。
 誰にも口にすることのできない過ちを悔いる神。
 そんな神の笑顔がイオリは大好きだった。

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