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帰還

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『匂いが魔の森に近づいて来た!』

 ダグスクを出発してから5日目の昼の事だった。
 うたた寝をしていたゼンは立ち上がり嬉しそうに御者席から顔を出した。

「そうですよ。この谷を越えれば見えてくるはずです。」

 トゥーレは笑いながらゼンに指を刺して教えた。

『イオリ!着くって!』
 
 ゼンは荷台に座るイオリに抱きつくように覆いかぶさった。

「おいおいおい!大人しくしててくれ!
 思ってるより、この道は細いんだ!馬車ごと谷に落ちちまうぞ!」

 ヒューゴの悲鳴にゼンは「てへっ」というように首をすくめた。

『ごめんね。嬉しくってツイね。』

「なんか、本当に久々な気がするね。
 魔の森ついたら、好きに走っておいでよ。」

『良いの?!』

「気をつけてね。
 しばらくしたら帰って来て欲しい。馬車は使えないから、ゼンとアウラが頼りだよ。」

『うん!』

 ワシワシと毛を撫でてやるとゼンはとろーんとした目で横になった。




 無事に谷を抜けるといよいよ、魔の森の姿が見えて来た。

「アレが“明けない魔の森”かぁ・・・。初めて見た。」

「そうなんですか?綺麗な森ですよ。」

 微笑むイオリにフランとトゥーレは苦笑いした。

「いや、イオリの意見は聞いてはいけません。
 イオリはあの奥で育ったようなものだから、麻痺しているんです。」

「そうだぞ。
 魔の森なんて遊び半分で入るもんじゃないよ。俺たちにとっては恐怖の対象だ。
 魔物の住処だからな、冒険者達にとっては格好の仕事場だが奥に行けば行くほど強い魔獣が生息している。
 高ランク冒険者でも大怪我を負ってくる場所なんだ。舐めてかかった奴らが、どれほど犠牲になっているか。
 イオリは、その最深部を寝ぐらにしてたんだ。」

「グェ!!・・・・イオリ、お前・・・。」

 ドン引き状態のヒューゴにイオリは「アハハハ」と乾いた笑いを返した。

「だから、ヒューゴも気を引き締めるべきです。
 確かに美しい場所もありますが気を取られると後ろから魔獣にやられますよ。」

「イーオーリー!!
 トゥーレさんが怖い事言ってるぞ!」

 ヒューゴはトゥーレの助言に、目を見開いて振り向きながら叫んだ。

「大丈夫ですよ。大袈裟なんです。
 子供達だって歩いたんですから。」

 ニコニコするイオリの笑顔を見てからヒューゴはトゥーレとフランを見ると、2人は呆れた顔で首を横に振った。

「帰って来たら一杯やろう。話を聞くぞ。」

 フランはヒューゴの肩を優しくポンポンと叩いた。

「えぇぇぇぇ!!一緒に行きましょうよ!2人とも!」

 ヒューゴが縋るように騒ぐと2人はニヤニヤと首を横に振った。

「残念ですが、私達には公爵へダグスク侯爵から送られた書簡を渡す役目があります。」

「主人も報告を待っているしな。お前に会うのも楽しみにしていたから、無事に帰ってくるんだぞ。」

 追い討ちをかけるように双子がヒューゴに抱きついた。

「「怖いの?ヒューゴ。ねぇ、怖いの?」」

「怖くねーよ!あぁ!行ってやるよ!魔の森の最深部に!
 なぁ、ニナ!!」

 イオリの横にちょこんと座るニナは兄のヒューゴの言葉に親指を上げてニッコリ頷いた。

「あぁ・・・。俺の可愛い妹が主の思考に侵食されていく・・・。」

 肩を落とすヒューゴにナギが頭をヨシヨシとしていた。
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