拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ぽん

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帰還 ー王都ー

482 ーマテオの回顧録⑨ー

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 アースガイルが出来始めて、人もドンドン増えていった。
 増えては争いが起こり、話し合いを重ねた。
 それでも納得いかない者は離反していく・・・。
 国をまとめるとは戦いよりも難しい。
 離反して行った者達は別の土地に国を作ると息巻いていた。
 いつか語り合える日が来ればいいが・・・難しいだろう。
 彼らは私の“差別の無い国”という考えは理解し難いらしい。
 
 私はラサナと結婚をした。
 国主となった私に反論する得難い存在だ。
 街の中央に作った教会で式を挙げ、住人達が盛大に祝ってくれた。
 
 国を造り、妻を得て、国の運営が滞りなく回るようになった頃、ジュウゾウが私の部屋にやってきた。

「約束を果たしたな。
 よくぞやり遂げたよ。
 私は私の村に帰る事にするよ。
 覚えているか?国が出来たら、私の村も入れてくれるのだろう?」

 私はこの日が来たかと顔を伏せた。
 ジュウゾウの居場所はあの海の村なのだ。
 シノが待つあの家こそが、ジュウゾウの家だった・・・。

「私も行こう。
 あの小高い山から始まった。
 私に送らせてくれ。友よ・・・。」

 恥ずかしそうに微笑むジュウゾウは屋敷から見える街を見下ろした。

「やっとだな・・・やっとだ。
 積年の願いが叶った。」

 ジュウゾウの顔は見えなかったが彼が泣いているのが分かった。
 彼の過去は知らない。
 彼が何を背負って来たのかは知らない。
 しかし、涙を流す彼の背は力を抜きホッとしているようだった。

 ジュウゾウの帰還には多くの者が反対をした。
 国造りの基盤である彼が抜ける穴は大きいだろう。
 不安は当然の事だった。
 しかし私は皆んなに頼んだ。
 ジュウゾウを海の村に返してやって欲しい。
 妻の元に返してやって欲しい。
 彼のいない間に生まれた子供を抱きしめさせてやって欲しい。
 彼に静かな生活を贈りたいんだ。 
 彼らは私の願いを聞き入れてくれた。
 
 
 ジュウゾウがアースガイルを出立するのは密かな計画の元行われた。
 私達は視察という名の旅に出た。
 今回の旅にはラサナも連れて行った。
 是非ともジュウゾウの村を見て欲しかったらだ。

 久しぶりに帰ってきた海の村は見事に発展していた。
 迎え出た住人達は涙を流しジュウゾウと私を歓迎してくれた。
 皆から数歩前に出てきた女性がいた。10歳くらいの男の子の手を握って立っていた。

 ジュウゾウは馬から降りると妻達に駆け寄った。
 そして、男の子の前に膝まづくと涙を流して抱きしめたのである。

 家族を置いて、私の夢に力を貸してくれた男・・・。
 彼らの幸せの上に成り立っていたのだと理解し私は重く受け取った。
 それは隣に立つラサナも同じであった。

「私には貴方がいた。でもシノさんには彼はいなかったのね・・・。」

 ラサナは長年手紙のやりとりをしていたシノと抱きしめ合った。
 私の知っている気丈な女性であったシノも、この時ばかりはラサナの顔を泣きながら包み込むように見つめていた。

 その日の夜、宴を抜けて私とジュウゾウは小高い山に登った。
 真っ暗な海には月の光だけが当たっていた。

「終わったな・・・
 終わり、始まるんだ・・・。」

 私の言葉にジュウゾウはクスっと笑った。

「お前、これからどうするんだ?」

 私の問いにジュウゾウは答えた。

「変わらないさ。この村を守っていく。
 子供を守り、家族を守る。
 変わらないんだよ・・・。」

 己のできる事を一つ一つ積み重ねていく・・・。
 いつだったか、ジュウゾウがこの場所で言っていた。
 変わらないな・・・。
 私は微笑むとジュウゾウに手を差し出した。

「ありがとう。
 あなたのおかげで、今の私があります。
 あの時の出会いに感謝します。
 これからも、貴方に恥じない生き方をしたい。」

 私の言葉にジュウゾウは笑いながら手を握った。

「忘れてくれるな友よ。
 私達は二人で一つであった。

 別れて暮らそうとも、お前達の幸せを願っている。」

 月に照らされた彼の晴れやかな顔を私は忘れる事はないだろう。
 


 翌日、村の外に見送りに来たジュウゾウがずっと腰に刺していた“ワキザシ”を私に差し出した。

「お前の物だ。
 武士にとって刀は魂だ。今度こそ、手放すなよ。」

 別れに寂しく思っていた私は彼の宝物を手に心が震えた。
 言葉の意味に首を傾げたがジュウゾウはシノと2人、ただ微笑んだだけだった。

 別れの言葉は永遠な物ではない。

「またな。」

 笑顔で手を振る彼の言葉を信じて私はラサナと帰路についた。
 私達の街へ・・・。


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