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初めての旅 〜アンティティラ〜

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「・・・はい。これにて全ての契約を終え、私“ホープ”主人スティールはさんとさんをイオリさんへ譲渡いたします。」

 イオリはリュオンから貰った金貨のうち大金が減ったのを確認するとスティールへ頷いた。

「良き商売をさせて戴きました。ありがとうございます。
 どうぞ、2人の事をよろしくお願いします。」

「はい。スティールさん。お世話になりました。」

 イオリがスティールと握手をして立ち上がると扉が開きヒューゴとニナ、双子とナギが入ってきた。
 ヒューゴとニナはイオリがアンティティラで買った新しい洋服に着替え照れる様に立っていた。

「あぁ。よく似合ってますね。ニナはもっと可愛くなったね。」

 イオリが言うとニナはニッコリ頷いた。

「契約の印は、通常体の何処かに付けますがイオリさんのご要望につき代わりに
 ご用意された装飾品で登録という事でよろしいですね。」

 スティールの言葉にイオリは頷き、ヒューゴは驚いた顔をした。
 イオリはニコッとするとゼンを連れてさっさと扉に向かい子供達に声をかけた。

「それじゃ、行こうか。
 アンナさんへの報告とヒューゴさんには冒険者として登録をし直して貰わなきゃいけないからね。」

「「「はーい!」」」

 スティールに別れを告げて店を出るイオリ達を追う様にしてヒューゴはニナを抱き上げた。

「・・・旦那。世話になった。数々の好意に礼を言う。」

「商売ですよ。さぁ、新しい主人の元へ行きなさい。ニナも元気で。」

 スティールはニコとすると早々に2人を送り出した。

「今日は店じまいです。一杯やりますか・・・。」

 そう言うとスティールは店の看板を“close”にしてカーテンを閉めてしまった。



「・・・スーハー・・・。店の外の空気はいいな。ニナ。
 街の外はもっと空気が旨いぞ。」

 奴隷商“ホープ”から一歩出るとヒューゴは賑わうアンティティラの街を見つめていた。
 ツンツンとズボンを引っ張るのに気付き下を見るとエルフのナギが見上げていた。

「迷子にならない様に。」

 ヒューゴの手を握るナギにイオリとヒューゴは苦笑した。

「先ずは、アンナさんがいるグラトニー商会に行きましょう。」

 足を引きずるヒューゴを気にするでもなくゆっくりと歩くイオリは双子とニコニコ話しながらグラトニー商会へ向かった。



「!!無事に契約できたのかい!?」

 喜びの顔を隠そうとしないアンナにイオリはニッコリして頷いた。

「それで?コリンズ兄妹は??」

「連れてきましたよ。入ってもらっていいですか?」

 頷きながら自身の部屋のソファーへ移動したアンナは入ってきた男と小さな女の子を見て声を上げて喜んだ。

「あぁぁぁ。良かった。あんたがヒューゴで小さい姫がニナだね。
 私はアーベル・グラトニーが長女アンナだよ。
 よく来てくれたね。父様が喜ぶよ。ありがとうイオリ。」

 アンナの迫力に戸惑うニナと違う意味で戸惑っているヒューゴにイオリはクスクス笑いながらソファーを勧めた。

「本当にアーベル・グラトニーさんのお嬢さんですよ。アンティティラで暮らすうちに逞しくなったそうです。」

 イオリの解説にヒューゴは納得したのかガバっ!と頭を下げた。

「アーベルの大旦那の過分なご好意とお嬢様のご親切に感謝いたします。
 イオリ・・・主人に会えたのも、お2人のお陰と聞き及んでいます。
 すぐにお礼はできませんが、俺に出来る事があったら主人の許しを得た後に何でもやります。」

 アンナは微笑むと頭を下げるヒューゴの背中を摩った。

「いいんだよ。父様はアンタに笑って欲しかっただけ。
 私はそんな親を喜ばせたかっただけなのさ。
 お礼というなら、イオリの事を頼むよ。
 腕は良いし頭も良いが、常識が外れてる坊やなんだ。
 父が、相当気に入ってる。ポーレット公爵の専属でもあるんだ。
 アンタがいれば、どんな所でも大丈夫だろう?」

 ウィンクするアンナに意味がわからないイオリ達は首を傾げたがヒューゴは理解した様で深く頷いた。

「承知しました。
 イオリ・・・。何故、俺の名にコリンズの苗字があったと?」

「・・・?考えた事なかった。どうしてです?」

 ハァーと溜息を吐くアンナにヒューゴは苦笑をした。

「俺の父の名はイアン・コリンズ。
 アースガイルの北の地“ヒストン”の領地に名を並べる伯爵だった。
 貴族だったんだ。俺の愚父は・・・。」

「へー。領地に名を並べるって何ですか?」

 自身の出が貴族だったと言ったのにも関わらず気にするでもないイオリに驚き声を詰まらせるとヒューゴの代わりにアンナが説明してくれた。

「要は、領地持ちじゃない貴族って事だよ。ラモンなんかもそうだったろ?
 それでも市民・領民の為にあれってね。」

 なるほど・・・。と唸るイオリにヒューゴは戸惑う様に言った。

「良いのか?俺たちは貴族出身の奴隷として、普通の奴隷より卑しい存在だぞ?」

「???何でです?
 ヒューゴさんとニナの所為で奴隷に身を落とした訳でもないのに?
 ヒューゴさんは立派なお兄さんだと思いますよ。
 それに、コリンズの名を捨てたんですよね?だったら関係ないじゃないですか。」

 心底、不思議そうなイオリに隣に座る双子とナギのキョトンとした顔。

 ヒューゴは徐々に体を震わせた。
 そんなヒューゴに気づき同じくして体を震わせたアンナは大声で笑い出した。

「確かにそうだ。関係ない、関係ない。
 あはははははは。あー可笑しい。
 こんな痛快は返しはあったろうか。わかったろ?こんな子なんだイオリは。」

「・・・・ププ。はい。プ・・・。
 理解しました。俺は最高の人物に買われたらしい。」

 2人の笑いが収まらず、イオリは頬を膨らませそっぽを向いたが馬鹿にしてされてる訳ではないと気づいているゼンは微笑んでイオリに擦り寄った。




「・・・。そうだよ。凄い可笑しいんだって。
 ん?ニナも嬉しい?良かった。」

 1人ブツブツ呟くナギに気づきイオリは声をかけた。

「ニナ何だって?」

「ヒューゴが笑ってて嬉しいって。」
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