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新たな旅 ー王都ー

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 王城で祝いの会をしていた時だった。

「そうだ、ココさん。
 相談に乗ってくれませんか?」

 楽しそうに婚約者のディビット第二王子とプラムゼリーを食べていたココにイオリは話しかけた。

「私でお役に立つ事がありますか?」

 キョトンとした顔をしているココにイオリ微笑んだ。

「是非、本好きのココさんにご意見を聞かせて頂きたい。
 絵本を作って、国中の子供達に読ませたいんです。」

「絵本とは、挿絵がついてる本の事でしょうか?」

 本と聞いて俄然と興味を持ったココにディビットは苦笑した。

「ココ慌てないで、挿絵のついた本なら既にあるじゃないか。
 イオリがわざわざ話すのだから、違う物だよ。
 そうだろう?」

「おっしゃる通りです。
 挿絵ではなく絵がメインの子供でも読みやすい物です。」

「絵がメイン・・・?」

 文字が多い本が主流のこの国で絵が本になっているなどは、先の通り挿絵などしか用いられていなかった。
 当然、絵本などの子供が読むのもではなく、本自体が教育課程へ進む貴族の子供から読まれるものであった。

 イオリはココとディビットに《泉に斧を落とした男が素直だった為に女神により金と銀の斧を手にした》話をした。

「その話を聞いた欲深い男がワザと斧を泉に落とし金銀の斧を女神に請求するのですが、嘘をついた罰により元々の斧をも没収されるんです。

 要は《嘘をついてはいけません》《欲深いのは身を滅ぼします》
 と言う事なんですが、子供に説明するのに単純に駄目というより分かりやすいと思うんです。」

 イオリの説明に納得したココは笑顔で頷いた。

「字が読めない子供にも絵なら分かりやすいという事ですね?
 素晴らしい考え方だと思います。」

 隣でディビットも頷いている。

「それだけではありませんよ。
 本を読みたい子供が文字を覚えれば識字率も上がります。
 そうすれば、子供達の未来に選択肢が増えるし働き口が増えればわざわざ罪を犯さなくても良いわけなので犯罪率も下がります。
 計算にだって役に立つかもしれません。
 そうすれば、お店でボッタクリにも会いませんしね。」

「計算?」

 不思議そうに首を傾げるココにイオリはラックに手招きした。

「ラックは計算が出来るかい?」

「計算?わからない?」

 そんなラックにイオリは問題を出した。

「ラック“2+3”はなんだ?」

 悩んだ末にラックは眉を下げて首を横に振った。

「わかんない・・・。」

「いいんだよ。
 じゃあ、これは?」

 イオリが腰バックから、リンゴを2つと卵を3つ出すとラックは嬉しそうに手をあげた。

「リンゴが2つと卵が3つ!」

「全部で?」

「5つ!」

 イオリはニッコリすると飴を一つあげて頭を撫でた。

「ね?出来たでしょう?
 言葉で言って難しくても、実際に物を目にすると分かりやすいんですよ。」

 その時には一連の事を見ていた大人達は驚いた様にイオリを見ていた。

「実はポーレットの教会で神父のエドバルドさんとも話し合っていたんです。
 孤児の教育に絵本を活用したいと。
 ポーレットの孤児達は職業に必要なスキルを学びますが基本的な教育も必要ではないかと思ったんです。
 冒険者になれば、ポーションの価格を知らなければいけないし魔獣の部位を売る時も必要でしょうでしょ?
 商人になれば同じく数字の勉強は役立つし、騙されない方法も知っておいた方がいい。」

 イオリと目があったポーレット公爵テオルドは深く頷いた。

「なるほど。
 子供の教育の一歩に絵本を活用すると?」

「はい。」

 イオリは今や部屋中の視線を集めていた。
 
「面白いではないか。
 やってみる価値がある。
 子供の教育が将来のアースガイルの成長に繋がるのなら立派な公共事業ではないか?
 どうだ、ココ興味はあるか?」

 国王アルフレッドの言葉にココは頷いた。

「ディビット様に嫁ぐ事になった時から考えておりました。
 私自身が国のお役に立つ方法を・・・。
 お許しが出るのであれば、ディビット様の妻としてだけでなく私の生涯の務めとしていきたく存じます。」

 そんなココにディビットはニコニコと笑うと手をあげた。

「父上。私も同じく手伝わせてください。
 父上と兄上が国を憂い守るのならば、私は国の子供みらいの育成に生涯をかけましょう。
 貴族の子供も一般の市民の子供も孤児も・・・人材は国の宝です。」

「やはり面白いの。やってみよ。
 人材は国の宝・・・初代国王マテオの言葉だ。
 教育は大事か・・・。
 まずは、その絵本とやらを作って見せなさい。」

_________

 グラトニー商会会頭ロス・グラトニーはイオリから聞いた話にニヤリとすると頭の算盤を弾き始めた。

「大変、興味深い話です。
 今の話だと金銭は国庫から引き出せば良いと思うものの、イオリさんはそうではないのですね?」

「はい!そうです!
 お分かりいただいで良かった。
 国庫からお金を貰い出版すれば、国の為の本を作らなくてはいけなくなります。
 それでは人の心は豊かにはなりませんよ。
 普及や管理には力を借りますが、あくまでも自立した考え方を望みます。」

 イオリの考えにグラトニーは自身達の信念に通じると好感をもった。
 《父が気にいるはずだ。》

「では。どうでしょう?
 子供の教育と言うのであれば、貴族の子供もまた国の宝になります。
 貴族様には高価な素材で高く売り、市民には低価格な素材で手頃に売る。
 余った資金で孤児には無償で提供する。」

 ロスの考えにイオリは大賛成だった。

「それなら、図書館って考え方も良いですね。」

 イオリの思考が回転し始める音がヒューゴや子供達だけでなくロスやリロイにも聞こえたのであった。

 
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