上 下
146 / 472
初めての旅 〜ダグスク〜

218

しおりを挟む
「ソフィア・・・すまないな。
 Sランク冒険者に不名誉な事だ。」

「所詮、冒険者は荒くればかりイオリだって気にしてはいませんよ。
 問題はこの後です。
 イオリの名で悪事をする事こそ不名誉。
 それを早く片付けましょう。
 冒険者ギルドとしてはSランク冒険者に政治の面倒ごとを押し付けるのは本意じゃない。」

 オーウェンはソフィアンヌの言葉に気圧されながらも頷いた。

「初めに言っておきます。
 今回のイオリの旅は私的な旅でした。
 当然、旅先では何かしらに合うでしょう。
 それは、彼らも覚悟してきたはずです。
 しかし、アンティティラで依頼を受けた時点で我々の介入は必須になります。」

 ソフィアンヌは主導権を渡さないと矢継ぎ早に話す。

「それならば、イオリ殿の依頼を一度整理しよう。」

 オーウェンはソフィアンヌではなくイオリに言った。
 イオリは頷くとアンティティラでの山喰いの話と集落の話を聞かせた。

「集落を襲った犯人は拘束され、俺がアンティティラを出る時も尋問されていたようです。
 問題は犯人ロッタの共犯・・・。
 いや、ロッタを誘い込んだエルネという人がダグスクへ逃げたという事です。
 
 アンティティラ伯爵から俺への依頼はエルネの拘束です。」

 イオリが把握している事を話すとオーウェンとソフィアンヌは頷いた。

「私もアンティティラのギルドから同じように聞いています。
 そして、ポーレットのギルドからはイオリに一任すると連絡を受けています。
 するもしないも本人次第と。」

「私も、同じ様に言われている。
 だた、ポーレット公爵側は心配していた様だがな。」

 オーウェンの言葉にイオリは苦笑する。

「普通に心配して頂いてるのだと思いますが、恐らく今回が今までと違うからでしょうね。」

「違うとは?」

 オーウェンはイオリの言葉に首を傾げた。

「ターゲットがだという事です。
 俺は今まで魔獣しか狙ってきませんでしたから。」

「なるほど・・・。」

 オーウェンは深く頷いた。
 Sランクとはいえ若い、経験が薄いのがイオリの難点なのかもしれない。
 しかし、それを踏まえてもSランクを得ているイオリは攻撃力を評価されているのだと気づいてしまった。

「それについては私達も協力します。
 冒険者を支えるのもギルドの務めですからね。」

「お世話になります。
 では、こちらの事情を教えてもらえますか?」

 イオリに促されるままにオーウェンは話し始めた。

「ご覧の通り、私は若くして当主となり侯爵となりました。
 理由は父が2年前に亡くなったからです。」

_________

 オーウェンの父アンドレアス・ダグスク侯爵は大らかな優しい人だった。

 歴史ある港街であるダグスクを護り続ける一族として、誇りを一人息子のオーウェンにも教え込んだ。

 オーウェンの母が亡くなったのは彼が17歳の時、突然の死だった。
 打ちひしがれた侯爵は愛情を一人息子に向け、なお一層彼に教養を身につけさせた。

 そんな侯爵が体調を崩し早々とこの世をさったのが2年前。
 成人を迎えているとはいえ24歳の若輩侯爵への期待は大きく、とてつもなく重かった。

 それを支えてくれているのが、騎士団長のレイナードや執事のカールなどの家の者と冒険者ギルドのギルマス・ソフィアンヌを始めとした街の人達だった。

 ダグスク侯爵家を愛してやまない街の住人達は必死に働く若輩侯爵を暖かく見守った。

 そんな若輩者に群れる野獣共がいる。
 貴族達だ。
 彼らは我先にと自分の娘を送り込んだり、商売で侯爵家より優位に立とうとした。
 甘い汁や鋭い剣を向け若輩侯爵の心は疲弊してきた。

 それでも耐え2年かけて落ち着きを取り戻そうとしてきたというのに今回の話である。
_________

「なるほど・・・。
 オーウェンさん。疲れてるんですねー。」

「おい。そーじゃないだろ。」

 イオリの反応に思わずヒューゴは突っ込んでしまった。

「えっ?そういう事でしょ?
 休んだ方がいいですよ。

 って事でちゃっちゃと片付けましょう。
 俺も海産物とか見て歩きたいんですよね。」

 イオリの反応にヒューゴは頭を抱え、ソフィアンヌは笑いオーウェンは困惑しレイナードは目を丸くした。

「海産物・・・?」

「はい!俺達が住んでるポーレットでは手に入れるのが難しいです。
 それを楽しみにダグスクへ来ました。
 落ちつていて街を堪能する為には仕事を終わらせましょう。」

 ヒューゴに頭を小突かれ口を尖らすイオリを見てオーウェンは目を煌めかせた。
 
 彼なら・・・彼と一緒ならなんとかなるかもしれないと
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん
ファンタジー
⭐︎書籍化決定⭐︎  『拾ってたものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』  第2巻:2024年5月20日(月)に各書店に発送されます。  書籍化される[106話]まで引き下げレンタル版と差し替えさせて頂きます。  第1巻:2023年12月〜    改稿を入れて読みやすくなっております。  是非♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は小さな子狼に気に入られ、共に異世界に送られた。 絶対神リュオンが求めたのは2人で自由に生きる事。 前作でダークエルフの脅威に触れた世界は各地で起こっている不可解な事に憂慮し始めた。 そんな中、異世界にて様々な出会いをし家族を得たイオリはリュオンの願い通り自由に生きていく。 まだ、読んでらっしゃらない方は先に『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』をご覧下さい。 前作に続き、のんびりと投稿してまいります。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15にしています。 ※誤字脱字が存在する可能性か高いです。  苦笑いで許して下さい。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。