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新たな旅 ー王都ー

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 少女は本を読むのが好きだった。
 そんな娘を喜ばせたいが為に父が王城の図書館に連れて行ってくれたのが8歳の春の頃だった。

「良いかい。ここでは静かにしなければいけないよ。
 調べ物をしている人や仕事をしている人の邪魔をしないようにね。」

「はい。父上。
 それにしても、素敵ですね。
 私、こんなに沢山の本が並んでるのを見た事がありません。」

 目を輝かせる娘に父は微笑んだ。

「クラーク伯爵?」

 その時、父親を呼ぶ声がして少女は振り向いた。
 そこには自身より背の低い少年が立っていたのであった。

「これはディビット殿下。
 今日は本をお探しに?」

「はい。以前、伯爵が仰っていた綺麗な魔石の図鑑を借りに来ました。
 そちらは・・・?」

 殿下と言われた少年と目が合い、驚く少女であったが父が微笑んで背中を押してくれた。

「リード・クラークが長女ココにございます。」

 カーテシーをした少女に少年がぶっきらぼうに答えた。

「ディビット・ドゥ・アースガイルだ。」

 これが将来を共にする2人の出会いであった。


 その後は、図書館に通うココと同じく知的好奇心旺盛なディビットが会う回数が増え
 自身よりも博識で聞き上手なココに心を許していくディビットに王妃殿下が気づき2人の婚約話が進んだのであった。

 年月が過ぎ、確実に関係を深めていった第二王子と伯爵令嬢は茶会や夜会にもパートナーとして出席し同年代の若者達に
 いや、その家族達にも衝撃を与えた。
 正式に婚約が結ばれると、堂々と王城へ足を運ぶ事が出来、王妃だけでなく国王や第一王子であったギルバートにも認められ可愛がられるようになっていった。


 しかし・・・。

 王太子ギルバートの婚約者候補選びが行われるようになりココの役割が出来てきた。
 第二王子の婚約者として王太子妃候補者達と顔を合わせる事が増えていったのだった。

 幼い時より静かにゆっくりとディビットと関係を深めてきたココとは違い、争うようにギルバートの妻の席を狙う令嬢達の争いは苛烈を期していた。
 ココはその状況下のもと、何かあるとディビットが迎えに来て妃殿下達と時間を共にするのだ。
 当然、令嬢達の目は厳しくなった。

「たかだか伯爵令嬢風情が、ディビット様の婚約者とはね。」

「何をしたら、気に入ってもらえるのか教えていただきたいものだわ。」

「王室の皆様と夕食を共にしたと聞いたわ。」

「まぁ、それじゃディビット様を踏み台にギルバート様を狙っているのではなくて?」

「「「「身の程を知りなさいよ!!」」」」

 いつの間にか口さがない令嬢達の槍玉に上がっていった。
 中でも怖かったのはピンク色の髪をフワリと揺らして口元を隠していた令嬢。
 ミズガルド第三王女ロザリンダであった。

 ロザリンダは何もしない。
 ただ、彼女が扇で口元を隠し何かを発すればココは他の令嬢に取り囲まれていた。
 ディビットに告げ口するわけにはいかない。
 未来の王妃殿下を選んでいるのだ。ギルバートやアースガイル国王にも迷惑がかかる。

 争う事を好まぬ令嬢は耐えた。耐えて耐えて耐えた。

 そして事件が起こった。

 その日もココは茶会で令嬢達に攻撃をされていた。
 弱い自分に勇気を持たせる為に何時もアイリスの花の髪飾りをつけていた。
 それは、17歳の誕生日にディビットが贈ってくれた宝物だった。
 それがあればディビットと一緒にいると心強く感じていた。

「貴方、その髪飾りしか持ってないの?
 何時もそれしかしてないじゃない。」

 とある侯爵令嬢が徐に髪飾りを毟り取った。

「お返しください。
 それは私の宝物なのです!」

 初めて大きな声を出したココに驚く侯爵令嬢は怖い顔をして激怒した。

「私に大声出さないで!不敬よ!
 何よ!こんなもの!」

 窓から放り投げると外にある池に落ちていってしまった。

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!
 あれはディビットがくれた・・・・」

 ディビットの名前が出て初めて青ざめる侯爵令嬢は震えながらも言い放った。

「何よ!貴方が大事にしないからいけないのよ!
 私は知らないわよ!!」

 他の令嬢と走り去った令嬢をボー然とした目で追ったココは意識が戻ると走った。
 走って池まで来るとなんとか髪飾りを取ろうと側にあった棒で池の中を探した。
 
 すると後ろから、ドンっ!と押され池に落ちたのだった。
 思ったよりも深い池の中、水を吸い重くなっていくドレスのせいでドンドン沈んでいく体。
 なんとか這い上がろうと、もがくも視界が狭まっていく。

 意識が薄れていく中で最後に見たのはピンクのフワフワした髪の女性だった。
 口元も隠さずに歪めた顔で彼女は言った。


「汚らわしい小娘など死ねば良い。」


 そうしてココは暗闇の中に沈んでいったのであった。


 目を覚ましたのは自身の部屋だった。
 異変に気づいた衛兵に助けられたという。
 心配そうに覗き込む父や母、弟と妹に号泣しながらも何があったかは言えなかった。

 知らせを聞いて駆けつけてくれたディビットにも口を閉ざした。

「君を守ることの出来なかった。
 僕を許してくれ。
 どんなに君に嫌われようと離れたくないんだ。」

 何度も何度も許しを口にするディビットに耐えられずココは何があったかを話し出した。
 驚き怒りディビットがロザリンダ含め侯爵令嬢達を責めるのを止めるように言ったのはココだった。

「証拠なんて何もないのよ?
 侯爵令嬢はともかくロザリンダ様はミズガルドの姫。
 何かあれば、私達の問題だけでは済まなくなるわ。
 私は良いの。ここにいれば守られるもの。
 でも、ごめんなさい。ディビットから頂いた髪飾りをなくしてしまったの。」

 悲しそうに笑い謝るココにディビットは何も言えずに帰って行った。

 2日後、再び現れたディビットは全身びしょ濡れで泥などで汚れた姿だった。
 黙って差し出した彼の手にはアイリスの髪飾りが握り締めてあった。

「新しく買い直そうかとも思ったけど、僕達にとってコレは特別なものだから・・・。
 笑ってココ。
 君が何度なくそうが俺が何度も探してくるから。」

 その言葉にココは泣きながらディビットに抱きついたのだった。

「もう。王城へは来なくて良いよ。
 兄上があいつらを追い出すまで君は伯爵が守ってくれる。
 会いにくるよ。待ってて。」

 ディビットの言葉でココの引き篭もり生活が始まったのであった。





 そんなある日の事だった。
 王城では王妃様主催の大きな茶会が開かれるとメイドも騒いでいるのをココは聞いていた。
 ディビットが会いに来てくれるのを待つ日々。自分には関係ない話だった。

コンコンコンっ。

「お嬢様にお客様がいらっしゃっております。
 ディビット殿下の紹介状をお持ちでいらっしゃいます。
 如何いたしましょう?」

 執事が心配そうに顔を出した。

「ディビットの紹介状・・・?
 何か意味があるのかしら?
 ・・・・お会いします。」

 支度をして庭に向かえば、賑やかな子供達の声がした。
 立ってココが来るのを待っていたのは真っ黒な青年だった。
 片目がサファイヤブルーのように綺麗な青年がニッコリ微笑みお辞儀した。

「初めまして、冒険者をしておりますイオリと申します。」
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