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初めての旅 〜ダグスク〜

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 リルラの心を溶かしたイオリは後をレイナード達、騎士団に任せ牢を出て行こうとした。

「あの人は!」

 リルラはしがみつく様に鉄格子を持つとイオリに言った。

「あの人は貴方の事を知っているわ。
 私が話したから・・・ごめんなさい。」

 イオリは鉄格子に近づくとニッコリと笑った。

「教えてくれてありがとうございます。
 体の傷達が治ったとはいえ、回復に結構な体力を使います。
 癒してください。」

 そう言うとイオリは腰バックからポーションを出して渡した。

「ありがとう。・・・・何もかも有り難う。そして、ごめんなさい。」

 最後にニコと笑うとイオリはゼンを連れて地下の牢屋部屋から出て行った。
 
 部屋の外で待っていたヒューゴはイオリの視線を受けてリルラにかけたシールドを解いた。
 階段下に待機していたレイナードとオーウェンはイオリと共に階段を上った。

「これがミズガルドの貴族のやり方ですか・・・。
 彼女は裁かれるのでしょうか。」

 地上の空気を吸ったオーウェンが星空に向かって呟いた。

「主・・・恐らく、人も殺めています。何も裁きがないわけにはいかないでしょう。」

「それでも!彼女は奴隷だったんだ!主人の言う事を聞かなければ生きていけなかったんだ・・・。」

 苦渋の顔を隠そうとしないオーウェンに何も言う事の出来なくなったレイナードは一緒になって苦悶の顔をした。

「それなら・・・。」

 そんな2人に声をかけたのはヒューゴだった。

「それならどうするって言うんです?
 今の貴方に全てを変えるなんて出来ないですよ。自分の街の貴族すら掌握できてない若造侯爵!
 そんな貴方に彼女の何を救えたって言うんです?」

 確実に侮辱罪で捕まってしまうヒューゴの言葉にレイナードを含め騎士団ですら何も言えなかった。
 
「彼女が哀れだと言うのだったら!貴方は貴方のすべき事をするべきだ!
 彼女の二の舞を繰り返さない為に!!
 それが、どんなに大変な道のりか!でも、やり遂げて欲しい・・・。」

 ヒューゴはガバッと頭を下げると立ち去った。

「彼女は王都へ?」

 イオリはレイナードに聞いた。

「そうなりますね。違法魔道具でクラーケンを発生させたと証言も取れました。
 ミケルセン伯爵や他の貴族達と共に送る予定です。」

「今なら彼女は知っている事を話してくれるのではないでしょうか?」

「王都へ伝えましょう。彼女の情報は大切ですから。」

 イオリは肩を落とすオーウェンに近寄り背中を叩いた。

「オーウェンさん。ヒューゴさんはこの街で奴隷を無くしてくれって言ってるんです。
 まず、そこから始めましょう。
 どんな賢王だって、最初の一歩があったはずです。
 この街は初代アースガイルが誓った場所なのでしょう?
 貴方にだって最初の一歩があって良いんですよ。」

「・・・はい。やり遂げてみせます。」

 イオリはニコッとすると一礼してヒューゴを追いかけて行った。



_____________

 数年経った夜の出来事・・・

 レイナードは妻のソフィアンヌと盟友ブルックとその妻ビルデ、そして侯爵家執事であるカールと共に酒を酌み交わしていた。

「あの時ヒューゴ殿に言われた事は主だけでなく俺にも刺さったな・・・。
 甘い顔をしていたつもりはなかったが主人が可愛そうな子だと何処か思っていたのかも知れない。
 オーウェン様はアースガイル王からこの街の守護を任せられた領主だった。
 1人の男として成長なされたのはあの日の夜だったのかもしれない。」

 カールも頷くと出されたつまみを片手にグラスを傾けた。

「はい。帰ってこられてから人が変わった様に頼もしくなられました。
 私たちは素直で優しい主人が好きでしたが、それだけではいけなかったのでしょう。」

「ヒューゴか・・・。あの子の元の名前知ってる?ヒューゴ・コリンズ・・・。
 元貴族の息子なのよ。親の不祥事で追った借金のカタに妹が売られてね。あの小さなニナ嬢よ。
 あの子を守る為に自分も奴隷に身を落としたの・・・。」

「そうなの??あんな小さい子を・・・。」

 ソフィアンヌの言葉にビルデは驚いて顔を顰めた。

「イオリに買われてコリンズの名を捨てたんですって・・・。
 イオリも不思議な子だったけど、ヒューゴは貴族としても市民としても奴隷としても世界を見た。
 だから言えた言葉なんじゃないかしら?」

「なんだ、お前?自分が言うべきだったとか悩んでんのか?
 アホか!逆だろうよ。
 お前らの代わりにアイツが言ってくれたんだ!
 《本来なら、不敬罪ってやつなんですかー?》ってイオリは言ってたけどな。

 お前らの尻を蹴ったと思えばダグスクの市民としては有り難い事だよ。
 あの時のこの街の貴族って奴らは酷かったからな。」

 ブルックはレイナードの背をバシバシと叩いて言った。

「痛いな!そんなんじゃないさ!
 言葉が刺さったって話だよ!クソっ。」

 レイナードは盟友相手に顔を歪めた。

「皆さん、今はどちらにいらっしゃるんでしょうね。」

 カールの言葉に微笑んだ面々はそれぞれイオリ達一行の無事を祈っていた。
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