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帰還  〜ポーレット〜

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「はっ 初めてお目にかかります。
 私は商人ギルド・ギルドマスター・ゲーザ。
 こちらから、サブマス・ヘミング。
 私の秘書のジェイミーです。
 
 本日はイオリ様とお会いできて嬉しく存じます。
 随分とお願いをしていたのですが、何かとご都合が悪かったらしく・・・。」

 そういうと、ゲーザは恨みがましく澄まし顔のアーベルを見た。

「それは、すみません。
 基本は冒険者ですので、依頼をこなしてたり先日まで旅に出ていたりと忙しくしておりました。
 ホワイトキャビンはバートさんに全てお任せしてましたので、俺の出る幕はないと思っていたんですよ。」

 イオリの言葉にゲーザはにこやかに頷いた。

「そうでしたか、それはお忙しいのにお時間をとって頂いて申し訳ない。
 早速ですが、お話を聞かせて頂いても構いませんか?」

「勿論。どんな事でしょう?」

 ゲーザはジェイミーから紙を受け取ると準備してきた質問をし始めた。

「イオリ様が素晴らしい商品を生み出しているのは存じています。
 商人ギルドに登録をしてただけていませんがどうしてでしょう?」

「俺は冒険者です。生活の資本は冒険者の活動で十分です。」

 そう言うイオリに3人は驚いた顔をした。

「では、その全ての権利をグラトニー商会に渡しているという事ですか?」

「いいえ。グラトニー商会にはお手伝い頂いているのみで、権利は俺の物です。
 それを、グラトニー商会から独立したホワイトキャビンに権利の管理をして貰っているんです。」

 単純明快に答えるイオリに3人は何とも言えない顔をした。

「それでは、グラトニー商会が出したお店は?」

「菓子店とシチューを始めとしたレストランですね?
 菓子は、砂糖とレシピを買って頂いてます。
 シチューの店は元々、牧場の一家の物です。俺はレシピを売っただけ。グラトニー商会は投資しただけ。
 これまでの努力と今の繁盛振りは牧場一家の物です。」

 これまた、ぐうの音も出ない説明にゲーザはイライラとしてきた。

「それらならば、余計に貴方は商人ギルドに登録するべきではないですか?!
 儲けの税金だって発生するわけです。
 我々にはそれらを管理する義務があります。」

「工房の職人は全て商人ギルドに登録するのですか?
 しないって聞きましたけど??」

「えっ?・・・。」

「オーナーじゃなくても、職人が新商品を開発する事もあるでしょう?
 それができるって聞いたから、今の形態にしているんですよ。
 それに儲けには税金は付き物ですが、我々にとっては意味がないです。」

「何故です??」

 ゲーザは戸惑う気持ちを抑えて、極めて冷静に話しているつもりだった。

「売り上げの全てをポーレットという街に還元しているからです。
 ホワイトキャビンは公共事業の一旦を担っているんですよ。
 確か、ご説明したと報告を受けましたけど?」

「してますよ。」

 イオリの問いにバートは飄々と答えた。

「俺のレシピはある程度、商人ギルドに登録しています。
 その分の利益に伴う料金はお支払いしてますよね?」

「ええ・・・まぁ。ジェレミー?」

「はい。お支払い頂いています。
 しかし、その全てを街に還元とは?
 ポーレット公爵家にお金が流れているって事ですか?」

 鋭い目をしたジェレミーにイオリは首を振った。

「正確には違います。
 ポーレット公爵家が守っている、奴隷廃止制度に感銘を受けて手助けをしているんです。
 ポーレット公爵家の畑で発生するお金は働く人の給料や教会の教育機関で学ぶ子供達の助成金として利用されているのはご存知ですよね?
 それの手助けをしているんです。
 余ったお金はその都度、街を囲む壁の補修などに使われていますよ。
 
 これが、街に還元する公共事業の仕組みです。」

「それでは、貴方方に何の得もないじゃないですか・・・。」

 ジェレミーは理解し難いと顔を顰めた。

「それは商売人さん達の考えですよね?
 でも俺は冒険者です。冒険者の仕事で食っていけます。Sランクなんで。
 それ以外のお金なんて使いきれませんよ。だったら、好きに使います。
 俺はポーレットという街に投資しているんです。
 奴隷がいないというのは人道的に見ても素晴らしいですが、商人としも良い傾向だと思いますよ?」

「良い傾向?」

 今度はサブマス・ヘミングが興味深そうな顔で聞いてきた。

「商人にとって奴隷を買うというのはコストです。
 使える人材を探し当てるまでに多額のお金を使いますし、購入したらしたで出費はするわけですよ。
 公爵家が行なっている政策はただ、奴隷を無くそうとしているのではなく自立を目指しています。
 という事は、スキルを持った人材が育ち商人達は見合った額で雇えば良い!
 
 グラトニー商会が手伝ってくれる要因の一つはそこです。
 良い人材が育っているんですよ。この街は!!」

 唸る3人を他所にイオリの演説は止まらない。

「人材育成が行われれば、どうなります?
 美味しいレストランが軒並みできるし、良い職人が集まれば?
 他所の街から観光などで人が集まりますよ!
 それぞれの商会が底上げされるという事です。
 一つ一つの商会が争ってる場合ではありませんよ?街をあげて、成長するべき時です。
 商人ギルドの存在意義が発揮される時じゃないですか!!」

「「「なるほど・・・。」」」

 イオリの熱弁に翻弄されている商人ギルドの3人をアーベル・バートそして壁に立っていたハンス・ヒューゴ・ブルーノはニヤニヤしながら見ていた。

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