上 下
177 / 473
初めての旅 〜ダグスク〜

249

しおりを挟む
 街あげての騒動の後、3人のかつてのパーティーメンバーが話し合っていた。

 見たものを報告するブルックを前にソファーに座るのは、腕を組み難しい顔をしているレイナードと呆れたように脱力しているソフィアンヌだった。

「それじゃ、本当にイオリ1人でクラーケンを倒してしまったと言うのね?」

「あぁ、俺だけじゃない。
 あの場にいた連中は全員見ていた。
 神業かと思ったよ・・・。
 アイツが良い奴で良かったよ。
 じゃなければ、化け物と思ってたろうよ。」

「そう・・・。
 Sランクは伊達じゃないわね。」

「それは違う。
 俺が今まで出会ってきたSランクの中でも別格だよ。
 それに、一緒にいるヒューゴ。
 アイツだって大したもんだ。
 数人のスキル持ちに力を貸してもらったとはいえ、港を分厚いシールドで囲っちまった。
 クラーケンを倒したと言っても、倒れた衝撃で津波並みの強い波が出来たんだ。
 放っておいたら、少なくとも下町は被害が出ていたはずだぜ。

 ビルデが助けられたとすれば、アイツらは俺の恩人でもある。」

 ブルックの言葉にソフィアンヌは頷くと夫であるレイナードを見上げた。
 黙って聞いていたレイナードは2人に話し始めた。

「双子を襲った男達は俺たちが預かる。
 恐らく、イオリ殿達が言っていた通りだろう。
 朝一番で執事のカールから、イオリ殿達が監視されてるようだと報告があった。
 貴族の仕業としたら、主人の仕事になる。
 この街でポーレット公爵家専属冒険者を傷つければどうなるか・・・。

 頭が痛い話だ。」

 諫めるようにレイナードの腕を摩るとソフィアンヌは眉間にシワを寄せた。

「冒険者達が貴族の仕事をボイコットし始めているから、街のゴロツキを雇ったのね。
 私達に改めて喧嘩を売って来たようね。
 Aランク冒険者の誘拐?やってくれるわ。
 それで?こんな危機的状況下で気の抜けた挨拶をしてくれた坊や達はどうしたの?」

 今回の功労者達にもギルドから話を聞かなければいけないし、報酬だって払わなければいけない。

「ククク。腹が減ったとビルデの店に行ってる。
 食べ終わったら顔を出すそうだ。」

「ハァー。本当に変わった子ね。
 まぁ、良いわ。
 とりあえず、ここからは大人の仕事って事でしょう?」

 3人は顔を合わすと自分達の仕事に戻っていった。







「「美味しい!!」」

 双子の声が“珊瑚の小箱”に響き渡った。

「フフフ。ありがとう。
 沢山食べてね。」

 店主のビルデはとても小柄な女性だった。
 1人で切り盛りをしている小さな店は居心地が良かった。

「主人に聞いたわ。クラーケンを倒してくれたって。
 今日は主人の奢りよ。好きなだけ食べて行ってね。」

「そんな!悪いですよ!
 お金はギルドから貰うから良いんですよ。」

 ビルデは微笑むと首を横に振った。

「男が言った事だもの取り消せないわ。
 主人を男のままにしてやって?
 あの髭面が女の子になったら目も当てられないわ。」

 想像して子供達はゲラゲラと笑った。

「アハハ。それじゃ、お言葉に甘えます。
 ありがとうございます。」

 イオリが食べているのはフワフワの卵の下に沢山の海鮮具材が入っている料理だった。

 小麦粉を練った物を小さく摘んだ、お米の様なパスタの様な物に混ぜられている。
 一見オムライスの様だった。 

「暖かいスープもあるわ。
 貝のスープよ。」

 半透明のスープは磯の香りと塩味がマッチしていて美味しかった。

 お腹一杯になったイオリ達はビルデにお礼を言った。

「とても美味しかったです。ごちそうさまでした。」

「「「「ごちそうさまでした。」」」」

「フフフ。良かったわ。
 これからギルドへ行くのよね?頼まれてくれる?
 どうせ食べてないのよ。あの人達。」

 そう言うと箱を渡された。中には小麦粉に野菜や海鮮を混ぜ焼いた、お好み焼きの様な物が大量に入っていた。

「足りるか分からないけど、受付の子とかにもあげてね。
 ソフィにもちゃんと食べさせてね。
 あの子、忙しいと食べなくなっちゃうから。」

 イオリは微笑むと頷いた。

「朝食代がわりに依頼受けました。
 それじゃ!」

「「バイバイ。」」

 手を振る子供達を見送るビルデはいつまでも微笑んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。