拾ったものは大切にしましょう～子狼に気に入られた男の転移物語～

帰還

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　黒い馬が引く馬車の中、竪琴が心地よく響いていた。
　
「楽器が弾けるようなったのですか？素敵な音色ですね。」

「うん。アンティティラの露店さんで売っていたのをイオリが買ってくれたんだ。」

　トゥーレはナギが奏でるライアーの音に耳をすませた。

「真っ直ぐにポーレットに戻るのか？」

　反対側ではフランが御者席に座るヒューゴに話しかけた。

「んー、そうですね。イオリ！フランさんが、真っ直ぐポーレットへ向かうのかって！」

　ニナを膝の間に座らせてイオリは子供逹に《大きなカブをひっぱる、お爺さんとお婆さん》の話を聞かせているところだった。

「あぁ。
　その事なんですけど一度、魔の森の泉に里帰りしようと思ってます。
　双子は知ってるけど、ナギとかヒューゴさんは知らないんで行ってみようって事になったんです。」

「“明けない魔の森”の最深部へ行くのですか？！
　まぁ、イオリ達にしてみれば裏庭のようなものでしょうけど・・・。」

　流石のトゥーレは驚くように言った。

「それなら、魔の森はポーレットのすぐ近くだ。
　そこまで一緒に行こう。俺たちはポーレットに帰って報告しなきゃいけないから、魔の森まで一緒と言うわけにはいかないよ。」

　フランは笑うように言うとイオリは頷いた。

「1週間ほど遅れてポーレットに行きます。皆さんに、そうお伝え下さい。」

「あーあ。私達だけ先に帰ったらヴァルトが煩そうです。」

「ニコライ様もだ・・・。いや、御当主もソワソワするだろうな。」

　2人の反応にイオリは笑い、再び子供達に物語の続きを話した。







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　とある屋敷の執務室に男が2人が向かい合っていた。
　1人は確実にこの屋敷の主人であろうが、もう1人はマントに身を包み顔しか出していなかった。

「何！？ララノアからの連絡が途絶えた？」

「はい・・・。今、調べにやってるところです。
　しかし、あちらの方の貴族も連絡が取れないところをみると・・・捕まったかもしれません。」

「そうか。
　しかしアレには契約印を刻んである。何も聞き出せんであろうよ。」

「はい。しかし、次の手は如何いたしましょう？」

　1人は部屋を歩きながら考え事をしていた。

「もっとロザリンダ様をけしかけろ。」

「しかし、アースガイルの方は可のお方を嫌っておいでです。」

「既成事実があれば、なんとでもなろう。」

　マントの男はニヤリと笑うと頭を下げて部屋を出て行こうとしたが、主人の方が呼び止めた。

「おい。ちょっと待て。
　アレが言っていた者の事だがな。」

「ララノアの言っていた？・・・冒険者のイオリという者でしょうか？」

「そうだ。毎回いいところで邪魔をしてくれる。
　小蝿がうるさいな。」

「お任せください。それもロザリンダ様を使いましょう。」

「あぁ、それが良い。」

「では・・・。」

　マントの男が部屋を出ると主人の男性は窓に近寄り雨が降っている外を見やった。

「国取りとは、なかなか面白いものだな。
　このヴァハマンに掛かれば、国境など意味がない・・・クククっ。」

　男の親指には矢印の紋章がついた金の指輪が収まっていた。

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　その頃イオリは・・・。

「雲行きが怪しくなってきましたね。
　早めにキャンプ地へ向かってテントを貼りましょうか。」

　天気の心配をしていた。