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初めての旅 〜アンティティラ〜

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 この日、イオリたちはアンナの呼び出しにより数日ぶりにグラトニー商会へと足を運んだ。

「おう!客人!!待たせたな。
 おいおい。離れろアンナ。」

「はーい。」

 今日も今日とて、目が点になるアンナの変貌ぶりに無言になり、イオリはミロと目を合わせれば手を鼻の前でブンブンと振り《早く座れ》とジェスチャーしてきた。

「こんにちわ、キーリさん。アンナさん。楽しみにしてました。」

 子供達は勝手知ってかソファーに座るがイオリと同じくアンナの変わり様に固まっているヒューゴは裾を引かれても気づかない。
 
「あんたも座りな。ここじゃ、気にしなくて良いからさ。」

 ハッ!っとしたヒューゴも慌てて空いてる席に座るとキーリは箱をイオリに差し出した。

「悪いな。カロイは別の仕事が立て込んでてな。今日は来れないから俺が説明しに来たぞ。」

「さぁさぁ、アンタ!見せととくれよ。」

 イオリ達の向かいのソファーでぴったりとくっつくとアンナはキーリに笑顔を向けた。
 ニカっと笑うとキーリは箱を開け一つ一つを取り出していくとミロが慌てて分厚いベロア生地を用意しテーブルに置いた。

「「「うわぁぁ。。」」」

 子供達が声を出して惚けるのも無理はない並べられたのは、それぞれにイメージされた腕輪だった。

「よし!1人1人説明するぞ。
 全員分が黒い革ベルトにしてある。
 カロイの魔法でお前らにピッタリに変化する様に細工されてるから子供達が成長しても心配ない。
 レッドスピネルとアクアマリンは身体強化の付与がされていた。これは双子だな。
 嬢ちゃんのレッドスピネルは“好奇心や探究心・挑戦する力”を高めてくれる。
 坊主のアクアマリンは“聡明と若きパワーを持つ勇気の象徴”だな。」

 パティは差し出された、赤い大きな石の周りに小さな石が花の様に飾られているベルトをニコニコと受け取った。
 スコルも綺麗な青い石を中心に水の流れの様な模様のベルトを手にした。

「「ありがとう。」」

「お前さん達は2人で一つ。相方の石をそれぞれ一つ付けている。より、協調性が生まれて力を発揮するだろう。」

 双子はお互いのを見比べて嬉しそうに左腕につけた。

「お前さんがエルフの坊やだな。
 お前さんのグリーンガーネットも身体強化の付与がされている。
 この石には“生命力と知性・自然のエネルギーを高める力”がある。
 重く無いはずだ。つけてごらん。」

 ナギは大きな緑の石の周りを蔦が伝う模様が描かれたベルトを手間取りながらも自分で付けてニッコリ頷いた。

「重くないよ。ありがとう。」

「そうか、良かった。で、お前さんだ。」

 キーリはヒューゴの前に大きな黄色い石のベルトをおいた。

「これはイエロークオーツという石だ。守護の力が付与されていた。シールド持ちのお前さんにピッタリだな。
 この石には“財運と悪い事を良い事に変える力”がある。お前さんを守ってくれるだろう。
 模様も太陽にした。陽はいつでも昇るからな。再生を意味する。
 これには奴隷の印が施されている。ホープのスティールさんにも了承済みだ。
 お前さんらが自由になった時に、この印は消える。」

 ヒューゴは黄色の大きな石を囲む様に模様された太陽のベルトを受け取り真剣な顔でイオリに頷いた。

「感謝する。」

「本当は奴隷の印なんて嫌だったけど、法律だっていうんで、イエロークオーツに刻んでもらいました。
 石の力も邪魔にはならないと思うんで、身に付けてください。」

 キーリはその話を聞き、イオリにピンクの石のついた腕輪を見せた。

「それなら、このピンククオーツはちびっ子姫さんのだと思うんだが
 これはどうするんだい?流石に小さい腕には合わんよな?これにも、奴隷印がついてるが・・・。」

 イオリはクスクス笑うと、腰バックから小さな白いフワフワしたものを出した。

「だからこんなの作ってみたんです。」

 それは紐がついた白い狼だった。

「これは・・・?」

 アンナが目をキラっとさせてイオリを見た。

「ぬいぐるみリュックっていって、子供用に持ち運び出来るようにしました。
 中古のマジックボックスで容量は多くないけど、普通に使うなら十分なポケットを縫い付けているんで便利だと思うんですよね。

 ニナに持たせるのに可愛いのが良いと思ってゼンをモチーフに作ってみました。目は黒いけど・・・。
 この子の首に腕輪ならぬ首輪として付けて、大きくなったら手首に巻ければと・・・。
 
 あれ?」

 自分の何気ないアイディアがこの世界ではとんでもない商品になる事に気づかないイオリは饒舌に説明するがヒューゴは勿論、グラトニーの面々はポケーっと見ていた。

「「可愛い!!」」
「ねー。」

 喜ぶ子供達の反応に安心して、イオリもニコニコしているとアンナがガバッと立ち上がりイオリに覆いかぶる様に襲いかかってきた。

「アンタ!!何でそういうの早く言わないの!!
 こんな・・・こんな・・・可愛いの!
 売れるじゃない・・・。がっぽりがっつりいけるじゃない!」

 いささか、豪商が言うには怖いセリフではあるがアンナは真剣に考え始め、ミロもイオリから受け取りマジマジと見ていた。

「代表。これはいけますよ。でも、イオリさんのお考えだから・・・。」

「チッ!ホワイトキャビンいきね。
 さっそくバートに連絡しましょう。
 そういえば、アンタ達の腰につけてるのも同じなの?」

 アンナは子供達の腰バックを指さした。

「うん。イオリが縫ってくれたの。
 バートも知ってるよ?」

 スコルの発言はアンナに火をつけたらしい。

「あの子、見逃したわね。再教育が必要ね・・・。」

 ポーレットで震えているバートの行く末を祈るしかないイオリはリュックをキーリに見せた。

「こんな感じで良いですかね?」

「うん。もうちょっと固定してきてやる
 チョット待ってろ。」

 受け取り、部屋を出ていくキーリを見送るとアンナは早速イオリに作り方や他にいい案があるかを脅し・・・聞いてきた。




「「「可愛い!!」」」

 数分すると戻って来たキーリの手によって完成したぬいぐるみリュックが帰って来た。
 ニナに背負わせてみると小さい狼がしがみついている様だった。
 お腹にポケットの形をしたマジックバックがついていて首にピンククオーツの首輪が巻かれていた。

 見ている者達の顔が綻んでいく。

「見事に作っちまったな。
 この石にも守護の付与がついていた。
 ピンククオーツは“美・愛情・優しさ”の石だ。ベルトのデザインも鳥の羽を意識している。
 姫さんにはピッタリだな。」

 初めて自分の物ができたニナは嬉しそうにヒューゴに見せに行った。

「ああ。良いの貰ったな。イオリにお礼を言っておいで。」

 頷いたニナは駆け寄るとイオリに抱きついた。

「ありがとうだって。
 ゼンちゃんとお揃い嬉しいって。」

 ナギがニナの言葉を伝えた。

「喜んでくれて良かった。
 コレは、荷物入れだけじゃない。
 ニナの事を守ってくれる大事な物だ。
 外に出る時は離さない様にね。」

 ゼンにもペロペロ舐められ嬉しそうなニナは何度も何度も頷いた。
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