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新たな旅 ー王都ー

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 アースガイルの王都マテオールにそびえ立つ国王が住う城“アースガイル城”の奥、国王一家が私生活を送るエリアの庭から場違いな一筋の煙が上がっていた。

 キャキャっと子供達の声が響き渡っているのを国王アルフレッドは久々の安らぎと共に優しい目で見つめていた。
 その隣に座る、限りなく似た顔の弟・ポーレット公爵テオルドも同じく目尻を緩めて同じ景色を見つめている。

「して、タヴァロスはどうであった?」

「クククッ。大層、驚いた顔をしていたよ。
 娘の婚約が決まると思っていたらしい。
 ニコライも何を言っていたんだか?我が息子ながら・・・ククッ。」

「ニコライにも随分と我慢をさせたからな。
 許してやれ。」


_________
 時は戻り・・・


「何をおっしゃられているのか分かりかねますな。」

 弱々しくも椅子に腰を落としたタヴァロス侯爵は辛うじての反論をした。

「ふむ。そうか・・・。
 どうする?息子達よ。」

 ニコライは父の隣にドカッと座ると膝に置いたカーバンクルを撫でた。
 よく見れば、公爵一家の肩や膝に色取り取りのカーバンクルがタヴァロス侯爵一家を見つめていた。

「忘れたとおっしゃるならば、思い出して差し上げればいいでしょう。」

「そうですね。クラーク伯爵お手伝い願いたい。」

 ヴァルトが振り向くとココの父親であるリード・クラーク伯爵が大量の書類を持って他の文官達と現れた。

「一つ一つ確認していくのもいいですが、時間が惜しまれますので概略だけでも。
 まず、タヴァロス公爵ベンネ・タヴァロス名義の借用書がこちらに。」

 ドンッ!
 大量の束を目の間に放り出され、タヴァロス侯爵は息を飲んだ。

「貴方?これは何ですの?
 ・・・借用書?私は聞いておりませんわ。」

 侯爵夫人であるドーリーが顔を硬らせて夫に詰め寄った。

「続きましてこちらが違法で契約した冒険者・商人などを捕縛し調書をとった写しになります。
 皆、丁寧に証言なさっていますよ。
 そして、これがタヴァロス侯爵が愛人達にお買い求めた屋敷の権利証明書とドレスや宝石の領収書。
 こちらは、経費の上乗せとして計上されていますが認められませんので悪しからず。」

 さらっと“愛人達”という言葉が出てきた事でドーリーとギゼラの顔が怒りに燃え始めた。

「貴方・・・!!愛人ですって?」

「信じられない!お父様・・・なんて事なの!?」

 叫び始める2人に対してクラーク伯爵は待ったをかけた。

「それについては後ほど。
 続きまして、以上の損害を穴埋めしようとなさったのでしょうか?
 詐欺商売にも手を出し、貴族のコインを利用して奴隷の輸送を斡旋なさっている事も判明しております。
 利用された馬車は差し押さえてありますし、業者の身柄拘束も終了しています。
 その中にはミズガルドの貴族との取引も確認されていますので、言い逃れは出来ません。」

 クラーク伯爵はテオルドに頭を下げると2歩さがった。

「思い出しただろうか?
 中には我々の領にまで被害を出しているとか?
 冒険者達は貴公に砂糖の製造方法を盗んでこいと依頼されたと言っている。
 あれは我が領の市民の救いだ。それを貴族の借金の返済になど使わせるわけにはいかんのだよ。」

 テオルドの言葉にタヴァロス侯爵ベンネは小刻みに震え出した。

「私は・・・私は悪くない・・・。
 貴族だぞ?歴史ある貴族だ!市民の救い?
 そんな物が何だというのだ!貴族の為に市民の金を使って何が悪い!」

 徐々に大声を出し青筋を立て始めたベンネ・タヴァロスは机をドンっ!と叩いた。

「ほう。認めるか?」

「認める?私は有効に活用したのだ!
 我が家が窮地に落ち込めば困るのは市民だぞ!
 その助けをする為に金を使って何が悪い!
 仕事のない人間を売って何が悪い!!」

 そんな言葉にタヴァロス侯爵家以外の人間に怒りが湧いたのは仕方のない事だろう。

「建国依頼、我が国は奴隷の扱いには慎重をきしてきた。
 初代国王マテオの言葉もあるがそれだけではない!
 各時代の王達が市民の生活に心を寄り添ってきたからだ。
 全てを救うことは難しくとも、せめて己の領地の市民の生活向上を目指すのは領地を預かる人間にしたら当然の事。
 王都でヌクヌクとぬるま湯に使った仕事もしない貴族に使われる金も命もあるわけがない!
 貴族の為に市民の金を使う?ぬかせ!!

 貴族ではない!己自身の欲望の為であろう!
 そんな者は貴族とは言わん!ドブさらいのネズミにでもなっておれ!」

 テオルド・ドゥ・ポーレットの剣幕はタヴァロス家にいる全ての人間に聞こえていた。

 屋敷の中を調べ漁っている衛兵達から続々と資料が運び込まれ、愛人や雇っていた冒険者が現れるとタヴァロス侯爵は諦めの顔をし始めたのであった。
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