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初めての旅 〜アンティティラ〜

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 「最後に・・・」とキーリが取り出したのはイオリの腕輪だった。

「お前さんのは身体強化がついてるブラックダイアだ。
 この石は“成功・カリスマ・不屈の精神に物事を超越する者”を意味する。
 どうやら、石はお前さんを選んだらしい。
 
 この腕輪には、ダイヤも使っている。ダイヤには“永遠の絆”を意味する言葉がある。
 お前さんらにはピッタリだろ。」

 ウィンクするとキーリはゼンを見つめた。ゼンは嬉しそうにイオリが持つ腕輪を眺めた。

「ありがとうございます。」

 そう言うと、イオリもブラックダイヤの周りを8の小さなダイヤが散りばめられている腕輪を左腕に身につけた。

「気に入ってくれて良かった。カロンも喜ぶだろう。
 冒険者は命がけの仕事だ。石がお前さん達を守ってくれる事を祈っている。」

 イオリはキーリに握手をしてお礼を言った。





「そうだった。イオリ。
 木酢液の件だけど、チョット見てもらえるかい??」

 装飾品の話は終わったとばかりにアンナが自分の用をねじ込んできた。
 ミロの手によって運ばれて来た木桶の中には茶色い液体がたっぷりと入っていた。

「出来たんですね?これ、原液ですか?」

「そうだよ。」

「それなら、薄めて使ったらいいと思います。
 原液をまいたら、草木にも影響でますからね。」

 子供達は覗き込むと顔を顰めて鼻を押さえた。

「「うえー。臭ーい。」」

 イオリはその反応に笑った。

「まぁ、独特の匂いするよね。
 木から作られてるから、体には悪くないんだよ。
 むしろ、これから出た木タールの方が問題だよ。」

 ミロが資料の中から目的のものを探してアンナに渡しながら説明した。

「それについては、木材を扱う街への交渉が進んでいます。
 木の防腐にも使えると鑑定結果が出てましたので、雨地帯の建設や乾燥が重要な建物に使用されるとのことです。
 扱いに関しても、第2級取扱注意商品に認定されました。
 第3から使用に資格が要りますのすので安全にも考慮します。」

「燃えやすいので、乾燥しすぎも危ないですよ。
 木材は乾燥でも発火しますから。」

「そうなんですか?!注意事項に加えます。」

 ミロは大事なことを聞いたとメモを忘れずにした。

「うん。後はこちらで調整するよ。
 アンタの知識は偏ってるけど、今の私達には必要なのさ。」

 イオリはアンナにニッコリとした。

「《知識は先人達の経験と努力。
 人の為に正しく使い、伝えるのが現代を生きる者の責任。》

 なんか、こんな事を聞いた事があります。
 グラトニー商会なら、安心して任せられます。
 どうか、宜しくお願いします。」

 アンナの出した手をしっかりと握りイオリは頷いた。

「任せとくれ。
 アーベル・グラトニーの名に傷を付けるわけにはいかないんだ。
 それと、ジョゼさんが注文の魔道具を明後日には納品するって言ってたよ。」

「・・・。
 そうですか、では明後日の受け取りで次第旅に出ます。」

「そうかい。寂しくなるね。」

「俺、物作りって好きなんですよ。
 そのうち、また来ます。」

「それなら、また寄っておくれよ。
 ・・・。まだ、お別れじゃないんだ。
 せいぜい、2日アンティティラを楽しんでおくれ。」




 
 イオリ達がグラトニー商会を後にすると支部長の部屋でアンナとキーリを相手にミロが紅茶を淹れて休憩をしていた。

「随分と面白い客だったな。」

 キーリの言葉に2人も頷いた。

「まだ、若い青年かと思えば
 熟練の旅人かと間違える時もあります。
 支部長の仰った通り、寂しくなります。」

 ミロの言葉を聞きアンナは紅茶を啜った。

「あの子は自分が大物だって気付いてないんだ。
 冒険者としての武力じゃない。
 あの子の本当の武器は人間力だよ。
 この世界は何処か新しい風を欲してたのかもしれない。

 あの子の優しさ、誠実さを魅力と言うのなら
 利用しようとする輩が喰い摘もうとするだろう。
 
 危ういね。・・・危ういよ。

 知らずにドラゴンの尻尾を踏む連中が現れない事を祈るばかりさ。」





 アンナ達の心配を他所にイオリは現在、ヒューゴに怒られていた。

「はぁ?グラトニー商会の中にお前の考えを具体化する部署がある??
 何だそれは?
 お前、冒険者だろう?」

「そーなんですよ。俺、冒険者で食っていく事出来るんです。
 だから、アーベルさんが甥のバートさんに慈善事業の部署を任せたんですよ。
 
 俺の知ってる知識は一文にもなりませんよ。
 冒険者として頑張って稼ぎましょう。」

 唖然とするヒューゴにゼンが後から押す様に鼻を押しつけた。

『イオリはあんな感じだから、一々反応してたってしょうかないよ。
 楽しまなきゃ。』

 子供達に纏わり付かれて笑っているイオリの後姿にヒューゴは溜息を吐いた。

「俺は大変な奴を主人にもったらしい。
 なぁ、ニナ。」

 抱き上げられていたニナは微笑んでぬいぐるみリュックを指差した。

「そうだな・・・。
 まぁ、いっか!」

 一線を踏み越えられたヒューゴであった。



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