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初めての旅 〜アンティティラ〜

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 早朝、まだ外が白んでる時間帯

 バサッ!バサッ!

 大きな翼をはためかせグリフォンが大空からやってきた。
 太い脚から伸びる鋭い爪が朝日で光っていた。

 今日も同じくして畑に降り立とうとしていたグリフォンだったが、何故だか躊躇してしまう。
 畑の中央に1人の青年と1匹の白い狼が仁王立ちしていた。

 最初こそ戸惑うグリフォンだったが相手が格下と認識するや強気で威嚇をした。

「ブギャーー!!」

 それを聞いた白い狼は前に出てグリフォンを凌ぐ強さで威嚇し覇気を飛ばした。

「ガオォーーーーーン!!!」

 空気を揺らし、ビシビシと当てられる覇気にグリフィンは堪らず距離をとり飛ぶ事で辛うじて意識を保っていた。
 絶対的強者を前に動きが鈍くなったグリフォンは何かを探す様に首を動かした。




 地上ではイオリとゼンが何かを探すグリフォンに気づき、気配を追った。

『丘の木の陰だ!』

 ゼンの言う通り人の気配がするのを確認するとイオリは、合図を送った。
 双子とデュークがナギにより転移するのを見送るとスナイパーライフルを構えグリフィンへ撃ち込んだ。

 銃弾は真っ直ぐにグリフィンの額に打ち込まれ、声を上げながら落ちていった。

「ギャッ!!」

「行こう!ゼン!」

 ゼンはイオリを乗せてグリフィンの元へ走って行った。
 イオリの痺れ玉によりピクピクと震えているグリフィンはそれでも何かを探す様に首を動かしている。

「大人しくしておいで。お前の主人ならすぐに来るだろうさ。」

 言葉の通り、デューク達の手によって捕まえられた人間がイオリ達の元へやってきた。
 フードをスッポリとかぶった、この人物は抵抗も虚しく紐で括られていた。

「おっしゃる通り、覗いていましたよ。こちらが件の治癒師ですか?」

「そうです!この人です!!」

 長が指差す人物はブルブルと震えていた。

「カードによると、Dランク冒険者とありますね。あなた、治癒の能力は低いですね。
 何故、このような事を?ギルドの仲介など関係なく犯罪ですよ?
 あっ、因みに私はアンティティラの冒険者ギルドのサブマスなので発言には気をつける様に。」

 デュークは、怒りを笑顔で隠しフードの人物へと発言を促した。

「・・・。こんな事になるとは思わなかった。
 頼まれてやった事だから、知らなかった・・・。」

 小さく呟く様に発する声にグリフォンは必死に庇おうとするが痺れて思う様に体が動かない。

「誰に何を頼まれたんです?
 集落を襲えって?」

 小さく頷き震えるのに埒がないとデュークはフードをとった。
 一人の女性が真っ青な顔をして辺を見回していた。

「アナタをこれからアンティティラへ連行します。
 警邏隊へ身を任せたのちに、冒険者ギルドでも尋問される事は覚悟して下さい。
 長、昨日お伝えした通り街に帰ったら直ぐに人をやります。
 復興に力を貸してくれるでしょう。」

「お世話になります。」

 頭を下げる長と集落の面々に別れを告げすぐさまに馬車に乗り込んだ。
 グリフィンを載せるのに幅がいるため帰りは双子はゼンの背に乗りイオリはナギを抱えていた。

「ココ・・・。大丈夫?」

 縛られている女性はグリフィンの心配をしたがイオリの視線に気づき目を合わせた。
 
 合わせてしまった・・・。

 漆黒とサファイアの目が自分を射抜く様に見ている事に女性は居心地悪く目を逸らした。

「何がしたかったんですか?」

 静かに問うイオリに女性はビクンっ!と体を震わせた。

「・・・・。誰かに必要とされたかったの。
 仲間が出来たと嬉しかった。頼まれた事はしたかった・・・。」

「人を傷つけてまで?」

「あれは!あの人達がココを襲おうとしたから!」

「結局、お金をとって助かるかも分からない治癒をしたんですね。」

 ・・・・。再び黙り込む女性はイオリとナギを見比べていた。

 ナギは目の前の人が集落の人を傷つけた事は理解している。
 しかし、イオリが近くにいれば大丈夫と思っているのかリラックスしていた。

「旅の途中に男に誘われたの。パーティーにならないかって・・・ずっと1人だったから嬉しかった。
 彼が言ったの。仕事があるって。 
 その仕事を終わらせれば俺達は貴族に褒美を貰えるって。」

 またポツリポツリと話し始めた女の言葉をイオリは注意深く聞いた。

「グリフィンは?どうしたんです?」

「子供の頃、まだ雛だったココが怪我をしてるのを見つけて治療したの。
 その時から一緒。ココはグリフィンだけど優しい子なの・・・。」

 そう言うと、また黙り込んだ女は膝に顔を埋めてしまった。


 しばらくしてデュークがイオリに声をかけた。

「アンティティラに着きましたよ。」


 警邏隊に引き渡す時、女はもう一度イオリに声を掛けた。

「分かってた。いけない事だって。
 でも、ずっと1人だったから初めて必要とされて嬉しかったの。
 どうしたら良かったの?」

 イオリはゼンを撫でて答えた。

「アナタは気付いてないだけだ。ココがいた。
 アナタを想うココをアナタは利用したんです。
 俺にはそれが許せない。」

 同意する様にゼンも女を見つめていた。

「私は1人じゃなかった・・・。」

 涙目を見開く女の目にはココが連れていかれる後ろ姿が見えていた。
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