184 / 472
初めての旅 〜ダグスク〜
256
しおりを挟む
リルラの心を溶かしたイオリは後をレイナード達、騎士団に任せ牢を出て行こうとした。
「あの人は!」
リルラはしがみつく様に鉄格子を持つとイオリに言った。
「あの人は貴方の事を知っているわ。
私が話したから・・・ごめんなさい。」
イオリは鉄格子に近づくとニッコリと笑った。
「教えてくれてありがとうございます。
体の傷達が治ったとはいえ、回復に結構な体力を使います。
癒してください。」
そう言うとイオリは腰バックからポーションを出して渡した。
「ありがとう。・・・・何もかも有り難う。そして、ごめんなさい。」
最後にニコと笑うとイオリはゼンを連れて地下の牢屋部屋から出て行った。
部屋の外で待っていたヒューゴはイオリの視線を受けてリルラにかけたシールドを解いた。
階段下に待機していたレイナードとオーウェンはイオリと共に階段を上った。
「これがミズガルドの貴族のやり方ですか・・・。
彼女は裁かれるのでしょうか。」
地上の空気を吸ったオーウェンが星空に向かって呟いた。
「主・・・恐らく、人も殺めています。何も裁きがないわけにはいかないでしょう。」
「それでも!彼女は奴隷だったんだ!主人の言う事を聞かなければ生きていけなかったんだ・・・。」
苦渋の顔を隠そうとしないオーウェンに何も言う事の出来なくなったレイナードは一緒になって苦悶の顔をした。
「それなら・・・。」
そんな2人に声をかけたのはヒューゴだった。
「それならどうするって言うんです?
今の貴方に全てを変えるなんて出来ないですよ。自分の街の貴族すら掌握できてない若造侯爵!
そんな貴方に彼女の何を救えたって言うんです?」
確実に侮辱罪で捕まってしまうヒューゴの言葉にレイナードを含め騎士団ですら何も言えなかった。
「彼女が哀れだと言うのだったら!貴方は貴方のすべき事をするべきだ!
彼女の二の舞を繰り返さない為に!!
それが、どんなに大変な道のりか!でも、やり遂げて欲しい・・・。」
ヒューゴはガバッと頭を下げると立ち去った。
「彼女は王都へ?」
イオリはレイナードに聞いた。
「そうなりますね。違法魔道具でクラーケンを発生させたと証言も取れました。
ミケルセン伯爵や他の貴族達と共に送る予定です。」
「今なら彼女は知っている事を話してくれるのではないでしょうか?」
「王都へ伝えましょう。彼女の情報は大切ですから。」
イオリは肩を落とすオーウェンに近寄り背中を叩いた。
「オーウェンさん。ヒューゴさんはこの街で奴隷を無くしてくれって言ってるんです。
まず、そこから始めましょう。
どんな賢王だって、最初の一歩があったはずです。
この街は初代アースガイルが誓った場所なのでしょう?
貴方にだって最初の一歩があって良いんですよ。」
「・・・はい。やり遂げてみせます。」
イオリはニコッとすると一礼してヒューゴを追いかけて行った。
_____________
数年経った夜の出来事・・・
レイナードは妻のソフィアンヌと盟友ブルックとその妻ビルデ、そして侯爵家執事であるカールと共に酒を酌み交わしていた。
「あの時ヒューゴ殿に言われた事は主だけでなく俺にも刺さったな・・・。
甘い顔をしていたつもりはなかったが主人が可愛そうな子だと何処か思っていたのかも知れない。
オーウェン様はアースガイル王からこの街の守護を任せられた領主だった。
1人の男として成長なされたのはあの日の夜だったのかもしれない。」
カールも頷くと出されたつまみを片手にグラスを傾けた。
「はい。帰ってこられてから人が変わった様に頼もしくなられました。
私たちは素直で優しい主人が好きでしたが、それだけではいけなかったのでしょう。」
「ヒューゴか・・・。あの子の元の名前知ってる?ヒューゴ・コリンズ・・・。
元貴族の息子なのよ。親の不祥事で追った借金のカタに妹が売られてね。あの小さなニナ嬢よ。
あの子を守る為に自分も奴隷に身を落としたの・・・。」
「そうなの??あんな小さい子を・・・。」
ソフィアンヌの言葉にビルデは驚いて顔を顰めた。
「イオリに買われてコリンズの名を捨てたんですって・・・。
イオリも不思議な子だったけど、ヒューゴは貴族としても市民としても奴隷としても世界を見た。
だから言えた言葉なんじゃないかしら?」
「なんだ、お前?自分が言うべきだったとか悩んでんのか?
アホか!逆だろうよ。
お前らの代わりにアイツが言ってくれたんだ!
《本来なら、不敬罪ってやつなんですかー?》ってイオリは言ってたけどな。
お前らの尻を蹴ったと思えばダグスクの市民としては有り難い事だよ。
あの時のこの街の貴族って奴らは酷かったからな。」
ブルックはレイナードの背をバシバシと叩いて言った。
「痛いな!そんなんじゃないさ!
言葉が刺さったって話だよ!クソっ。」
レイナードは盟友相手に顔を歪めた。
「皆さん、今はどちらにいらっしゃるんでしょうね。」
カールの言葉に微笑んだ面々はそれぞれイオリ達一行の無事を祈っていた。
「あの人は!」
リルラはしがみつく様に鉄格子を持つとイオリに言った。
「あの人は貴方の事を知っているわ。
私が話したから・・・ごめんなさい。」
イオリは鉄格子に近づくとニッコリと笑った。
「教えてくれてありがとうございます。
体の傷達が治ったとはいえ、回復に結構な体力を使います。
癒してください。」
そう言うとイオリは腰バックからポーションを出して渡した。
「ありがとう。・・・・何もかも有り難う。そして、ごめんなさい。」
最後にニコと笑うとイオリはゼンを連れて地下の牢屋部屋から出て行った。
部屋の外で待っていたヒューゴはイオリの視線を受けてリルラにかけたシールドを解いた。
階段下に待機していたレイナードとオーウェンはイオリと共に階段を上った。
「これがミズガルドの貴族のやり方ですか・・・。
彼女は裁かれるのでしょうか。」
地上の空気を吸ったオーウェンが星空に向かって呟いた。
「主・・・恐らく、人も殺めています。何も裁きがないわけにはいかないでしょう。」
「それでも!彼女は奴隷だったんだ!主人の言う事を聞かなければ生きていけなかったんだ・・・。」
苦渋の顔を隠そうとしないオーウェンに何も言う事の出来なくなったレイナードは一緒になって苦悶の顔をした。
「それなら・・・。」
そんな2人に声をかけたのはヒューゴだった。
「それならどうするって言うんです?
今の貴方に全てを変えるなんて出来ないですよ。自分の街の貴族すら掌握できてない若造侯爵!
そんな貴方に彼女の何を救えたって言うんです?」
確実に侮辱罪で捕まってしまうヒューゴの言葉にレイナードを含め騎士団ですら何も言えなかった。
「彼女が哀れだと言うのだったら!貴方は貴方のすべき事をするべきだ!
彼女の二の舞を繰り返さない為に!!
それが、どんなに大変な道のりか!でも、やり遂げて欲しい・・・。」
ヒューゴはガバッと頭を下げると立ち去った。
「彼女は王都へ?」
イオリはレイナードに聞いた。
「そうなりますね。違法魔道具でクラーケンを発生させたと証言も取れました。
ミケルセン伯爵や他の貴族達と共に送る予定です。」
「今なら彼女は知っている事を話してくれるのではないでしょうか?」
「王都へ伝えましょう。彼女の情報は大切ですから。」
イオリは肩を落とすオーウェンに近寄り背中を叩いた。
「オーウェンさん。ヒューゴさんはこの街で奴隷を無くしてくれって言ってるんです。
まず、そこから始めましょう。
どんな賢王だって、最初の一歩があったはずです。
この街は初代アースガイルが誓った場所なのでしょう?
貴方にだって最初の一歩があって良いんですよ。」
「・・・はい。やり遂げてみせます。」
イオリはニコッとすると一礼してヒューゴを追いかけて行った。
_____________
数年経った夜の出来事・・・
レイナードは妻のソフィアンヌと盟友ブルックとその妻ビルデ、そして侯爵家執事であるカールと共に酒を酌み交わしていた。
「あの時ヒューゴ殿に言われた事は主だけでなく俺にも刺さったな・・・。
甘い顔をしていたつもりはなかったが主人が可愛そうな子だと何処か思っていたのかも知れない。
オーウェン様はアースガイル王からこの街の守護を任せられた領主だった。
1人の男として成長なされたのはあの日の夜だったのかもしれない。」
カールも頷くと出されたつまみを片手にグラスを傾けた。
「はい。帰ってこられてから人が変わった様に頼もしくなられました。
私たちは素直で優しい主人が好きでしたが、それだけではいけなかったのでしょう。」
「ヒューゴか・・・。あの子の元の名前知ってる?ヒューゴ・コリンズ・・・。
元貴族の息子なのよ。親の不祥事で追った借金のカタに妹が売られてね。あの小さなニナ嬢よ。
あの子を守る為に自分も奴隷に身を落としたの・・・。」
「そうなの??あんな小さい子を・・・。」
ソフィアンヌの言葉にビルデは驚いて顔を顰めた。
「イオリに買われてコリンズの名を捨てたんですって・・・。
イオリも不思議な子だったけど、ヒューゴは貴族としても市民としても奴隷としても世界を見た。
だから言えた言葉なんじゃないかしら?」
「なんだ、お前?自分が言うべきだったとか悩んでんのか?
アホか!逆だろうよ。
お前らの代わりにアイツが言ってくれたんだ!
《本来なら、不敬罪ってやつなんですかー?》ってイオリは言ってたけどな。
お前らの尻を蹴ったと思えばダグスクの市民としては有り難い事だよ。
あの時のこの街の貴族って奴らは酷かったからな。」
ブルックはレイナードの背をバシバシと叩いて言った。
「痛いな!そんなんじゃないさ!
言葉が刺さったって話だよ!クソっ。」
レイナードは盟友相手に顔を歪めた。
「皆さん、今はどちらにいらっしゃるんでしょうね。」
カールの言葉に微笑んだ面々はそれぞれイオリ達一行の無事を祈っていた。
1,207
お気に入りに追加
18,142
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
全スキル自動攻撃【オートスキル】で無双 ~自動狩りで楽々レベルアップ~
桜井正宗
ファンタジー
おっさんに唯一与えられたもの――それは【オートスキル】。
とある女神様がくれた素敵なプレゼントだった。
しかし、あまりの面倒臭がりのおっさん。なにもやる気も出なかった。長い事放置して、半年後にやっとやる気が出た。とりあえず【オートスキル】を極めることにした。とはいえ、極めるもなにも【オートスキル】は自動で様々なスキルが発動するので、24時間勝手にモンスターを狩ってくれる。起きていようが眠っていようが、バリバリモンスターを狩れてしまえた。そんなチートも同然なスキルでモンスターを根こそぎ狩りまくっていれば……最強のステータスを手に入れてしまっていた。これは、そんな爆笑してしまう程の最強能力を手に入れたおっさんの冒険譚である――。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
YouTuber犬『みたらし』の日常
雪月風花
児童書・童話
オレの名前は『みたらし』。
二歳の柴犬だ。
飼い主のパパさんは、YouTubeで一発当てることを夢見て、先月仕事を辞めた。
まぁいい。
オレには関係ない。
エサさえ貰えればそれでいい。
これは、そんなオレの話だ。
本作は、他小説投稿サイト『小説家になろう』『カクヨム』さんでも投稿している、いわゆる多重投稿作品となっております。
無断転載作品ではありませんので、ご注意ください。
VRMMO【Original Skill Online】
LostAngel
ファンタジー
自分だけのスキルを自由に使える、新作VRMMO、【Original Skill Online】(OSO)をプレイする主人公、トーマとその周りの人物が織り成す、ちょっと過激だけど楽しい物語。 ※この作品は、小説家になろう様、Pixiv様にも投稿しています。
迷宮都市の錬金薬師 覚醒スキル【製薬】で今度こそ幸せに暮らします!
織部ソマリ
ファンタジー
【書籍化しました!】2巻 2024/6/19発売!書き下ろしいっぱいです!どうぞよろしくー!
◆魔法薬師店で下働きをしていたロイは、13歳の誕生日に『製薬スライム』だった前世を思い出し【製薬】スキルに目覚める。
ある日、ロイは『ハズレ迷宮』で不思議なスライムと出会う。そして成り行きで見つけた、前世を過ごした『塔』を探索することに。そこで見つけたのは錬金薬の研究工房跡。まともな調合器具さえ持っていないロイは、コッソリここを自分だけの工房にすることに!
◆いつか自分の工房とお店を持ちたいと願いつつ、スキルで様々なポーション薬を作っては素材採取をしに迷宮へ潜る日々。
相棒のスライムに訳ありハーフエルフの女の子、収集癖のあるケットシー、可愛がってくれる冒険者ギルド長、羊角のお姉さんにクセ者錬金術師……など。様々な人と関わり合いながら、ロイは徐々にスキルを進化させ、迷宮都市でポーションを作って楽しく暮らします!
*旧題:迷宮都市の見習い魔法薬師~前世が錬金古王国の製薬スライムだった僕は覚醒したスキル【製薬】でポーション作って今度こそ幸せに暮らします!~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。