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新たな旅 ー王都ー

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「無事、ロザリンダ姫が国境を越えた様でございます。」

 国王アルフレッドとポーレット公爵テオルドが紅茶を飲んでいると宰相グレンが報告をしてきた。

「そうか・・・。」

 頷いたアルフレッドであったが、グレンの報告は終わらない。

「イオリの予想通りでした。
 ザックス将軍率いる“おとり部隊”が突如現れたギガントベアーと交戦。
 途中で巨大化したと報告がありました。
 無事、イオリにより仕留めることが出来たとか・・・。」

 アルフレッドとテオルドの兄弟は深い溜息を吐くと安堵した様に微笑んだ。

「流石は我が専属冒険者。
 やってくれるわ。」

「あんなに若いのに見事だ。
 何はともあれ帰り次第、皆に酒を振るまえ。」

 国王の言葉にグレンは頷いた。

「にしても、突如現れるとは何でしょう。
 魔道具だとしても特定を急がなければ、堂々巡りです。」

 不安を口にしたグレンの後ろからエルフが現れた。

「私が探ってくるよ。
 何度も、その魔道具は使ったことがあるんだ。」

「リルラ・・・。
 前よりも危険な事だ。」

 アルフレッドが眉を下げるとリルラは微笑んだ。

「覚悟の上さ。
 その代わり・・・私がミズガルドに行っている間、ラックを頼みたい。」

「承りましょう。」

 グレンが頷くと安心した様にリルラは膝をついた。

「アースガイル国王陛下の命により、ミズガルドの怪しき魔道具について調べてまいります。」

 男達を置いてリルラはすぐ様部屋を出て行った。

「魔道具もそうだが、ロザリンダはミズガルドでやっていけるだろうか?」

 アルフレッドの言葉にテオルドが頷いた。

「ミズガルドに着いたのであるば殺す意味がない。
 むしろ揉め事になり面倒だ。
 今までの暮らしはできなくとも、命が取られることはないだろう。」

「そうか・・・。」

 アルフレッドは見ぬミズガルドの腐敗に心を痛めた。


__________

「ギガントベアーが倒され、ロザリンダがミズガルド内に入っただと!?」

 ヴァハマンはイライラとしながらもサヴァーノの報告を聞いた。

「何でも、ロザリンダ一行の本隊は別移動していたらしく、引き渡しにはギルバート王太子が自ら来たと・・・。
 それに、ギガントベアーを倒したのは例の冒険者と報告が。」

「・・・・・・。」

 サヴァーノは静かに怒りに燃える主ヴァハマン侯爵を恐れた。

「つくづく邪魔をしてくれるな。
 その男について調べろ。徹底的にだ!!」

「はっ!!」

 ギガントベアー亜種をも倒す男・・・冒険者イオリ。

「1番の障害かもしれんな・・・。」



 数日後、王城に上がり出迎えに参加したヴァハマンはロザリンダの変わりように驚いた。
 ヴァハマンが知る、上昇志向の強いロザリンダはいつも闘志が漲り、誰彼構わず攻撃を仕掛けていた。
 だからこそ、アースガイルに送り込み敵国の貴族社会を壊してもらうつもりでいたのだ。
 本来だったら無様な帰国の挨拶に悪態の一つもあるだろうと思っていたが、目の前にいるロザリンダは憑物が落ちた様に穏やかで物静かに王の前に跪いた。

「国王陛下の期待に添えず申し訳ありませんでした。」

「おぉ。娘よ。無事の帰国とは喜ばしい。
 疲れたであろう。新しい屋敷を用意した。
 しばらく養生せよ。」

「有難うございます。
 お言葉に甘えさせて頂きます。」

 もう一度、王に頭を下げ帰国の謁見を終了した。


 コツコツコツ
 カツカツカツ


 王城の廊下でカチあったロザリンダにヴァハマン侯爵はニッコリと頭を下げた。

「お元気な姿を見れて、このヴァハマン嬉しく存じます。」

「ありがとう。父には貴方がついているので城を辞しても安心です。」

「何よりのお言葉です。
 アースガイルでの暮らしは如何でしたかな?」

「とても有意義でした。」

 そう言い、歩き出そうとしたロザリンダは思いとどまるとヴァハマンに言った。

「ギルバート王太子殿下よりヴァハマン侯爵へ伝言です。
 《アースガイルを舐めるな。》だそうです。
 お心当たりがありますか?」

 ニコニコしていたヴァハマンの目が一瞬鋭くなるも再びにこやかに笑った。

「ギルバート王太子も剛気なお方でございますな。
 このヴァハマンには心当たりなどありません。どなたかと勘違いをしておられるのでしょう?
 新しいお屋敷に必要なものがございますか?私が用意いたしましょう。」

「それは有難うございます。
 でしたら、幼き頃より共にしてまいりました“婆や”を寄越してくださいな。
 よしなに。ご機嫌よう。」

 ロザリンダはニコっとすると廊下を歩いて行った。
 その後ろ姿を憎々しげに睨みつけたヴァハマン侯爵は自身も王城の奥へ足を向けたのであった。
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