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新たな旅 ーミズガルドー

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「私がイグナート・カレリン。
 公爵の位を預かる者。

 今回の訪問、国に通達もなく危険な国越えをしてきたのだ何か大事があったのでしょう。
 お気になさらず。」

 返事をした翌日、昼過ぎにやってきたポーレット公爵子息は堂々と商人の格好でやって来た。
 今は、カレリン家の部屋を借りて着替えを済まし面会をしている。
 イグナートは座った若者だけでなく周囲の者を観察した。
 そん中、フードをした小さな子供がちょこっと顔を出し手を振っていた。

「お使いの者は実に優秀ですね。
 しかし、子供が深夜に現れ、驚きました。」

 多少の嫌味もヴァルトは笑った。

「ははは。私も反対したのですが、彼らには彼らの思いがありますから。
 手伝うと言って聞かなくて。
 ありがとう。ラック。」

 ヴァルトに褒められてニッコリと頷くラックにイグナートは無理やり働いていたのではないと安心した。
 
「ラックという名なのか。
 深夜の会話。楽しかった。」

 ラックはニッコリと頷くと真っ黒な青年の後に隠れてしまった。

「早速ではありますが、我が国の貴国に対しての憂いと持っている情報をお聞きいただきたい。
 その上でカレリン公爵にはお考え頂きたいのです。」

「私は田舎から出ない一公爵です。
 そんな私が国交の話に協力できます事か?」

 あくまでも国政には協力しない姿勢をとったイグナートにヴァルトは頷いた。

「正直申し上げて、表に立って頂かねばなりません。
 事は国政だけではなく御身に関わる事ですので・・・。」

 訝しがったイグナートは執事と顔を見合わせた。
 執事は首を振ると《何の事かわからない》と合図を送ってきた。

「まずは、こちらが我が王アルフレッド・アースガイルより預かって参りました書状にございます。
 今回訪問した詳細が記してあります。」

 従者から受け取った書状を差し出すヴァルトにイグナートは益々驚いた。

 言伝だけかと思っていたが、書状ときた。
 一介の公爵に他国の国王が国を通さず書状を渡す、下手をしたら謀反も疑われる。
 しかし、イグナートは受け取ると中を改めた。

 初めのうちは涼しい顔で読んでいたイグナートであったが、後半に行くほどに顔面が蒼白し震えが止まらなくなった。

「嘘だ・・・まさか・・・。」

 力なく書状を落とすイグナートに執事は驚き体を支えようと近寄った。
 イグナートはそれを振り払うと執事に書状を押し付けた。

「読んでみろ・・・。
 信じられない事が書いてあるぞ。
 
 これは誠の事なのか?」

 もはや、体面など気にしてる余裕もなくイグナートはヴァルトに掴みかかった。

 剥がそうとする従者を手で静止しヴァルトはイグナートの腕を掴んだ。

「事実です。
 我らに力を貸してくれているヴァハマンの元暗部が確認したのです。
 今回の私達の国越えは生きているドミトリー・ドナードの始末をつけるためです! 
 どうか、カレリン公爵にもお力添えを頂きたい!!
 
 事はミズガルドに蔓延るヴァハマン一派の腐敗政治ではないのです!
 
 あの者は国取りだけでなく我が国アースガイルをも危険に晒してきました。
 我が王は国民を守ために立ち上がるでしょう。
 今のままでは一丸となった我が国によってミズガルドという国は無くなります!

 しかし、我が王はミズガルドに住う弱き民を憂いておいでです。
 
 今や、気に入らないと田舎で縮み上がっている場合ではないはずです!」

 若きヴァルトの言葉は隙間風が吹いていたイグナートの魂を振るい起こさせるのに十分であった。
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