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新たな旅 ーミズガルドー

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「次!ゼンちゃんね!」

『良いよ。ドラゴンがころんだ!
 パティ動いた!!』

「えー!!本当?みんな頑張れー!!」

 イオリが教えた“だるまさんが転んだ”ならぬ“ドラゴンがころんだ”を覚えた子供達は実に楽しそうに遊んでいた。
 ただ、イオリが知っている“だるまさんが転んだ”と大分違う所があるが・・・

 鬼が動いている者を見つけると、鬼に触れて解放されるまで待っているのだが、逃げる速さが尋常ではない為に荒々しいゲームとなっている。
 流石にまだ、遅いニナにはハンデがあってアウラの背に乗っている。

 今も、ナギにタッチされたゼンが子供達を追いかけている姿を目で追える人間が何人いるのだろうか。

「・・・これは何をしている?」

 帰ってきたギルバートやヴァルト達にイオリは苦笑すると一緒に来たイグナートに頭を下げた。

「“ドラゴンが転んだ”ですね。
 追いかけっこみたいなものです。
 あの子達にかかると、こんな感じなんですけどね。
 あっ!オーブリーさん。お久しぶりです。」

「お久しぶりです。
 お元気で何よりです。
 ・・・あの。私も混ぜでもらえますか?」

 子供達のスピードに興味を持ったオーブリーはウズウズるのかイオリににじり寄ってくる。

「ははは。良いんじゃないですか?
 みんな!オーブリーさんも仲間に入れてって。」

「「「「「いいよー!!」」」」」

 パティがオーブリーの手を引くとみんなの輪に連れて行った。

「あの子達ですか?」

「ええ、そうです。
 菫色の髪の双子です。」

 イグナートの問いかけにヴァルトが答えた。
 イオリは2人の会話に首を傾げた。

「なんですか?スコルとパティが何か?」

「スコル・・・パティ・・・。」

 イオリが双子を凝視するイグナートを訝しげているとヴァルトが説明し始めた。

「先程の会談で、双子の両親の遺体を引き取りたいと申し出たんだ。
 アースガイルに墓を作れば、あの子達も安心すると思ってな。
 勝手をしてスマン。」

 イオリだけでなく、ヒューゴも顔を硬らせると双子に視線をやった。

「それは・・・双子に決めさせても良いですか?
 でも、ありがとうございます。
 
 スコル!パティ!!おいで!!」

 ヴァルト達に礼を言うとイオリは双子を手招きした。

「「なーにー??」」

 大人達の中に知らない人がいる事に気づき、慌ててフードを被った双子にイグナートは悲しみを覚えた。
 イオリの元にやって来た双子はチラチラとイグナートを意識しつつイオリにしがみ付いた。

「紹介するね。
 この人はイグナート・カレリン公爵。
 新しいミズガルドの王様の弟さんだよ。」

「王様の弟ってとことは、テオと同じ?」

 スコルの言葉にクスクスと笑いがおきイグナートは戸惑った。
 イオリですら“さん”をつけているのに、公爵を呼び捨てにする双子に大人達が微笑んでいるのだ。

「本人が認めているんです。
 ご容赦を・・・。」

 イグナートの耳にヴァルトは囁いた。

「話をしよう。
 ミズガルドは新しい王様になって獣人にも優しくしなさいって言ったのは教えたよね?」

「「うん」」

「ヴァルトさんがね。
 2人のご両親のお墓をアースガイルに移させてくださいって、王様にお願いしてくれたんだ。
 王様もいいよって。イグナートさんが2人の希望を聞いてくれるよ。
 どうしたい?お父さんとお母さんもアースガイルに連れて行くかい??」

 イオリの言葉に2人は顔を見合わせた。
 そして、見上げて首を横に振ったのであった。

 驚いたのはヴァルト達だった。

「良いのか?アースガイルに墓を移せばいつでも会えるぞ?」

 そんな大人達に双子は澄んだ目で言った。

「良いんだ。僕たちの手でお墓を作ったんだ。
 父さんと母さんも喜んでくれてると思う。」

「寝てるのに起こすのは可愛そう。」

 イオリは双子の答えにニッコリとした。
 そんなイオリに背中を押されたのかスコル言った。

「父さんと母さんが死んだ時に何も無くなっちゃったと思ったよ。
 でも、イオリが言ったんだ。
 《両親がくれた立派な耳も丈夫な体も教えてもらった剣術があるじゃないか。
  両親が大切にしていたのは2人のはず、だからこれからはお互いと自分を大切にしたらいい》
 って。
 今の僕たちには守る物が増えたよ。
 だから平気なんだ。
 それにね。生まれたのはミズガルドだよ。
 ミズガルドにだって父さんと母さんの良い思い出もあるんだ・・・。」

 そんなスコルの手をパティはギュッと握った。
 ヴァルトはしゃがみ込むと双子の頭を撫でた。

「そうか・・・余計な事をしたな。」

 そんなヴァルトに双子は抱きつくと泣き出した。

「「ありがとう・・・ヴァルト大好き。」」

「ああ、俺もお前達が大好きだ。」

 イオリとヒューゴは顔を見合わせると優しく微笑んだ。
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