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新たな旅 ーミズガルドー

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 前カレリン公爵サバーノと共にやってきた人物達に式典に参加していた貴族達は驚いた。

 イグナートの前妻ポリーナの生家、アパルキン侯爵と兄弟達。
 ソフィアの父である前・ミズガルド軍将軍グロトフ伯爵。

 騎士団を預かっていたロゴフ伯爵や宰相を輩出した名門トマ伯爵家など、その他にもミズガルドの名だたる名門の貴族達が一斉に姿を現したのである。
 その全ての目がヴァハマン侯爵を憎しみを込めて睨みつけていたのであった。

「だ・・誰が通した!
 今日は神聖な式典!
 決められた貴族しか入場できなくなっていたはずだ!」
 
 フェドー伯爵が声を震わせながらも怒鳴ると衛兵に追い出すように命令しようとした時だった。

「私だよ。」

 一同が声がした方に目をやると玉座の下に思ってもいない人物が立っていた。

 美しい白銀の髪を下ろし、式典服に身を包んだ男“引きこもり大公”トーレチカだった。

「私が許可を出した。
 何か不都合があるか?フェドー。」

「・・いぇ・・・。」

 イグナードとは違い王族を離れていないトーレチカにフェドーは口籠もり顔を真っ赤にして下げた。
 久々に現れたに驚きの声が上がる中、トーレチカは階段を数段上がり見下ろした。
 
「騒がしいから出てきてみれば・・・。
 また、面倒を起こしたのか?ヴァハマンよ。」

「トーレチカ・・・。」

 睨みつけてきたヴァハマン侯爵にトーレチカは吹き出すように笑った。

「アハッ!しばらく会わない内に呼び捨てか?
 随分と好き勝手をしているようだな。」

 クスクスと笑うトーレチカにヴァハマン侯爵はイライラとした。

「引きこもりが今更、表の舞台に立つか?
 王家に持つ敬意などとっくになくなっておるわ。」

「そうか。
 流石、当時の王太子・フランツを暗殺し無能イヴァンを王に仕立て上げた男なだけはある。」

 トーレチカの言葉に会場は一層にざわめいた。

 そんなトーレチカを殺さんが為に飛び出てきた男が刃を振り上げた。
 しかし、影から出てきた人物が、その刃を短剣で止めに入った。
 一瞬の出来事だった。

「「「きゃーーー!!」」」
「「トーレチカ様!!」」

 様々な声が叫ばれる中、襲いかかった男は邪魔立てをしてきた者に・・・
 いや、女を睨みつけた。

「ララノアぁぁ!!」

 ヴァハマンの暗部リーダー・サヴァーノが口から唾を飛ばしながらも「フーフー!」と息を吐き力で押してくる。

 リルラは火花か散っている短剣を押し返すと目を細めて威嚇した。

「私の名はララノアではない!
 もう、お前達の好きにさせるか!」

 そんな2人の戦いを横目にトーレチカは溜息を吐いた。

「やはり、私を狙うか?ヴァハマンよ。
 お前がフランツ兄上の飲み物に薬を入れているのを見かけた当時の私は自身の従者にそれを伝えた。
 その後すぐに、その者は宮殿から姿を消した。
 調べてみれば、お前の屋敷に入ってからの消息がなくなったというではないか。
 大方、そこで唸っている悪魔にでも渡したか?

 その後は楽であったろう?
 イヴァン兄上は無能だからな。
 政務の事などお前達に任せるから好き勝手に出来たろう?

 私か?お前が私を狙っているのが分かっていたからな。
 病弱を理由に王宮で静かにしていたよ。
 
 しかし、情報は上がって来ているんだよ?
 お前の女をイヴァン兄上にあてがったり、自領に武器を増やしていたり国取りだけじゃなくて他国をも手に入れる気かい?
 相変わらず貪欲だね。実に醜いよ。」

 ワナワナと体を震わせたヴァハマンは既に崩れている体裁を振り払い、女と小競り合いをしている部下に声を張り上げた。

「サヴァーノ!!」

「はっ!」

 サヴァーノの合図に身を隠していた暗部がトーレチカを囲みこんだ。
 
「甘かったな!」

 サヴァーノはリルラとの駆け引きを止めを翻し自身もトーレチカを襲った。

「お前だけは許さんぞ!
 ララノア!!
 この恩知らずの裏切り者め!
 私の邪魔などお前には出来やしないのだ!」

 顔を紫色にして怒り狂うサヴァーノはギャーギャーと騒ぎながらもトーレチカに剣先を向けた。




「許さないのは私達の方だ・・・。」

 悲しそうなリルラの声がした時だった。

「グアァァァァ!!!」

 

 トーレチカを囲っていた暗部の刃が一斉にサヴァーノの体を貫いのであった。
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