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新たな旅 ーミズガルドー

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 王都でトーレチカが国王としての宣言をしてから数週間が経った。
 今だにイオリ達はミズガルドに滞在している。

 事件の後始末に加え、アースガイルとの関係改善を試みたミズガルド側との連絡係をヴァルトが担当し、そのままの形で滞在する事になった。
 建前上はヴァルトの護衛として国越えをしてきたイオリとしても、未だ離れるわけにはいかないのである。

 そうは言っても、ヴァルトは辛うじて無事だった王宮の一室に滞在しアースガイルと魔道具で連絡を取り合ってはトーレチカと会合に行くのみで安全な為、イオリとしてはコレと言って仕事は無いに等しい。
 他国であるが故に自由にも出来ず退屈をしていた。

「アースガイルからの使節団は本日、午後に到着予定です。
 出迎えた後は合流してミズガルド側と話し合いを進めるようにとの事です。」

「結局、誰が来るんだ?」

 報告にヴァルトが首を傾けるとトゥーレが眉を潜めた。

「それが、《内緒だ。驚け》と言うニコライ様のお返事しか返ってこないのです。
 全く・・・こちらにも準備というものがありますのに。」

「秘密にして、良い事なんか一つもないのにな。
 兄上は・・・。
 マルクル。イオリはどうだ?」

「ゼン達と一緒に庭の木陰で大人しくしていますよ。
 本来なら、早急に帰りたいところでしょうがね。」
 
 マルクルは書類を手に外を見ると、木陰にもたれ掛かるイオリがゼンをブラッシングしているところだった。
 当然の様にアウラとソルも隣に座り目をつぶっている。
 今ではクロムスまでもがヴァルトの護衛を母ルチアに任せイオリの膝で丸くなっていた。
 勿論、ヴァルトは帰してやりたいが基本真面目なイオリは仕事が終わらないと帰らないと言い張りヴァルト達から離れようとしない。

 そんな時だった。
 ノックと共に勢いよく扉が開いた。

「元気か!お前ら!!
 私が来たからには、さっさと話し合いとやらを済ませて帰るぞ!!」

 唖然とするヴァルト達が目にしたのは、居るはずのないギルバートの姿だった。
 つまり、アースガイルは王太子ギルバートを使節団としてミズガルドに送り込んできたのだ。

「ギル兄様!!
 何故!?王太子であられる兄様を国から離れさすとは正気ですか!?
 来たとしても、ディーかと思っていましたよ・・・。
 って言うか!なんで、到着の報告がないんですか!」

「驚いたか!?ははは!!
 出迎えなんて、どーでも良いさ!
 よく考えろ!事は私の結婚話から始まっているんだぞ?
 つまり、私は当事者となる。
 ならば、私が来るのが順当だろう?
 それに、私はトーレチカ新国王と顔を合わせておく必要があると思う。
 後継としての心構えだな。」

 ヴァルト達を驚かせる事が出来たと、ギルバートは大満足だ。

「にしても、よくぞ参られました。
 軍を率いてこられたのでしょうか?」

 トゥーレの言葉にギルバートは頷いた。

「あぁ、その通りだ。
 ザックス・ヒル将軍とオーブリーも一緒だ。
 今はミズガルドの軍部との打ち合わせに行っている。
 オーブリーとの旅。楽しかったぞ。
 それにな。イオリにも土産が必要だと思ってな。
 テオルド叔父上に頼んで護衛を貸してもらったんだ。」

「護衛?・・・・あぁ、なるほど。
 それは良いですね。
 そろそろ限界を迎えていたんで、喜びますよ。」

 ヴァルト達は庭で呆けているイオリに視線を送り微笑みを浮かべた。




「平和だねー・・・。
 ん?これは平和なのか?
 ・・・まあ良いや。」

『暇だね・・・。街にも行けないし、魔獣狩りも行けないもんね。』

 イオリは木陰に座り、ゼンと膝で丸くなるクロムスを撫でながら空を見上げていた。
 一応、ヴァルトに危険が来ない様に殺気の探知だけは研ぎ澄ませている。 

 が・・・。

「『はぁ・・・暇だね・・・。』」

 隣で目をつぶっているアウラとソルも同意をする様に頷いた。
 
 ただ時間が流れていた時だった突然ゼンが顔を持ち上げ匂いを嗅ぎ始めた。

「どうした?何かあるの?」

『いや・・・まさか。
 間違うはずがないんだけどな。』

 ゼンが首を傾げながらブツブツと言っている。

 そんな時だった。

ィォリー

「!? 今、聞こえた?」

『聞こえた!!やっぱり、間違いじゃない!
 アウラ!ソル!クロムス!!』

 ゼンが立ち上がると他の3匹も一斉に立ち上がり走り出した。

「「「「イオリー!!」」」」

 庭の向こう側から走って来たのは、イオリが会いたかった家族達だった。

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