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新たな旅 ーミズガルドー

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 ミズガルド王宮の騒動から数日前・・・。

_____________

 イオリ達がミズガルドへ入国する為に森を抜けようとした、その時だった。

『囲まれてる!!』

 ゼンの声に反応するとリルラはヴァルトを守る様に短剣を構えた。
 トゥーレとマルクルも同じく剣を抜きヴァルトを囲むと左右を確認していた。

「ラック!!」

 1人、木の上にいたラックを見上げるととイオリは飛び上がり隣に立った。

「出てこい!!」

 ヴァルトの声に反応したのか、数人のフードの影が現れた。

「お前は・・・あの時の?」

 1人の男に気づいたリルラはヴァルトに言った。

「前回、ヴァハマン領の鉱山で会った奴だ。
 ユーリエバナの事を教えてくれたんだ。」

「ヴァハマンの影か?
 と言うことは奴隷印がついているんだな?
 全員そうなのか?」

 辺りを見回すと、木の上にもイオリ達を弓で狙っている者もいる。
 リルラは短剣をしまうと、ゆっくりと男に話しかけた。

「お前達に危害を加える気はない。
 落ち着いてくれないか?」

「これより先に行かせるわけにはいかない・・・。
 敵の排除が我々の仕事。」

 リルラの言葉に震えながらも武器を構える男にラックが飛び降りてしがみついた。

「おじちゃん!?おじちゃんだよね?
 僕だよ!ラ・・ソレイユ!
 本当の名前はラックだけど・・・。
 僕だよ!」

 男はラックの姿に目を見開くと震え、涙を流しながらも自身から乱暴に押し退けた。

「主人の敵は排除する・・・。排除する・・・。
 ・・・・解放できないなら殺してくれ。」

 男の悲痛な声とラックの泣く声が響く中、綺麗な歌声が聞こえてきた。

「ソルだ・・・。」

 ヴァルト達が見上げる先には成獣となったソルが飛び回りながら玉の様な光を発し、影達を包み込んでいく。
 暖かい光を浴びて1人、また1人と倒れていくのをヴァルト達は見つめていた。

 どれくらい経ったのだろう。
 辺りが平常に戻ると、イオリが1人の男を担いで戻ってきた。

「木の上にいた人です。
 ソルの歌声で気を失って危ないから確保してきました。」

 ソルはイオリの肩にとまると褒めて欲しそうに甘えてきた。

「ありがとう。ソル。
 疲れただろう?少しお休み。」

『ソル ガンバッタ ソル ツカレタ
 ネルネ ネルネ。』
 
 そうして、眠りについたソルをゼンの頭に乗せ休ませるとイオリは影達の確認をしているリルラとトゥーレの元に行った。

「どうです?
 無事ですか?」

「えぇ、確認したところ全員の奴隷印がなくなっています。
 いつもの通り、疲労からの回復の為に眠っているのでしょう。」

 トゥーレの報告を聞き安堵するイオリにリルラが思わず抱きついた。

「ありがとう・・・ありがとう・・・・。
 多くの同胞が解放された。
 これは私達にとっては奇跡なんだ。」

 リルラは泣きながら笑うと、先程のエルフの男に駆け寄った。
 エルフの男の側ではラックが静かに泣いていた。

「ラック。イオリのお陰で皆が解放されたよ?
 もう、大丈夫。この人のこと知っているの?」

 リルラはラックの背を撫でると涙を拭いてやった。

「最初に会った影の人・・・。
 優しくしてくれた。」

 イオリはラックの頭を撫でると痩せているエルフの男を見下ろした。
 
「生きてね・・・。」

 

 エルフの男が目を覚ますと、そこには笑いが包まれていた。
 自分と同じく奴隷だった者達の笑顔に戸惑う男は小さな手から差し出されたコップに驚いた。
 
「喉乾いたでしょ?美味しいよ?」

 男は号泣しながらもゆっくりと水を口にしたのだった。
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