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初めての旅 〜ダグスク〜

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「お疲れのところ悪いが、先程の塩について聞きたい。
 この街にとっては最重要な事ですから。」

 オーウェンの真剣な声にイオリは寝そべった体を起こし立ち上がり手招きをした。

「俺には分からない。
 何で岩塩に固執してたのか・・・。
 この街には大量の塩の資源があるのに。」

「この街に塩がある?」

「はい。アレです。」

 イオリが指を刺すのは海だった。
 キラキラと光る海をバックに両手を広げてイオリは言った。

「海から塩を抽出すれば良いんです。
 こんなに大量に自然の恵みがあるんですから!!」

「ちょ・・・ちょっと待ってください!
 確かに海はしょっぱいですけど、そんな事が可能なのですか?」

「勿論ですよ?
 しょっぱいって事は塩分が含まれてるって事ですよ。
 十分に利用価値があります。
 むしろ、岩塩などより簡単に手に入るんですからダグスクが輸出すれば街の財産になります。」

 ボー然と聞くオーウェンとレイナードに加えヒューゴも驚いていた。

「確かに、街の市民の中には調理に海水を使う事もあるようですが塩が手に入らないからと認識してました。
 イオリさんは、その・・・塩を抽出する方法を知っているんですか?」

「まぁ、原理は知ってます。
 試してみましょう。」

 イオリはオーウェンを通じ使用人さんに海水を桶で持ってきてもらう様に頼んだ。

 待っている間に、許可された場所に焚火を作り竈門を作った。
 大量の薪や藁を用意していると海水が届いた。
 オーウェンが用意させた鍋に海水を入れて竈門に置き、薪を火にくべていく。

「全ての水分が蒸発するまで火にかけていきます。
 物凄い熱い作業です。
 熱中症にならない様に水分をしっかり取りましょう。」

 そう言いながら沸騰する海水をヘラでかき混ぜていく。

「かき混ぜないと焦げつきますからね。」

 汗をダラダラとかきながらヘラを動かすイオリにオーウェンが近づいた。

「変わろう・・・。混ぜれば良いんですね?」

 ニヤリとしたイオリは頷いた。
 慌てて変わろうとしたレイナードをヒューゴがとめた。

「貴族なら、市民がやる事を知る事も重要です。
 やらせてみれば良い。見守りましょう。」

 レイナードは小さく頷きヒューゴと共に見守った。

 いつのまにか起きたパティとニナを連れてスコルとナギもやってきた。
 その後ろにはゼンを始めとする従魔たちも勢揃いだ。

「何、作ってるの?」

「塩だ。」

「「「塩?」」」

「イオリが海の水から塩が出来るっていうんで試してる。」

「「面白そう!!」」

 ヒューゴの説明に双子が反応した。

「ちょっと待ってろ。
 今はオーウェン様の番だ。
 ご自分で体験してらっしゃるからな。」

 子供達はニッコリと頷いた。

 汗をダラダラと流すオーウェンは市民達がこれからやるであろう地道な努力を感じながら鍋をかき混ぜでいった。

「どうです?さっきより重いでしょう?
 商品にするには、もっと大きな鍋で大量に作る必要があります。
 最後なんて腕がパンパンになるでしょうね。

 確かに岩塩は重要です。
 でも、この街には海がある。
 しかも岩塩と違って無限です。
 魚や海藻などの栄養を含んで美味しい塩になると予想してるんです。」

「今は少量なのに大変な作業です。
 これを市民がやってくれるだろうか・・・。」

 オーウェンの言葉にイオリは考えた。

「うーん。
 それなら、ポーレット方式はどうでしょう?」

「ポーレット方式?何です?」

「ポーレットには奴隷がいません。
 いたとしても、高待遇の使用人でしょう。
 他の奴隷達はポーレット公爵が賃金を払い雇っているからです。」

「雇っている?それは・・・。」

「公共事業ですね。
 ポーレットでは魔の森がありますから、それに備え畑があります。
 その畑を奴隷達が守っているんです。
 仕事に見合った賃金を払い、ある程度の自由も与えられています。

 迫害されないとはいえ奴隷は自由は奪われます。
 しかし、ポーレット公爵は奴隷に人として生きる力を持たせているんです。」

「・・・なんて事だ。素晴らしい。
 ポーレットが優れた街だという事は分かっていましたが、実際に話を聞くと素晴らしさがより伝わりますね。」

 オーウェンは見ぬポーレットの街に想いを馳せた。

「この街で同じ事が出来るのではないですか?」

「塩の精製を奴隷達にやってもらい、賃金を与える。
 塩は街で安価で利用でき市民も喜ぶ・・・。
 イオリさん。貴方は何て人だ・・・。」

 感動したのかオーウェンは手を止めた。

「オーウェン様、危ないです。
 今度は私が変わりましょう。」

 レイナードが鎧を脱ぎオーウェンからヘラを受け取り鍋を混ぜた。

「少しづつ、塩が出来始めましたね。
 まだまだです。」

 この日、ダグスクで一つの産業が誕生した。
 侯爵自ら体験した塩作りはダグスクの街だけにとどまらず、アースガイルに広がりを見せ言葉の通り塩は宝となった。
 ダグスクでは塩の精製に携わる者達への敬意を示すために彼等をこう呼んだ。

 塩の護り人ソルトガーディアンと・・・
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