拾ったものは大切にしましょう～子狼に気に入られた男の転移物語～

帰還

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　岩壁が消えた深い茂みの奥にキラキラと光る泉が現れた。
　円形の泉の真ん中に小さな島があり、その中に穴の開いた岩があった。

「ここは・・・。」

　開いた口が閉まらないヒューゴは胸に抱いたニナを下ろした。

「わー！泉だ！！イオリとここにいたんだよ。」

　スコルは嬉しそうにイオリとゼンの元へ行った。

「行こ！ナギ！」

　パティはナギの手を取るとスコルの後を追うようにイオリの元へ走った。
　ヒューゴとニナも追随するとイオリがニコニコと辺りを見回していた。

「綺麗な場所だな・・・。
　ここがお前とゼンが暮らしていた泉なのか？向こうへはどう行く？
　まさか、毎回泳ぐわけじゃないだろ？」

「はい。向こうへ行く手段があるんです。」

　イオリが泉に手をやると水が割れ、人が2人通れるほどの道ができた。

！！！！！！！

「まさか！」

　ヒューゴの驚きの表情に微笑むとイオリとゼン、そして双子はスタスタと出来立ての道を歩いて行った。

「「ほら！早くー！！」」

　振り向きながら笑う双子の手招きに誘われるようにヒューゴはナギとニナを連れてついて行った。
　途中ナギは水に触れると水しぶきを上げるのに驚き直ぐに引っ込めた。

　渡り終わったヒューゴ達を待つ様に泉は元の姿に戻っていった。

「って、事です。」

「どーゆう事だよ！？」

　イオリは苦笑するとスタスタと岩の階段を登り始めた。

「いやー。俺も説明がつかないんですよ。
　初めは俺たちも驚いたんですよ。何も分らない所に連れてこられて、何も分らないまま生活を始めました。
　この泉には何もかも救われたんです。

　どんな魔獣でも、泉のこちら側には来ないんです。
　空飛ぶ魔獣でも・・・。
　だから、この島は安全なんです。」

　そう言うと、イオリは蓋をしていた洞穴の蓋をとった。
　中は変わらずに空洞で、置いていった荷物達が並べてあった。

「ここに居たんです。ははは、少し前なだけなのに懐かしい。
　ね。ゼン。」

『うん！ずっとここにいたんだ。クロムスとヴァルト達が最初のお客さんで、次がスコルとパティだよ。』

　ゼンの言葉に双子は照れたように頷いた。
　ヒューゴは5年前、青年ではなく少年だったイオリがここで生活をしていた。
　その事実に驚愕した。

　Aランクの自分でさえも1人で戦うのに苦しい魔獣達相手に、生きる為に戦いに身を投じた男が目の前にいるのだ。
　そんな思いに蓋をしてヒューゴは呆れた様に言った。　

「まぁ、お前の世間知らずはしょうがないから諦めるわ！」

　イオリは拗ねた様に頬を膨らませながら腰バックからテントを出した。

「俺は並な男ですよ。さぁ、暗くなる前にテントを貼りましょう。
　今回は下で貼りますんでお願いします！」

　テントを渡したイオリは設置を皆んなに任せ、1人洞穴の中の荷物達の確認をした。
　お皿に使っていた木の実に手作りの箸とスプーン。そして小さい服を見つけ苦笑した。


「お前が着てたのか？小さいな。」

　ふと、影ができたと思ったらヒューゴが入って来た。

「ふふふ。本当ですね。一番最初に着ていた服です。
　皆んなをここに連れて来れて嬉しいです。」

「テント張り終わったぜ。
　お前をここにやった人って・・・。」

「優しい方ですよ。ゼンとの巡り合わせに感謝してます。」

　イオリの目を見てヒューゴはそれ以上聞いても意味がないと悟ると手をお腹に当てた。

「腹減ったな。ここでも、うまいもんが食えるんだろ？」

「魔獣は沢山獲りましたからね。そのほかにも、野菜や山菜。
　ハーブとかも手に入ったんで早速作りますか！」

　そう言うとイオリは小さい服をそっと箱に閉まった。