拾ったものは大切にしましょう～子狼に気に入られた男の転移物語～

帰還 〜ポーレット〜

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　終始イオリのペースで進んでいく話し合いにミーヤキャットの様にシンクロして頷く商人ギルドの3人は圧倒されていた。

「さすがイオリ様ですね。丁寧かつ簡潔に話を進めておられる。
　あれではギルマスも頷かずにはいられませんでしょうね。」

「そうなんですか？俺にはイオリが詐欺師の様に見えますけどね。
　にしても、あんなに信じ易くて大丈夫なんですか？
　商人ギルドのトップでしょう？？」

　壁の寄りかかるハンスとヒューゴはヒソヒソと会話しながら苦笑していた。
　それを、ブルーノが諭す様に言った。

「お客様に聞こえますよ。
　大体、あの3人がただの人間でない事位分かることでしょう。
　しかし、イオリ様のおっしゃる内容に嘘もなく素直にお話になられているので納得せざる得ないんですよ。
　あとはイオリ様のお人柄でしょうね。
　相手の話を聞いた上で、ご自分の意見を押してらっしゃる。
　本当に商人になったら恐ろしく長けた営業をなさるでしょうね。」

　

「そんなわけで、砂糖の利益に関しては譲れません。
　その代わりポーレットの景気に対して還元していきますので了承していただけませんか？」

「なるほど、なるほど。
　長年商人をしておりましたが、イオリ様の様な考え方に触れたのは初めてです。
　とても興味深く聞き及びました。

　アーベル様も同じ様にイオリ様のお話を？」

　イオリの話を聞き終わったゲーザはアーベルに視線を動かした。

「私は、ポーレット公爵から面白い物を見にこないかと言われた隠居者だよ。
　確かに、イオリさんの話は儲け主義の現役商人達はむず痒く聞こえるだろうが、街全体の底上げなどかつてあったろうか？
　誰しもが足を引っ張り合う世界でこんなに愉快な話はない。
　それをポーレットでやってみたら良い。

　今までもイオリさんは商売に関わりたくないとおっしゃっていた。
　なら、この仕事は我らの話だ。
　どうだい？この話に乗ってみないか？」

　上半身を前倒しにして話すアーベルにギルマス・ゲーザはニヤリとして手を出した。

「やりましょう。王都よりも素晴らしい仕組みをポーレットから・・・。
　こんな痛快な話は聞きません。
　そうとなれば、公爵様のお話も聞かないと！」

「それなら、私が聞きましょう。」

　軽いノックをして入ってきたのはニコライの従者・エドガーだった。
　エドガーは同じ従者のフランよりもより実務向きな思考の持ち主で、法律にも長けている。

「ポーレット公爵より、話は承っています。
　それに、イオリさんの考えは現当主・テオルドも次期当主・ニコライも感銘を受けています。
　2代に渡り、改革に前向きな今、話を進めるべきです。
　商人ギルドも手を貸してくれるのなら話は早い。
　早速、進めましょう。」

　エドガーの出現により、トントン拍子に進む話し合いにイオリはニコニコしながらソファーを立った。

「もう良いですかね？」

　アーベルに耳打ちするとニッコリと頷いた。

「じゃあ、子供達のいる部屋に行っています。」

　ヒューゴとゼンを連れて廊下に出ればイオリはヘナヘナと座り込み大きな息を吐いた。

「はぁぁぁぁぁぁ。疲れたぁぁぁぁぁぁ。」

「ふふ。お疲れさん。
　ブルーノさんとハンスさんが褒めてたぞ。良い商人になれるってさ。」

「勘弁してくださいよ。
　一回の話し合いでこんなに疲れるのなら、ごめんです。」

　ケラケラ笑うヒューゴを背に子供達の待つ部屋に入ると、お腹いっぱいにお菓子を食べたのか、思い思いの格好で眠っていた子供達にイオリとヒューゴは笑うのだった。