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新たな旅 ーミズガルドー

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 時は戻り・・・。

 崩れた王宮を前に何処か晴れやかな2人の男に先王の側室だったナターリャが声をかけた。

「あなた達、ほっとしている所に水を差すのだけれど、逃した魚は大きいのではなくて?
 あの者も拘束しなくて良いのですか?」

 母の言葉にハッとするイグナートは姿が見えない男ルッツ・ヴァハマンを探した。

「クソッ!!
 1番の咎人である、あの者を逃すわけにはいきません!
 兄上、衛兵をお貸しください!
 探し出さなければ!!」

「大蛇に気を取られすぎていた。
 これは、まずいね。」

 渋い顔をしているトーレチカと悔しそうなイグナートにヴァルトが声をかけた。

「大丈夫ですよ。
 あの者達が逃すはずがありません。
 ほら。」

 ヴァルトが指をさす方を見ると、リルラを始めとした元奴隷達が真っ黒な馬を囲む様に走って来た。
 その黒い馬の背には小さな影が見えた。

「あっ!イオリー!!ヴァルト様ー!」

 アウラの背に乗ったラックが満面の笑みで手を振っている。

「この人捕まえたよ!!
 いるでしょ??」

 アウラに咥えられているのは確かに必要な人物だった。

 ルッツ・ヴァハマンは首根っこを咥えられて青い顔で気を失いながらも、ぶら下がっていた。
 よく見るとアウラの後からはロープで足を縛られた男達が引きずられている。

「あはははははは!!
 ナイスだよ!ラック!
 あははは!」

 イオリが腹を抱えて笑っていると到着したリルラは苦笑していた。

「ヴァハマンが部下を連れて逃走したのが分かったから、皆んなで追ったんだ。
 そうしたら、森の入り口でラックとイオリの馬にボコボコにされて紐でグルグル巻きにされていたよ。
 まぁ、ラックにそれを教えたのは此奴らだから皮肉なもんだね。」

 マルクルはラックをアウラから下ろすと嬉しそうに頭を撫でていた。
 元奴隷達も誇らしげにラックを見つめている。

 アウラはイオリの方にトコトコと来ると、「あげる」と言うようにヴァハマンを落とした。

「ラックを守ってくれてありがとう。アウラ。
 それに、最高のお土産まで持って来てくれたよ。
 トーレチカさん!どーすれば良いですか?」

 その瞬間、場が凍りついた。

「イオリ!ここはアースガイルではないですよ!」

 慌てるトゥーレにイオリは「あっ!」と言う顔をした。

「まずい!テオさんとアルさんに慣れて王様を”さん”って呼んじゃった!!」

 思わず口を押さえるイオリに溜息を吐くヴァルトとトゥーレとマルクルは頭を抱えた。
 その横ではルチアとクロムスが大笑いしている。

「其方はイオリと申したな?
 此度の尽力に感謝している。
 今のも気にするな。不問にするさ。
 にしても、アル・テオとは・・・。
 まさか、アースガイル国の国王と王弟の事ではあるまいな?」

 トーレチカは面白そうに聞いている。

「あー・・・はい。」

 気まずそうにイオリが頷くとヴァルトが庇うように言った。

「イオリは基本、礼儀正しいのです。
 アル・テオ呼びも拒否いたしておりましたが、何せ本人達が強引に・・・。
 我が国王と父は、そんな人間なのでございます。
 イオリも悪気があった訳ではございません。
 どうか、ご容赦を。」

 トゥーレは頭を下げる主と同じくイオリの頭を鷲掴むと無理やり下げさせた。

「ごめんなさい・・・。」

『イオリを怒らないで!
 アルが悪いんだから!』

 ゼンはトゥーレに前脚を上げ抗議した。

「アルフレッド王、自らが・・・。
 ぷっ!あははは!
 そうか!そうか!
 あははは!」

 実に楽しそうに笑うトーレチカに周りの臣下達は戸惑っていた。

「あー。笑った。
 さっきも言ったが、不問にする。
 気にするな。
 
 にしても、やはり我々はアースガイルに学ばなければいけない事が多いな。
 国王が、それ程寛容であるとは。」

「いえ、歴代の中でも変わり者達です。
 見習ってはいけません。」

 トーレチカの言葉にヴァルトは呆れたように言った。

「よし!決めた!
 イオリ!私の事も、トーレチカと呼べ! 
 其方はに許す!
 良いな!」

「そっ!それはなりません!!」
「左様でございます!恩人と言えど、相手は平民でございます!」
「トーレチカ様は国王になられるのですよ?」

 驚き諫める臣下の中、1番嫌そうな顔したイオリなのであった。

「えー・・・。
 また、面倒な事になった。
 どーしよー。」

『良いんじゃない?本人が良いって言ってるし。』

 見上げるゼンを撫でるイオリであった。

 
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