上 下
383 / 472
新たな旅 ーミズガルドー

455

しおりを挟む
《思惑が外れた・・・まぁ、仕方がないか!》

 心で思っていた事が漏れたのだろう、遠くにいたオーブリーの鋭い視線に気づきギルバートは肩を竦めながらも微笑んで手を振った。


「イオリ殿の言葉を覚えているとは・・・恐れ入った。
 私はイグナート・カレリン。
 御両親の身に起こった事を先程、ヴァルト殿から聞いた。
 
 大変、申し訳無かった。
 ミズガルドの貴族として・・・いや、この地に住む1人の人間として謝罪する。
 愛する者を失う悲しみは人一倍知っているつもりであった。
 その後、私には支えてくれる者達がいた。
 其方達がイオリ殿と出会ったのは絶対神の思し召しだろう。
 
 ミズガルドの貴族として君達に誓う。
 獣人に対する迫害をやめさせる。
 人種関係なく、弱き者達も住みやすい国を作ってみせる。
 
 そして、フードなど気にせずに自由に歩ける様になった暁には、またこの国に来て欲しい。」

 膝をついて双子に頭を下げるイグナート・カレリンに双子は戸惑った。
 そして、イオリがニコニコと頷くのを見てイグナートの肩をポンポンと叩き

「「気にすんな。頑張って。」」

 と言ったのであった。





 紅茶を煎れ、煎餅と琥珀糖を並べたテーブルでイオリ達はクスクスと笑いが止まらないでいた。

「ククク・・・気にすんなって・・・。」

「流石、双子ですね。」

「カレリン公爵の顔を見たか?」

「はい。必死に笑いを堪えておいででしたね。」

「あははははは!」

 そんな大人達を双子がキョトンとしながらも煎餅に手を伸ばす。

「あの人が言った様に、ミズガルドも優しい国になるかな?
 アースガイルには優しい人が多いいもん。」

 パティの言葉にギルバートは頷いた。

「新しく王になったトーレチカ国王なら、やってくれるだろう。
 私達はアースガイルから見守ろう。」

「「うん!」」

 コンコンコンっ。
 ノックと共にリルラとラックが顔を出し、部屋を覗き込んでいた。

「「ラック!!元気?」」

 双子の声にラックは微笑むと嬉しそうに子供達の元へ行った。

「みんながいるって聞いたんだ。」

「今日来たんだよ。ラックもお菓子食べる?」

 ラックとスコルの会話を聞き、トゥーレがラックの前に紅茶をおいた。

「ありがとうございます。
 美味しそう!!食べて良いの?」

「良いよ。」

 イオリはニッコリとすると、ラックとは別にリルラにお菓子を持って行った。

「ありがとう。残りのみんながアースガイルの王太子に会いたいって。いい?」

「構わんぞ。私も会いたいと思っていたんだ。」

 ギルバートの許可を得たリルラが扉を開けるとゾロゾロと人が入って来た。
 驚く子供達にラックはニッコリとした。

「僕たちの同胞だよ。
 大丈夫。みんな優しい人だから。」

 

 リルラは一人一人をギルバート達に紹介した。

 エルブ改めゴヴァンはエルフの男で細い双剣の使い手だ。

 ブールジョン改めコナーは鳥の獣人で空を飛ぶのが自慢だ。武器は弓を得意としている。

 フェブ改めケネスはハーフエルフで母の能力を受け継ぎ魔法が使えた。中でも水魔法の使い手だ。

 アガット改めサミーは熊の獣人で腕力に自信がある。

 ベイブ改めホセはウサギの獣人で瞬発力がある。

 リラ改めシャロットは犬の獣人で小さい体から小回りが効く、いつも短剣を忍ばしている。

 コメット改めエメリーはエルフでエルフの里の出身だった。しかし、赤子の時に売られ記憶はない。

「彼らが助けられたヴァハマンの暗部だ。
 今回、イオリに奴隷印を消してもらい、今回、私達の力になってくれた。」

 ゴヴァンは前に出るとギルバートに頭を下げた。

「アースガイル国王をはじめ、皆さんには大変お世話になりました。
 辛い闇の中でいつ死ぬとも知れない環境下で生きているも死んでいるも同じでございました。
 御恩は一生忘れません。」

「気軽にせよ。
 自由はお前達に与えられた当然の権利だ。
 お前達を縛っていたヴァハマンは現在、牢獄に入っている。
 裁判によってこの国の法律で裁かれるであろう。

 さて、お前達はこれからどうする?」

 ゴヴァンはみんなと顔を見合わせ、頷いた。

「許されるならば、いつかはイオリ様の手足となって働きたい。
 しかし、私達には忘れてはいけない人達がいる。
 ヴァハマン達の商売で売られていった者達を助けたい。
 今は消息も分からない者ばかりで、見つけ出すのも難しいでしょう。
 しかし・・・。」

「許す!ミズガルドには私から言おう。
 お前達を拘束していたのは、紛れもないミズガルドの貴族だ。
 文句も言えまいよ。
 それに、新国王は奴隷の解放も口にされた。
 お前達と共に売られていった者達だって、助ける口実になるだろう。
 どうだ、イオリ?」

 意見を求められて驚くイオリは腕を組んで考えた。

「うーん。
 俺の手足って・・・俺は冒険者だから、そんなのいらないんですよ?
 ただ、手伝って欲しい時に助けて下さい。
 皆さんが大変な時には俺も駆けつけますよ。

 皆さんの家族や仲間が見つかる事を祈っています。」

 各々が目に涙を溜めて頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん
ファンタジー
⭐︎書籍化決定⭐︎  『拾ってたものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』  第2巻:2024年5月20日(月)に各書店に発送されます。  書籍化される[106話]まで引き下げレンタル版と差し替えさせて頂きます。  第1巻:2023年12月〜    改稿を入れて読みやすくなっております。  是非♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は小さな子狼に気に入られ、共に異世界に送られた。 絶対神リュオンが求めたのは2人で自由に生きる事。 前作でダークエルフの脅威に触れた世界は各地で起こっている不可解な事に憂慮し始めた。 そんな中、異世界にて様々な出会いをし家族を得たイオリはリュオンの願い通り自由に生きていく。 まだ、読んでらっしゃらない方は先に『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』をご覧下さい。 前作に続き、のんびりと投稿してまいります。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15にしています。 ※誤字脱字が存在する可能性か高いです。  苦笑いで許して下さい。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。