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帰還  〜ポーレット〜

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「ほう。あのカサドがな・・・。
 なかなかいい仕事をしてくれる。それで、イオリ達の準備は整ったと考えていいのか?」

 ポーレット公爵・テオルドは執務室にイオリを招き旅の計画を練っていた。

「はい。
 バルバルじーさんにも馬車のメンテナンスの合格をもらいましたし、いつでも良いですよ。」

 そんなイオリを楽しげに見ていたテオルドは同席していたニコライとヴァルトにも顔を向けると話し始めた。

「それならば、3日後に出発とする。
 各々、それまでに仕事を終わらせろ。残された者に迷惑をかけるなよ。」

「「はい!」」

「午後からは、冒険者ギルドのギルマスが来る。
 いない間の治安維持を頼む為だ。お前達2人も出席しなさい。
 イオリは道中の守りを騎士団と計画を練ってくれ。ノアも一緒に。」

「御意。」
「了解です。」

 本格的に王都への旅へ向けて準備が始まるとイオリは楽しみになってきた。
 しかしテオルドの言葉に冷静さが戻る。

「今回の王都へ行く目的はタヴァロスの違法を突き止める事が目的だ。
 市民が死に物狂いで守る物を貴族の欲で盗まれてたまるか!
 それを守る為なら、私は王すら脅しに使うさ。やるぞ、飲まれるなよ。」

「「「「「はっ!」」」」」
 
 気合の入るポーレット公爵家にイオリは気を引き締めたのであった。

 話し合いが終わり、ノアと共に騎士団の集まりに行くと大きな声が響いた。

「皆集まれ!!」

 号令と共に集った騎士団を前にノアが立った。

「王都への出発は三日後となった。各自、準備と共に覚悟するように!
 それから、今回はイオリ殿も一緒に参る。
 私達と動き方が異なるが惑わされる事なく、己の仕事に殉じせよ。」

「「「「「「「「「はっ!!!」」」」」」」」」

 騎士団の号令に驚きながらもイオリは会釈をした。

「よろしくお願いしまーす。」

 そんなイオリに騎士団の面々はニッコリと笑みを見せ、訓練に戻っていった。

「イオリ。騎士団団長を紹介しよう。アイザックだ。」

「以前もご挨拶しましたね。ポーレット公爵より騎士団団長を拝命しておりますアイザックと申す。
 此度の旅にはイオリ様もご一緒との事、よろしくお願い致す。」

 騎士特有の挨拶なのか、ビシっと直立するアイザックにイオリは微笑んだ。

「よろしくお願いします。
 大人数での旅なんて初めての事ですし、子供もいますので心配させてしまう事もあるかもしれません。
 その時はどうぞ、ご容赦を。」

 アイザックはニカッと笑うと、首を振った。

「公爵よりイオリ様達は自由にさせるように言いつかってますし、危ないことなど楽しんでおやりになるでしょう?
 大丈夫です。お任せを。」

 アイザックはノアと同じく公爵の従者だった事があるとか、信頼関係がある2人を交えその後は旅の計画を練り始めた。




__________

「ギゼラ!ギゼラはどこだ!!」

 王都にある煌びやかな屋敷に主人の大きな声が響いていた。

「貴方なんです?大きな声を上げて。」

「おぉ、ドーリー!ギゼラは何処だ?」

 主人は妻を見つけると嬉しそうに肩を掴んだ。

「ギゼラでしたら、部屋で書き物を・・・。」

「お父様?呼びました?」

 そこに、この屋敷の娘が姿を表せた。
 大きな体をコルセットにねじ込んだような娘は口の周りを手で払いながら慌てたようにやってきた。

「貴方、また部屋で砂糖を舐めていたのね?端ないからおやめなさい。」

「良いじゃない。好きなんだから。
 それで?どうしたの?」

「そうだった。今度、王妃様のお茶会が催されるのは知っているな?」

「勿論です。ドレスだって注文してますもの。」

「それに、ポーレット公爵ご一家がいらっしゃるそうだ!一家総出だそうだぞ!!」

 主人であるベンネ・タヴァロスは嬉しそうに娘と妻に伝えた。

「なんですって!オルガ様もいらっしゃるの?それは・・・。」

「婚約者を見つけに来られるのではないか??ギゼラ!!」

「こ・・・・こうしてはいられませんわ!!
 ドレスの作り直しをしなければ!!ニコライ様が私を迎えに来られるのに変なドレスを用意するわけにはいかないもの!!

 誰か!誰か!ドレス職人を呼びなさい!早く!!」

 娘のギゼラが大慌てで使用人に命令するのをタヴァロス侯爵夫婦はにこやかに見つめていた。

「ポーレット公爵が来る・・・。これを逃すものか・・・。」
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