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初めての旅 〜ダグスク〜

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「朝もいいけど、夕方の海もいいねー。」

 イオリ達は最後に高台の教会までやって来た。

「キラキラの色が違うね。」

 ナギはニコニコと指をさして真っ赤な海に見惚れていた。

「はーなーせー!!お前ら2人とかキツいんだよ!」

 ニナを胸に抱いたヒューゴが両足に双子を巻きつけて最後の坂を登ってきた。
 「キャハハ」と笑って離れた双子にニナを預けるとヒューゴはゴロンと横になった。

「おや?賑やかだと思えば貴方達でしたか、今日もお祈りに?」

 神父のべアンハートが扉から顔を出していた。

「どうも。
 明日、街を立つことになったのでリュオン様に旅の安全を祈願してたくて来ました。」

「そうですか。そうですか。どうぞ、お入りください。」

 中に入るとニコニコしたシスター・ヒナコが祭壇まで案内してくれた。

「どうぞ。」

「ありがとうございます。」

 いつもと同じイオリ達は祭壇で膝をつきヒューゴだけはベンチに座り目を閉じた。


________

『戻るのですね。』

「はい。この街では大事な事を教わりました。」

『それは良かった。
 沢山の事を知った今、どうするつもりですか?』

 虹色の髪を靡かせてリュオン様はイオリを見つめた。
 
「考えたんです。でも、結論なんて出なくて・・・
 だから俺は、十蔵さんと和馬さんが作ったこの国を楽しもうと思います。
 
 恐らく平和のバランスが崩れつつあるこの国には、これからもトラブルが起こるのでしょうね・・・。
 まぁ、その時は頑張ります。」

 それを聞いてリュオンは吹き出した。

『ブフォ・・・・・ククク。
 
 そうですね。
 相沢さんらしい答えです。
 
 ゼン、ソル・・・。
 貴方達も楽しみなさい。』

『うん!イオリと皆んなと一緒は楽しいよ。』

「ピチチ。」

 リュオンはソルを撫でながら囁いた。

「大丈夫。
 もう貴方の力は安定している。
 いつ力を解放しても良いのですよ。」

 リュオンの言葉を聞いたソルはフルフルと震えると金色の光と共に大きく変化してイオリの頭の上を旋回した。

『フェニックスは成長過程で暴走しないように力を抑えるのです。
 しかし、ソルは相沢さん達との旅で経験を積む事で自分の力をコントロール出来るようになりました。

 今まで以上に相沢さんの力になってくれるでしょう。

 魔獣などと違い、従魔になる生き物達は感情が豊かなものが多いのです。
 それを勘違いして、支配しようとする者もいます。

 相沢さんなら、ゼンとソルと共に良き関係が育む事が出来ると信じています。』

 綺麗な成獣としての姿になりイオリの肩に止まるソルと大きな体に姿を戻したゼンがイオリを囲む。

 リュオンはその姿に嬉しそうに頷いた。

『人の悪意に触れても変わらない貴方の心に安心しました。
 十蔵の分などと思わなくて良いのです。
 相沢さんは相沢さんの人生を楽しんで下さい。』

 薄らいでいくリュオンの姿にイオリは頭を下げた。
__________

 瞳を開くといつものゼンと小鳥のソルがイオリを覗き込んでいた。

 イオリが2匹を撫でてやるとゼンがソルとスンスン会話をしている。

《ほら、大丈夫。お話してごらんよ。》

《ソル・・・イオリ、スキ。》

「わぁ!ソル・・・。俺もソルが好きだよ。」

 イメージで感情を伝えてくるのではなくて、完全に会話できることにイオリは感動した。
 ソルも嬉しいのかゼンの頭からイオリの肩に止まって頭をくっつけて来た。

「ふふふ。大きくなれ、ソル。」

《ソル。
 イオリのゴハン、スキ》

《僕もー!今日は何食べる??》

「今日はソルとお話できた記念だから、君たちが食べたいので良いよ。」

《ソル。カラアゲ イイな。》

 イオリは小鳥姿のソルに唐揚げを所望されて複雑な気分になったが今日は唐揚げにしようと決めた。

《唐揚げ好き!僕はね・・・。
 おにぎりとお味噌汁!》

「いいねー。それに卵焼きも付けよう。」


 イオリがサッと立ち上がると子供達と目が合った。

「イオリはソルちゃんとお話してたの?」

 ナギが不思議そうな顔をした。

「うん。ソルともお話できるようになったよ。
 ナギは声が聞こえる?」

「・・・うーん。ダメみたい。
 ぼくもソルちゃんとお話してみたいな。」

 眉を下げるナギの頭にソルが飛び移ってしばらくすると、ナギがハッ!と顔を上げた。

「今日のご飯は唐揚げとおにぎりとお味噌汁に卵焼きだって!!
 ソルちゃんとお話できたー!!」

 ナギの興奮が伝わったのか双子もニナも自分も自分もとソルに強請っていた。

「唐揚げって・・・。
 アイツ、一応鳥じゃないのか?」

 なんとも言えない顔で近づいて来たヒューゴにイオリは苦笑した。

「俺もそう思ったんですけど、彼らが良いなら今日はそうしようと思います。」

「そうか・・・。ソルと話せたか。」

 微笑むヒューゴの元にパタパタとソルが飛び乗ってきた。

「おぉ・・・。本当に聞こえた。
 ソル、足を・・・足だけじゃなくて体の傷を治してくれて有難う。
 感謝してる。」

『イイよ。
 ヒューゴもキモチイイ心を持ってるから、力を流すのが楽だったヨ。』

 ソルの言葉に照れたようにヒューゴはソルの頭を指で掻いた。


「あのー・・・。」

 自分達だけじゃなかった事を思い出してイオリはハッとした。

「すみません。突然、従魔とコンタクト取れるようになったので嬉しくって。」

「いいえ・・・それは良かったです。
 その小鳥さんの事ですね?」

 シスター・ヒナコは戸惑うように言うとソルを見つめた。

「はい。縁があって授かりまして・・・。」

「そうですか、とても綺麗な小鳥さんですね。」

 そう話しながら教会の外に出た。
 まだまだ、夕日が綺麗な海をイオリは指さすとソルに言った。

「ソルレカランテ。君の名前は“夕陽”って意味だよ。
 この美しい景色が夕陽だよ。」

 ソルはジーと海に沈みかける暖かい太陽を見つめた。

『イイね。ソル。名前スキ』

「ふふふ。ありがとう。」

 イオリ達は陽が沈み終わるまでグダスクの海を見つめていた。





「貴方、イオリさん達って・・・。」

 シスター・ヒナコはイオリ達か坂を降りていく背を見ながら呟いた。

「不思議な方だったね。」

「えぇ・・・。でも、もしかして・・・。」

「やめよう。
 あの人がどんな人であろうと、良いじゃないか。
 また、お会いできる時があればいいな。」

「・・・そうね。
 今度はいつ来られるかしら・・・。」

 神父とシスターの夫婦は微笑むと教会の扉を静かに閉めた。
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