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初めての旅 〜天空のダンジョン〜

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 ワイバーンの階層をクリアし現れた階段を進んで行くと白亜の小ぶりな神殿が現れた。

「綺麗だな。なんて言ったけなー。
 パルテノン神殿みたいだ。」

 イオリは目の前に現れた天空の神殿に感嘆した。
 
「凄いねー。」
「雲が下にあるー。」
「本当だー。」

 子供達も今いる場所に感動しつつ、イオリの服を握り離れなかった。

『凄いのがいる。』

 ゼンとアウラは本能で感じる威圧を神殿の奥から感じていた。

『今までのとは全然違う。何かいるよ!』

 ゼンの言葉にイオリは顔を顰めた。

「行こう。」

 足を神殿へ進めると中から

「ゴォォォォォウォン。ゴォォォォォ。」

 何かの音がする。
 
 慎重に歩みを進めると神殿の奥に大きな広場があって、一面真っ白な広場に出た。

 その中央にワイバーンなどと比べられない程大きなドラゴンが居眠りをしていた。

「ゴォォォォォウォン。ゴォォォォォ。
 ゴォォォォォウォン。ゴフッ。」

「寝てる。」
「寝てるー。」
「寝ちゃってるよ?」

「寝てるな・・・。」

 どーしたものか、起きる気配のないドラゴンに些か気が抜けてはしまったが、余りに立派なドラゴンに驚きは消えない。

『どーする?起こす?』

「えっ?申し訳ないよ。寝かせておいてあげよう。」

『じゃー。起きるまで待つ?』

 イオリが悩んでいるとパティがお腹を摩った。

「イオリー。お腹減っちゃった。」

「まだ、朝ごはん食べてから時間経ってないよ?
 じゃー。おやつにしよう。」

 ドラゴンが起きるまでお茶の時間を始める事にした。
 神殿の下は太陽が当たらず風が靡いて気持ちがいい。

「天空で紅茶飲むなんて経験、貴重だね。」

 呑気にポットへ紅茶とドライオレンジを入れ、ナッツ入りクッキーと干しぶどう入りパウンドケーキを用意した。
 しかし、ドラゴンのイビキが聞こえなくなっている事に気づかなかった。

《おい。お主ら・・・。》

「うん!オレンジの香りが効いてるね。」

「パティは紅茶にお砂糖たっぷりね!」

《おいと言うとるに・・・。》

「パウンドケーキも最高!干しぶどうが良いよ。」

「やっぱり、干しぶどうはあのオバさんの店が1番だよね。」

《聞こえておらんのか?おい!人間!!》

「イオリ、ドラゴンちゃんが困ってるよ?」

「あれ?目覚めた??あっ!本当だ。」

《やっと気付きおったか・・・。
 人間、此処で何しておる?
 此処は、迷宮ぞ?》

 子供達におやつを食べさせてイオリは立って挨拶した。

「あっ、そうです!ダンジョンを進んで此処まで来たんですけど、ドラゴンさん寝てんたで小腹を満たしてました。」

 どうもー。と言う青年にドラゴンは面を喰らいながらも口を開いた。

《迷宮に来たとな?此処まで来るのに他にもドラゴンらがおったであろう?》

「はい。ワイバーンに会いました。」

《ワイバーン??
 アヤツ共は天空最初の階層ではなかったかの?他のはどうした?》

「???
 他のは会ってませんよ?
 ワイバーンの階層が終わったら此処まで来たんです。」

 ドラゴンは驚いた様に体を起こし大声を出した。

《何と!!他の階層は飛ばしてきたとな?!
 まさか、そんな人間が現れるとはな・・・。
 ??
 お主は人間か?人間だの?
 加護が強いすぎるが人間じゃ。》

 ドラゴンは一つ咳払いをすると説明し出した。
 
《この迷宮はワシらドラゴンの住処にそれぞれ繋がっておる。
 最初のワイバーンが門兵だとするとワイバーンを倒した数が評価され次のドラゴンの元に飛ばされる。
 お主らはどの位倒した?》

 そーゆー事かとイオリは頷き

「8匹ですね。」

《何?8じゃと?わっぱのクセに天晴れな数だが、此処は32階層。
 最後の間じゃ。
 と言う事は、他の奴らがお主の相手を拒みよったか・・・。》

 首を傾げるイオリにドラゴンはクククッと笑った。

《久しく見ぬ、強き者よ。お主は此処に何を求めにきた。》

「知らない世界を見に。」

 ドラゴンはイオリのオッドアイの瞳を見つめた。

《知らぬ世界のう・・・。

 ところで一体、何を食っておった。》

「お菓子です。砂糖を使った甘い食べ物ですね。」

「ドラゴンちゃん食べる??」

 魔獣に怖いものがないパティが一切れ差し出す。
 それじゃ少ないのではとイオリが切ってない丸ごとパウンドケーキをパティに渡した。

《お菓子とな?甘いものは別に好かんが貰おう。》
 
 パティはドラゴンの大きな口を目掛けて投げ入れてやるとドラゴンは嗜む様に口を動かした。

「イオリのお菓子美味しいでしょ?」

《何と・・・。
 食った事ない味だ。美味いの。
 甘いのもいいが、ワシは酒の方が好きだの。》

「どんなのが良いんです?」

《芳醇な香りの強いのが好きだの。》

「じゃあ、これかな?」

 イオリは腰バックを漁り藤色の水筒を取り出した。

「口開けて下さい。ブランデーと言う酒です。」

 ほう。とドラゴンは興味深そうに口こ開けた。
 イオリが流し入れてやる。

 ゴクンッ。・・・!!!!!!

《何だ!この良き香りは!美味じゃ!美味じゃ、童!
 もっと寄越せ! これにいっぱいに入れよ!》

 ドラゴンは目の前に大皿を出し催促をする。

 イオリが入れる側からベロベロと舐めていくのである。

「ねーねー。ドラゴンちゃん。
 下を見ても良い?」

 スコルがドラゴンに尋ねた。

《下?良いぞ小童こわっぱ
 ワシの力が纏ってあるから落ちることもなかろうが、気をつけよ。》

「はーい。行こう!」

 スコルはパティとナギを連れて走り出した。
 アウラが心配そうに首を動かすのでイオリが頷くとアウラも子供達を追いかけ始めた。

《なんだ?アヤツはバトルホースか?
 珍しい、人に従順とは・・・。
 それにそっちはフェンリルか?
 しかも純白ときた・・・。
 
 童。
 お主、絶対神の愛し子じゃの?》

「!!!
 そうみたいです。そのお酒もリュオン様からいただいたんですよ。」

『イオリはリュオン様の愛し子だよ!
 ボクはイオリの家族だよ。』
 
 胸を張って言うゼンにドラゴンはブランデーを飲むのとめずに笑った。

《今節の愛し子は変わった奴じゃの。
 菓子に酒か・・・。
 今までの愛し子と名乗る奴は大した事がなかった。
 時折、お前の様な本物があられよる。
 前の奴はすこぶる冗談が通じぬ堅い奴での、戦えと煩かった。》

 ドラゴンは懐かしそうに目を細めた。

「へー。前にも愛し子さんがいる事は聞いてはいたんですけど、初めてどんな人か聞きました。」

《そうか!髪を後で結うておいての。
 剣を構え戦え!と言っておった。
 あれは並の魔物じゃ一瞬で終わるな。
 三日三晩戦って、決着つけずに終わったわ。
 ワシが認めてやると悔しそうに戻って行きおった。》

「へー。凄いですね。」

 武士さんだったのかな?イオリは首を傾げてドラゴンの話を聞いていた。

《じゃが、お前からは敵意が見えてこん。
 何しにきたと言えば知らんものを見にだぁ?
 変わった奴じゃ!気に入った!

 お主を認めよう!迷宮は攻略じゃ!》

「えっ?良いんですか?
 ありがとうございます!」

 なんと呆気ない幕引きであろうか。
 こうしてイオリの初ダンジョン攻略は終わりを迎えた・・・。

「そー言えば。このダンジョン攻略者いないって効いてたんですけど、前の愛し子さん来たんですよね?」

《そうじゃ。この迷宮は初めてだの?
 迷宮は出来ては消滅を繰り返す。
 前の奴が来た迷宮など、200年は前に消滅しとるわ。
 何故、ワシらの住処が迷宮に繋がるなど絶対神のみ知る事じゃ。》

 酒を呑み饒舌なドラゴンは気持ちが上がってきたのかトンデモない事を言い出した。

《そうじゃ!これもあくまで迷宮!
 何もせんじゃいかんの?
 よし!今節の愛し子!勝負いたせ!》

「えー。ダンジョン攻略って言いましたよね?」

《別腹じゃ!》

 そう言うとドラゴンは空に向かって咆哮の声をあげた。

「全然ダンジョン攻略じゃないじゃん・・・。」

 イオリは重い腰をあげた。
 





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