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新たな旅 ーミズガルドー
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国王イヴァンの言葉と共に始まった式典という名のパーティーは曲が流れ始めダンスが繰り広げられている。
ナターリャとイグナートのカレリン親子は実に冷めた目でその光景を見つめていた。
そんな親子に国王の従者が近寄り頭を下げた。
「カレリン公爵様。ナターリャ様。
国王陛下がご挨拶にお呼びです。」
「分かった。それでは、母上。」
イグナートが差し出す掌にナターリャは手を添えると立ち上がった。
「さぁ、イグナート。
思いっきりおやりなさい。
母は、こんな王宮などどうでも良いのです。
王の不興を買おうと、とっくに未練はありません。」
母ナターリャの言葉にイグナートは苦笑した。
「共に王宮へ来て頂いた。
それだけで感謝いたします。
私は、ミズガルドの貴族としてやらねばならない事を成し遂げます。
後は・・・ささやかに家族が寄り添っていく。
それだけで良い。」
ナターリャは薄らと目に涙を溜めて頷いた。
2人は国王の玉座の下まで来ると最上級の礼をした。
「「「「「おぉぉぉぉ!!」」」」」
会場が盛り上がる中、国王イヴァンは満足気に頷くと立ち上がり階段を降りてきた。
「久しいな。
イグナートは1年以上ぶりだし、ナターリャなど王宮を出た以来ではないか。
例え、公爵に降りようと其方達の里は王宮ぞ。
もっと帰ってまいれ。」
「有り難きお言葉にございます。
何分、領地の経営に苦労しておりますので足が遠いておりました。
お許しを・・・。」
イグナートの言葉にイヴァンは頷くと肩を叩いた。
「お前は力を入れすぎだ。
何事も適度という事を学ばねばならん。
ナターリャ・・・。
私がどれほど其方に逢いたいと思っていた事か。」
イヴァンがナターリャに手を伸ばそうとした時だった。
ナターリャは深くカテーシーをすると微笑んだ。
「有難いお言葉なれど、私が心を捧げたのは後にも先にも1人のみ。
陛下におかれましては、田舎者の戯言とお聞き流しくださいませ。」
笑っていないナターリャの目にイヴァンはさっと手を戻すと苦笑した。
「相変わらず、棘ある薔薇は美しい。
触る者は覚悟が必要のようだ。」
「我が母は常に国を憂いておいでです。
そんな母の耳に不快な話を届けさせてしまい心苦しゅうございます。」
ナターリャに夢中になっていたイヴァンは、イグナートの言葉に我に帰った。
「何の話だ?
ナターリャの憂いは王家の憂い。
ワシにも聞かせろ。」
イヴァンがイグナートに話を促した時だった。
「お待ちください!」
声を上げたのは、やはりと言うかヴァハマン侯爵だった。
「この場は死んだ者達を悼む為の式典。
イグナート様であろうとも、一貴族の願いを国王陛下がお聞きする場ではございません。
何か問題がある時は一度、王宮に書簡で報告し各部署が精査してから国王陛下にお伝えするのが習わしで御座います。
その流れを無視して神聖なる式典を混乱に巻き込むのは些か無粋にございます。」
最もらしいヴァハマン侯爵の言葉に周りの貴族も頷く中、イグナートは笑い出した。
「何を怯えているのだか知らないが、コレは弟として兄上である国王陛下に話す事。
兄弟の話し合いに他人が口を挟む方が無粋ではないか?
違うか、ヴァハマン。」
イグナートの言葉にヴァハマン侯爵はムッとした顔で睨みつけると、采配を王に委ねた。
「・・・イグナート。
今は死人を偲ぶ集いだ。
関係のない事は後ほど聞こう。」
国王イヴァンの小さな言葉に満足気なヴァハマン侯爵は、したり顔でイグナートに笑い掛けた。
「・・・では、今回の事に関係のある事なら良いと言うのですね?」
今や曲もダンスも止み、事の成り行きを貴族達がハラハラと見守っていた。
「関係があれば良いのですね?」
再度、問いかけたイグナートの言葉に慌てて止めに入ろうとしたヴァハマンであったが、その前に国王イヴァンが頷いてしまった。
「・・・良かろう。」
「では・・・。
何が死んだ者を偲ぶ神聖なる式典だ。
単なる贅沢三昧なダンスパーティーであろう!!
参加する全ての者に告ぐ。
恥を知れ!!
何も知らぬ国王陛下を愚王に仕立て上げる気か!!」
イグナートの言葉が会場に響くと貴族達は震え上がった。
「・・・何の事だ?
余程の事がない限り、その言葉は取り消せぬぞ。」
イヴァンは眉間にシワを寄せるとイグナートを睨みつけた。
「取り消すつもりなどありません。
この式典は、“悪魔の魔術師ドミトリー・ドナード”に弄ばれた全ての人間達を偲ぶ為の者。
しかし、本当に偲ぶとは問題を解決し静かに祈りを捧げる事。
死した者達を騙すような事はしてはいけないのです。
ドミトリー・ドナードの死の偽造・・・断じて許すわけには参りません!!」
イグナートの言葉に会場中が首を傾げる中、1人の貴族だけはハッとした。
「ドミトリー・ドナードは死んでなどいない!
あの日の処刑は作られた偽物だ!
本物のドミトリー・ドナードはミズガルド国内で匿われ、今も非道な実験を繰り返しているのです!!」
イグナートの告発に式典会場は怒号が飛び交い大騒動になった・・・。
ナターリャとイグナートのカレリン親子は実に冷めた目でその光景を見つめていた。
そんな親子に国王の従者が近寄り頭を下げた。
「カレリン公爵様。ナターリャ様。
国王陛下がご挨拶にお呼びです。」
「分かった。それでは、母上。」
イグナートが差し出す掌にナターリャは手を添えると立ち上がった。
「さぁ、イグナート。
思いっきりおやりなさい。
母は、こんな王宮などどうでも良いのです。
王の不興を買おうと、とっくに未練はありません。」
母ナターリャの言葉にイグナートは苦笑した。
「共に王宮へ来て頂いた。
それだけで感謝いたします。
私は、ミズガルドの貴族としてやらねばならない事を成し遂げます。
後は・・・ささやかに家族が寄り添っていく。
それだけで良い。」
ナターリャは薄らと目に涙を溜めて頷いた。
2人は国王の玉座の下まで来ると最上級の礼をした。
「「「「「おぉぉぉぉ!!」」」」」
会場が盛り上がる中、国王イヴァンは満足気に頷くと立ち上がり階段を降りてきた。
「久しいな。
イグナートは1年以上ぶりだし、ナターリャなど王宮を出た以来ではないか。
例え、公爵に降りようと其方達の里は王宮ぞ。
もっと帰ってまいれ。」
「有り難きお言葉にございます。
何分、領地の経営に苦労しておりますので足が遠いておりました。
お許しを・・・。」
イグナートの言葉にイヴァンは頷くと肩を叩いた。
「お前は力を入れすぎだ。
何事も適度という事を学ばねばならん。
ナターリャ・・・。
私がどれほど其方に逢いたいと思っていた事か。」
イヴァンがナターリャに手を伸ばそうとした時だった。
ナターリャは深くカテーシーをすると微笑んだ。
「有難いお言葉なれど、私が心を捧げたのは後にも先にも1人のみ。
陛下におかれましては、田舎者の戯言とお聞き流しくださいませ。」
笑っていないナターリャの目にイヴァンはさっと手を戻すと苦笑した。
「相変わらず、棘ある薔薇は美しい。
触る者は覚悟が必要のようだ。」
「我が母は常に国を憂いておいでです。
そんな母の耳に不快な話を届けさせてしまい心苦しゅうございます。」
ナターリャに夢中になっていたイヴァンは、イグナートの言葉に我に帰った。
「何の話だ?
ナターリャの憂いは王家の憂い。
ワシにも聞かせろ。」
イヴァンがイグナートに話を促した時だった。
「お待ちください!」
声を上げたのは、やはりと言うかヴァハマン侯爵だった。
「この場は死んだ者達を悼む為の式典。
イグナート様であろうとも、一貴族の願いを国王陛下がお聞きする場ではございません。
何か問題がある時は一度、王宮に書簡で報告し各部署が精査してから国王陛下にお伝えするのが習わしで御座います。
その流れを無視して神聖なる式典を混乱に巻き込むのは些か無粋にございます。」
最もらしいヴァハマン侯爵の言葉に周りの貴族も頷く中、イグナートは笑い出した。
「何を怯えているのだか知らないが、コレは弟として兄上である国王陛下に話す事。
兄弟の話し合いに他人が口を挟む方が無粋ではないか?
違うか、ヴァハマン。」
イグナートの言葉にヴァハマン侯爵はムッとした顔で睨みつけると、采配を王に委ねた。
「・・・イグナート。
今は死人を偲ぶ集いだ。
関係のない事は後ほど聞こう。」
国王イヴァンの小さな言葉に満足気なヴァハマン侯爵は、したり顔でイグナートに笑い掛けた。
「・・・では、今回の事に関係のある事なら良いと言うのですね?」
今や曲もダンスも止み、事の成り行きを貴族達がハラハラと見守っていた。
「関係があれば良いのですね?」
再度、問いかけたイグナートの言葉に慌てて止めに入ろうとしたヴァハマンであったが、その前に国王イヴァンが頷いてしまった。
「・・・良かろう。」
「では・・・。
何が死んだ者を偲ぶ神聖なる式典だ。
単なる贅沢三昧なダンスパーティーであろう!!
参加する全ての者に告ぐ。
恥を知れ!!
何も知らぬ国王陛下を愚王に仕立て上げる気か!!」
イグナートの言葉が会場に響くと貴族達は震え上がった。
「・・・何の事だ?
余程の事がない限り、その言葉は取り消せぬぞ。」
イヴァンは眉間にシワを寄せるとイグナートを睨みつけた。
「取り消すつもりなどありません。
この式典は、“悪魔の魔術師ドミトリー・ドナード”に弄ばれた全ての人間達を偲ぶ為の者。
しかし、本当に偲ぶとは問題を解決し静かに祈りを捧げる事。
死した者達を騙すような事はしてはいけないのです。
ドミトリー・ドナードの死の偽造・・・断じて許すわけには参りません!!」
イグナートの言葉に会場中が首を傾げる中、1人の貴族だけはハッとした。
「ドミトリー・ドナードは死んでなどいない!
あの日の処刑は作られた偽物だ!
本物のドミトリー・ドナードはミズガルド国内で匿われ、今も非道な実験を繰り返しているのです!!」
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